写真 3題

2014.09.28 (Sun)
遺影1

引っ越し屋のバイトをしていたときの話です。全国展開の大手チェーンで、
言えばだれでも知ってる会社だと思いますよ。
そこは朝に出勤すると手配割が渡されて、当日の仕事内容がわかる仕組みになってました。
大変なのは10t車による一軒家の引っ越しで、これは5~6人で一日がかりです。
2階からタンスを下ろすとかキツくて危険な作業があるし、大型冷蔵庫やピアノ・・・
パッキングする食器やガラス類も多数あるんでうんざりします。
それに対して、アパートの部屋からの引っ越しは楽ですね。
荷物が多くないから4t車1台で済むし、パッキンする必要があるものも少ない。
ただね、現場に行ってみないとわからないこともあるんですよ。
例えば客がボデイビルダーで、計何百kgのバーベルのウエイトがあったり、
注意深く梱包しなきゃならないガンダムとかのプラモがガラスケース3つ分あったりとか w

その日は楽だと思いましたよ。一軒家ではありましたが、平屋で2部屋だけだったんです。
作業員は3人で自分がリーダーでした。客は40代くらいの男性で、髪が長く、
上下黒のトレーナーを着て、職業がよくわからなかったです。
その筋系にも見えないし、自由業の何かだろうとは思ってました。
でね、部屋に入ると客が自分で梱包したダンボール箱が3つできてて、
その他に荷物はあんまりなかったんです。
「これは商売道具が入ってて、貴重なもんだから自分でやったよ。
 あとここは仕事部屋で生活用品はほとんどないけど、
 隣の部屋に手間をかけそうなもんがたくさんあるから、よろしく頼むね」
こんなふうに言われました。
客が俺らに見せたくないものを自分で箱詰めすることはよくあるんで、
「わかりました」と言って、次の間に行って呆然としました。

四方の壁全部が、ガラス入りの額縁写真で埋め尽くされてたんです。
フレームはほとんどが漆塗りの黒で、白黒のテープがついたのまである・・・
つまり遺影なんです。全部で100枚以上はありました。
「これも大事なもんだけど、一人じゃ無理だからね。なんとか頼むよ」
会社に携帯で梱包に時間がかかると連絡してから、
3人で一枚一枚パッキンで包む作業を開始しました。10枚ほどで会社のダンボールは一杯。
もちろん事情を聞くなんて不躾なことはしませんでしたよ。
それはマニュアル違反ですから。遺影は全部違う人のもので、男女半々くらい、
老齢の人が多かったですが、若い人のもありました。ガラス部に指紋をつけないように注意して、
2時間かけてなんとか梱包を終えて、4t車に積み込んであとの2人は帰し、
自分が運転して出発しました。荷の下ろしと設置は行った先の支社のやつがやるんです。
客は自分の車で出発。行き先は県内の別の市で、ゆっくり走って1時間くらいでした。

時間は昼前でしたし、道中おかしなこともなかったと思います。
段差で揺れたとか絶対なかったです。ナビどおりに着いた先は高そうなマンションでした。
地下の駐車場で、客と支社の作業員が2人待ってました。
降りて4tトラックの後部を開けると、箱に入れてた額縁の角が、
いくつもダンボールを突き破って飛び出してたんです。・・・ありえないことですよ。
緩衝材も十分詰めて動かないことを確認してましたから。
「これは・・・すみませんです」驚いて自分が言うと、客は、
「いいんだよ。いやこれ、この人たちが自分で暴れたんだから。
 これくらい元気があってくれないと仕事にならないからね」こう答えました。
で、さっき言ったように禁じられてるんですが、好奇心を抑えかねて思わず聞いてしまいました。
「これ、何に使用されてるんですか?」客は気分を害した風もなく、
「いや俺、拝み屋だからね。御祈祷のときに使用させてもらってるんだよ。
 あんたらも憎い相手とかいたら来てよ、呪い系もやってるから。料金はサービスするよ」って。

ツーショット

先月のことです。大学の仲間に城田ってやつがいまして、
日頃から霊感があるって吹聴してるようなやつなんです。自信たっぷりというか傲慢なタイプで、
男からは嫌われてましたが、けっこう女にはモテてたと思います。
その城田が、普段は滅多に顔を出さない研究室に慌てたようにして入ってきたんです、
「やべえ、やっべえ」みたいな一人言を言いながら。手にデジカメを持ってまして、
授業の合間とかで研究室にたむろしてる誰彼をつかまえて、
自分とのツーショット写真を撮り始めました。いや、全部男とです。
城田と仲間が並んで立ってるところを、もう一人のやつに撮ってもらうんです。
で、一枚撮ったら、城田はカメラを手に戻して撮ったばかりの画像を見ながら、
「うーん、だめだな」とか言ってました。
相手を代えて何枚も撮りましたよ。俺も撮られましたよ。

