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山のピエロ

2014.09.30 (Tue)
今、中学2年生なんですが、先週の土曜日、父と小5の弟と山に行きました。
地元の山で標高は千m以上ありますが、冬に登る人はいないし、
これまで遭難の話なんて聞いたことがないような場所なんです。
登山が趣味の父とこれまでにも何回か登ってますが、
山中には土産物屋とか山小屋とかそういうのはありません。弟は今回が初めてでした。
県民公園から9時に山に入って、3時間少しで頂上まで登って弁当を食べました。
うちは父子家庭なので、買ってきた弁当です。
ルートはほぼ一本道で、熊の危険はありますが迷うようなとこじゃないですよ。
自分はそんなに疲れませんでしたが、弟はけっこう大変そうでした。
明日あたり足が痛いと言い出すんじゃないかと心配してました。

山頂で1時間弱過ごして、下山を始めました。
30分ほど山肌のむき出しになった道を降りていくと森林地帯に入り、
そこからは傾斜はゆるいんです。
あちこちに湧き水があって、古い木板に「○○の泉」などと書かれてあり、
石を彫って水が溜まるようにしてあるものや、ひしゃくが用意されてるところもあります。
父は、それぞれの場所で微妙に水の味が違うと言ってましたが、
自分にはぜんぜん違いはわかりませんでした。
弟はデジカメを持ってきていて、いちいち泉の写真を撮っていました。
上りではそんな余裕はなかったんです。

1時間ほど下って小休止しました。下りは上りよりずっと楽なんですが、
「無理をすると足に負担がかかるから」と父が言ったんです。
そこは何カ所目かの湧き水があるところで、飲んでみたら、
他の場所とは違って生ぬるかったんでちょっと驚きました。
「深いところの水ではなんだろうな」と父は言ってました。
自分といっしょ倒木に座って休んでいた父が、薮陰の小道を指さして、
「その奥にもたしか湧き水があったぞ。すぐそこだ。写真撮るなら撮ってこい」と言って、
煙草を吸い始めました。ところが、すぐ戻るだろうと思ってた弟がなかなか帰ってきません。
「何やってるんだ、あいつ」と父が立ち上がりました。
自分も立とうとしたら、「お前はいいから、ここで待ってろ」と言われたんです。

数分で父と弟が戻ってきました。
弟は父の後ろでうなだれていたので、怒られたんだろうと思いました。
そっからは自分も口数が少なくなって、3人で黙々と下って行ったんです。
登山路は山を巻くようにくねっていて、葉陰から下の道が見えました。
10分ほど行くと、「エイ、エイ」というかけ声ような叫びが聞こえてきました。
剣道の練習のような調子で、これまで他の登山者には出会っていないし、
なんか場違いな感じだったんです。聞こえるほうの木立に近寄ってのぞき込むと、
だいぶ下に建物があるのがわかりました。
「兄ちゃん。人がいるな」いつの間にか側らに弟が来ていましたが、
そのまま身を乗り出すようにして足を滑らせ、薮の中を落ちていったんです。

「孝が落ちた!」と叫ぶと、父が「そこ降りるなよ!回って助けにいくから」
と怒鳴りました。
2人して大急ぎで落ちたあたりまで下って行ったら、
弟は草の上でバツが悪そうに笑ってたんです。ほんの数m落ちただけでした。
「何やってんだよ」と自分、父が「ケガないか」と聞くと、
「だいじょうぶ、それよりアレ」と話をそらすように下を指さしました。
見ると20mほど下に、ぽっかり砂地になった平らなところがあり、
鉄柵に囲まれたプレハブの建物があり、大きな電極のようなものがいくつも見えました。
「父ちゃん、何あれ」と聞いたら「変電所みたいに見えるが、こんなとこにあったかな」
いぶかしげな声を出しました。

「エイ、エイ」という声がまた聞こえ始め、
鉄柵の後ろから眼鏡をかけた男の人が出てきました。
ランニングシャツに下は作業ズボンでしたが、何か変な感じがしました。
肌がすごく白くてシャツから見えてる腕や肩は、貧弱というかぜんぜん筋肉がなかったんです。
年は40歳以上だと思いました。片手でシャベルを引きずって、
「エイエイ」言いながら柵の外にある木の小屋に入っていったんです。
男は犬小屋より少し大きいくらいのそこから、片手で何かを引きずり出しました。
それはすごく場違いなもので・・・ピエロの人形だったんです。
大きさは人間と同じくらい。三角帽子をかぶり、その下には毛糸の髪の毛、目は×印で、
丸い赤い鼻・・・その下は極彩色のサーカスの衣装でした。
距離があってはっきりわかりませんでしたが、服以外はすごく雑にできてる感じがしました。

