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石 3題

2014.09.20 (Sat)


時間の順を追って話していきたいと思います。
うちは父が農業用機械の販売会社を経営しておりまして、
私が幼い頃は羽振りもよかったんです。
郊外でしたが、庭付きの大きな家に住んでいまして、
黒い大理石の塀で囲まれていました。
この塀は当時、親父の自慢の種の一つでした。
それと、家の周囲をぐるっとめぐった庭の、北の隅に石があったんです。
いや、石自体は大きな庭石が広い部分にいくつもあったんですが、
その石はホント、漬け物石のような質感と色合いでね。
漬け物石よりは少し大きかったんですが、高価なものにはまったく見えませんでした。

でも、親父も母親もその石をとても大切にしてまして、
会社から帰ってくると、どんなに遅くても酔っぱらっていても、
ガレージにあるバケツを持って、必ずその石のところに行って拭き清めていたんです。
私は、物心ついた頃から絶対にその石の近くに近寄るな、ときつく言い含められていました。
それどころか、庭の北隅に近づこうとしただけで、えらい剣幕で怒鳴られたんです。
だから小学校のときはそれに近寄ることはありませんでした。
親父も怖かったし、特に興味もなかったですから。
中学校に入学した日の夕刻ですね。
入学式に参加した親父が、晩飯前に私をその石の前に連れて行きました。
よく見たのはそのときが始めてじゃないかと思います。

さっき言いましたように、漬け物石のような丸さをもった、青っぽいざらざらした石です。
親父は「これなあ、命運なんだよ」と言いました。「命運って?」
「わが家を司るものだよ」こんな感じで、会話が成り立ちませんでした。
親父は「お前が大きくなったらこの石を祀ることになる。
 それまでに少しずついろいろ教えてやるから」そう言って私の頭をなでたんです。
でもね、教えてもらうことはできませんでした。
私が中2になった夏の夜のことです。台風が近いという予報があって風が強まってきてました。
9時過ぎくらいです。2階の部屋で勉強していると、北側の窓が一瞬緑色に染まりました。
その直後、「ドーン」とものすごい音がしました。
窓を開けて下を見ると、あの石のあるあたりを中心に、
見える範囲中に緑色の液体がまき散らされていました。
暗くても見えたんです。光ってましたから。

雷ではなかったんです。風は強くても、雷になる天気ではありませんでした。
音もあれ一発だけ。下でダダッと人が走ってくる音が聞こえました。
そしてすぐ、「ダメだーっ」という叫び声が聞こえたんです。親父の声でした。
そっからは急な展開です。学校の教科書類をまとめさせられました。
あとは服をダンボール一箱くらい、それが私の分の荷物で、
親父のワゴン車に積んで、音と緑の閃光から1時間もたたずに出発したんです。
夜中ずっと高速を走って、翌日の10時頃に海辺の市の温泉旅館にチェックインしました。
徹夜で運転していた親父は、ワゴン車を駐車場に置いたまま、
タクシーを呼んで出かけてしまいました。そして父の顔を見たのはこれが最後です。
・・・何日か母親とその旅館に逗留し、そのままその市にアパートを借りて住み始めたんです。
学校も転校することになりました。あまりにも急に生活が激変したので大変でしたよ。
父のことも石のことも、緑の閃光のことも、いくら母親に聞いても教えてもらえませんでした。

銀行のアンモナイト

その市の中学校に転校して、幸いイジメなどには遭いませんでした。
小さなアパート暮らしでしたが、2人家族でしたしせまいとは感じませんでした。
母は働いてはいませんでしたが、どこからか生活費が送られてくるらしく、
お金に困るということもなかったんです。
その転校した先の中学校で友人ができました。後藤って名前にしておきます。
そいつは生物部で、恐竜の話なんかが好きだったんです。
あるとき私に、駅前の銀行に化石を見に行かないかと言ってきました。
「博物館でもあるのか?」と聞くと、
「そうじゃない、壁に使われてる大理石に、
 古生代に封じられたアンモナイトが化石化して埋まってる」という話。

日曜日に待ち合わせをしてバスで行ってみたんです。確かにありましたよ、アンモナイト。
ブロック状の大理石の切断面にたまたま化石があればその輪郭が見えるんです。
用もないのに銀行の中にも入りました。
エレベーター横に、わざわざ壁面を額縁で囲った部分があって、
ネームプレートまでつけて展示してるんです。
「ふつうは外国産の褐色の大理石に多いんだけど、
 ここのは黒い石なのに見えるのはすごく珍しいんだよ」
後藤は自分のでもないのに自慢そうに言いました。
「そういえば俺の前の家も、黒い大理石の塀だったけど、知ってりゃさがしてみたのにな」
こんな会話をして、それからベレムナイトとか、他の化石もいろいろ教えてもらったんです。
その後、銀行の裏手の駐車場に回りました。
そこも壁は大理石で、二手にわかれて何か出てないか探したんです。