後から考えると、ツーショットといっても、
城田は自分と並んだやつとの間に人一人分くらいの間隔を開けてたんですが、
そのときは気がつきませんでした。
で、研究室に来るやつ来るやつとそれをくり返してましたが、
あるやつと撮った画像を見て「お、これはいい。なびいてる、なびいてる」
とか言って、カメラを持ってどっかへ飛び出して行ったんです。
残ったやつは「何だよ、今の!?」とか言ってあきれてましたが、
まあ大学生の生活ですからね、この程度のことはそんなに珍しくもなかったんですよ。
俺もなんかの悪ふざけだと思ってましたね。
それから1週間くらいして、俺らの研究室の准教授の出版記念会があったんです。
そのとき城田と席が近くになって、
あんまり話題がなかったんで「こないだ、みなと写真撮ってたよな。あれ何だったんだ?」
と聞いてみたんです。

城田はちょっとバツが悪そうな顔をしてましたが、
「うーん、お前には関係ないから教えてもいいか」そう言って、
バッグから先日使ってたカメラを取り出しました。
「いやね、ちょっと女関係で生霊に憑かれちまったんだ。
 でね、あんまりしつこいから、他のやつを紹介してやろうと思ったんだよ。
 贅沢な女だったが、竹中が気に入ったみたいだ。
 お前には特別見せてやるから竹中には絶対に言うなよ」こう念を押され、
メモリからディスプレイに画像を再生して見せてよこしたんです。
城田と竹中が離れて立っていて・・・その真ん中に薄ぼんやりと透けた女が写ってました。
いや、学生じゃなく、どっかの奥さんみたいな年配の人でしたよ。
透けた女は竹中のほうを向いて、手を肩に伸ばしかけてましたね。
竹中には言ってないですよ、どうせ信じないと思うし。
それに何だか、今あいつ幸せそうですしね・・・

遺影2

結婚するつもりでした。あらかじめ両親には話してあり、喜んでくれてました。
私の年が年ですから、口には出さなくてもずいぶん心配してたんだと思います。
それで1ヶ月ばかり前、お相手の幸田さんを自宅に招待したんです。
父はすごく興奮してまして、上寿司やらいろんな料理を居間のテーブルに並べて待ってました。
娘の結婚相手と酒を飲むのが、昔からの念願だったらしいんです。
7時すぎにいっしょに帰宅して、スーツをビシッと決めた幸田さんは、
あんまり緊張してない感じでした。
むしろ私のほうが心配でした。幸田さんがお祖母ちゃんに気に入ってもらえるかどうかって。
で、テーブルについて、彼が挨拶をし「娘さんを・・・」と言おうとしたとき、
父が「まず、まず、それはあとで聞くからまず飲もう」ビールをついだんです。
父の隣に座った母は心配そうな様子で、
ちらちら私たちの後ろのガラス障子のほうを見てました。

居間には父の後ろに大きな仏壇があって、扉はいつも開いてあるんです。
前のほうに15cm四方くらいの祖母の無表情な遺影が飾られていました。
祖母は私をたいへんかわいがってくれていましたが、
私が中3のとき、老衰で亡くなりました。
その祖母の遺言で、遺影はつねにそうしてあるんです。
幸田さんは飲めるほうでしたので、父の話に調子を合わせてましたが、
だんだん母の顔色が変わってきて、父の機嫌も悪くなってきたんです。
これは・・・と思い、後ろをふり返ってみたんです。
後ろのガラス障子は紙を張った障子の部分が上げてあり、
黒々としたガラスに祖母の遺影が映っていました。
そしてガラスの中の祖母の顔は、ものすごい形相に変わっていたんです。
怒り心頭という感じに表情がゆがんでいました。

祖母は生前、ふだんは優しかったんですが、曲がったことが嫌いで、
怒るととても怖かったんです。仏壇にあるほうの遺影は、相変わらず無表情のままでした。
「ああ、おばあちゃんが怒っている」と思いました。
突然「あんたには娘はやれん、帰ってくれ!!」父が怒鳴り声を上げました。
「ああ、お父さん。でも・・・」と幸田さんが言いかけたとき、
父がビールのコップを投げつけました。
それはテーブルに跳ね返って割れ、幸田さんが立ち上がりました。「何するんですか!」
父も立ち上がって「母さん、バット持ってこい、バット」
母がバットのかわりにゴルフクラブを渡し、父が今にも殴りつけそうな様子でしたので、
幸田さんは逃げ出してしまいました。
父が「○美、後を追うなよ!」と叫び、玄関まで追いかけていきました。
私はその場にくずおれて泣いていたんです。それからいろいろとありましたが、
幸田さんが複数の女性への結婚詐欺の容疑で逮捕されたのは、つい1週間前のことです。



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