いえ、間違いなく人形です。くたっとしてたし、重そうに見えませんでした。
「エイ、エイ」男の人はかけ声をかけ続けながら、
人形を片手で引きずって砂地の中央まで持ってくると、
そこに置いてシャベルで穴を掘り始めました。
自分たち3人は引き込まれたように呆然と見てたんですが、弟が、
「あの人形、さっき泉で見たのの大きいやつだ」と言いました。
つぶやくような声だったんですが、下の男の人が手を止めてこっちを見上げました。
父は「シッ」と弟の口を手でふさぎ、「行こう」と自分の背中を押したんです。
登山路に戻って、あとは湧き水にも寄らずに下り、
県民公園の駐車場に置いてあった車で家に帰りました。
さっき見たもののことを父に聞きたかったんですが、そういう雰囲気じゃなかったんです。

部屋に戻ってさっそくグーグルアースで、あの変電所を見てみましたが、
山のそのあたりの部分は解像度が悪くてよくわかりませんでした。
そうしてるうちに、弟が自分の部屋から顔を出して「兄ちゃん、胸が痛い」と言いました。
真っ赤な顔をして汗がダラダラ流れ、熱があるように見えました。
下に連れて行くと、父が額に手をあてて「これは病院だな」
車に乗せて救急指定病院に連れて行ったんです。
父は夜8時過ぎに一人で帰ってきて、「孝は入院することになった」と言いました。
着替えの下着やパジャマなんかをまとめて衣装ケースに入れ、
また出かけるようでした。「お前もこい、腹減っただろう。帰りに外で飯を食おう」
行った先は救急の市営病院ではなく、少し離れた私立の大学病院だったんです。

弟は個室のベッドで点滴を何本も刺して眠っていました。
看護師さんが入院の手続きの書類などを持ってきて、父が書いていました。
自分が「孝はどうなの?」と聞いても首をかしげるだけでした。
そこへ「ちょっといいですか?」個室の入り口から声がかかり、
見ると白衣のお医者さんらしい人でしたが、驚きで口がきけませんでした。
昼に山の変電所で見たランニングシャツの人とそっくりに思えたんです。
でも、父は気がついた様子もなく「ちょっとここで待ってろ、説明してもらってくるから」
それから30分くらいして父が戻ってきて、
「病院の食堂まだ開いているらしいから、飯を食って帰ろう」と言いました。
食堂にはほとんど人がおらず、カツカレーの食券を買ってテーブルに座りました。

自分が開口一番「さっきのお医者さん、山の中で見た人とすごく似てるんだけど」と言うと、
父は「うん?そんなことないだろう」と取り合おうとせず、
「主治医の先生だよ、市営病院で緊急にこっちを紹介されて、
 孝だけ救急車で来たのを車で追っかけたんだ。熱は下がったが白血球に異常があって、
 明日から当分検査が続くらしい。月曜から父さんは会社が終わったら毎日ここへ寄るから、
 しばらく家で一人飯だぞ。あとでお前らの叔母さんに来てもらう」言い聞かせる口調でした。
それは前にもあったんで「だいじょうぶだよ」とうなずきました。
今日一日のことを頭で整理しようとしてみたんですが、うまくできませんでした。
特に山の変電所でのことが・・・
食べ終わって、セルフでしたので父の後について食器を返しに行きました。
返却カウンターの端に、造花の花かごと一緒に15cmくらいの人形が置いてありました。
それが間違いなく、山で見たあのピエロと同じ姿をしていたんです。

『Stitches』






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コメント
わーー気持ち悪!
ピエロの顔といい、マクドナルドの顔といい、どうもなじみません。
makakaraten | 2014.10.01 09:45 | 編集
 「ピエロの格好をしたおっさん」ではなく「ピエロの人形+奇行のおっさん」ですか。山で遭遇したら、だいたい同じくらい嫌です。
 しかし、ピエロって日本では恐怖症が育つほど生活に根ざしていないよな・・・と常々思っていましたが、他の方のコメのおかげでドナルド・マクドナルド氏の存在に気付きました。彼の日本におけるピエロ恐怖症への貢献度は多大なものですねw
| 2014.10.01 19:35 | 編集
コメントありがとうございます
山とピエロは異質な感じがするので、あえて選んでみました
bigbossman | 2014.10.01 23:29 | 編集
コメントありがとうございます
殺人ピエロは実際にそういう人物が外国にもいたんですよね
幻想文学だと移動カーニバルとかもありますね
bigbossman | 2014.10.01 23:31 | 編集
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