かなり広い面積でしたが、頭の高さを中心に1mほど離れて見て回りました。
あまり近づくとわからないんです。で、銀行の裏口に曲がる角にそれはありました。
・・・顔ですよ。黒い石の中の白い顔、無表情でお面みたいでした。
正面から見ると大きく目を見開いていて、口はしっかり結ばれています。
曲がり口でしたので、横からは頬の側面と耳が見えました。
知り合いの誰でもない、見たことのない顔です。
・・・今だから冷静に話していますが、見つけたときはそりゃびっくりしましたよ。
大声を出して後藤を呼んだんです。
そしたら顔が黒い壁面から顔がグググッという感じで浮き上がってきました。
顔の口が動きましたが・・・声は頭の中で聞こえたんじゃないかと思います。
「お前の親父はしくじった。命運は変わった」そう響いて顔はひっこんでいき、
後藤が走ってきたときには、何もない壁面に戻っていたんですよ。

銘石展示会

話は10年以上とびます。私は社会人になっていて、25歳でした。
あの海辺の市からほど近い別の街で一人暮らしをしていたんです。
営業に出た帰りでした。
急な雨に降られて、あるホテルの前で雨宿りをしていたんです。
営業車は少し離れた駐車場にあって、傘を持っていませんでした。
走り出したらずぶ濡れになるようなひどい降りでした。
やみそうもないので、ぶらりとホテルのロビーに入ってみました。
地階での催し物の案内看板があり、そこに「銘石展示即売会」と書かれていました。
面白そう、というわけでもなかったんですが、他にやることもないので行ってみました。
その頃は金もなくてね、ホテルの喫茶に寄るなんてできませんでしたし。
それに、石に縁のある人生だと思っていたんですよ。
階段を下りていくと、場所はすぐわかりました。

20畳ほどのスペースに白布をかけたテーブルがいくつもあり、
その上に木や金属の台座がつき、
あるいは布の上にのせられて様々な石が並べられていました。
見ている人は私も含めて3人。展示期間の末期らしく、
歯が欠けたように場所が空いてるのは、そこにあった石が売れたんでしょう。
売約済み、の札がついているものもありました。
石の値段は数千円から、高くても5万以内。
結晶が浮き出たもの、横筋が入ったものなど種類は豊富で、
中には確かに、床の間に飾っておけば様になるだろうなと思えるようなものもありました。
奥のほうにアクリルのケースがあり、その横に主催者らしき中年の男が立っていました。
上の段から見ていくと、どうやら十万以上の高価な石を納めているようでした。

そこの最下段に目をやったとき、衝撃が走りました。
昔の家にあった庭の石だと思いました。いや、正確にはその半分だけ。
石は真っ二つに割れていて、なんと400万の値がついていたんです。
断面は横向きでしたが、ガラスに映って中に白いものが埋まってるように見えました。
私が値段の高さに驚いていると思ったんでしょう。
中年男が眠そうな声で、
「それね、ただのそこらの石に見えるだろうけど大変な値打ち物なんだよ。
 残念なことに半分になってしまったけど、完品なら一千万でも買えないよ」
長年の疑問がとけるかもしれないと思い、
「これってどういうものなんですか?」と尋ねました。
「興味があるかい、でも買えないだろう。それは・・・」と男が答えようとしたとき、
急に地震が起きたんです。立っていられないほどの揺れ。

中年男は必死になってケースにしがみつき、
私は逆にガラスが割れるのが怖くて、その前を離れました。
地震は長く続き、階段をのぼって外に出ようか迷っていると、頭の中に声が響いたんです。
銀行のアンモナイトのときと同じだと思いました。
声はこう言ったんです。「お前の親父は、今、死んだ」それだけでした。
やっと揺れが治まり、後で聞いたところでは震度5強ということでした。
展示されていた石は、重さのせいか転げ落ちているものは少なく、
アクリルケースも倒れてはいませんでした。
ただ・・・あの庭にあった石の片割れは、それほどの衝撃を受けたとも思えないのに、
ケースの中で粉々に割れていたんです。思わず中年男の顔を見ました。
男は悲しそうに頭を振り、「・・・命運だよ」と一言だけつぶやいて、
あとはいくら聞いても口を開いてはくれませんでした。

『人面石』





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コメント
石に関する話も面白いものが多いですね。
蛇を彫りぬいた蛇石なんてのが時々売っておりますが、あれを買うのは厳禁のようですね。
わたしはパワーストーンもなんも一切信じない主義です。私も石の話をそのうち書いてみようと思います。
makakaraten | 2014.09.21 22:06 | 編集
コメントありがとうございます
石の話は自分の場合、普通に書いていくと中国っぽくなるので
気をつけています
宮沢賢治も石好きでしたが、ああいう書き方もあるんですよね
bigbossman | 2014.09.21 22:32 | 編集
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