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死字 3題

2014.10.03 (Fri)
粘土

小学校低学年のときの話なんだ。
だから記憶が曖昧だし、ずっと覚えてたわけでもない。
こないだあることがあって、不意に記憶がよみがえってきたんだよ。
部屋で粘土で遊んでたんだ。俺はあんまりテレビゲーム系が好きじゃなくてね。
レゴとか粘土、あと家にあった児童文学全集なんかを読んでることが多かった。
外で遊ぶこともあんまりなかった。
粘土といっても、3歳の息子とおもちゃ屋で見た最近のは、
カラフルなやつばっかりだったが、
俺が遊んでたのは灰色を濃くしたような昔のものだった。
プラスチックの箱に入ってて、しばらく遊ぶと手がじとっと油っぽくなるやつ。
そのまま遊ぶと机の上も汚れるんで、
親が用意したビニールの敷物の上に出して怪獣とかこさえてた。

あるとき、粘土遊びの途中でトイレか何か用事があってその場を離れたんだよ。
で、帰ってきたら固まりになってたはずの粘土が平らに薄く引きのばされてて、
そこに顔を押しつけたような跡があったんだ。
もちろん粘土は薄いからデスマスクみたいなはっきりした跡にはなってなくて、
かろうじて顔とわかる程度だったけどな。
その顔の額の真ん中に「し」というひらがなが指でほられてた。
でっきり2歳年上の兄のイタズラだと思って、抗議しようと兄の部屋に行ったんだ。
この兄は母が再婚した義父の連れ子で、いつもイジワルばっかりされてたからね。
そしたら兄は遊びに出てるらしく自転車がなくなってて、家の中には自分しかいなかった。
たしかその日は親が町会の集まりに出かけてて、
二人で留守番をするように言いつけられてたはずだ。
心細くなって、早く帰ってこないかなと思いながらずっと粘土遊びを続けてたんだ。
ところが、8時過ぎても誰も帰ってこない。

親はともかく兄がそんなに遅い時間に家に戻らないはずはないんで、
玄関まで出てみたら外が真っ暗になってた。
それから10分くらいで義父が戻ってきたが、俺の顔を見るなり「兄が入院した」って言った。
自転車で家に戻る途中の坂道でひどく転んで頭を切り、
近くの人が救急車を呼んでくれたらしい。
兄から場所を聞いて、病院から町会をやってた公民館に電話が入り、
あわてて親が駆けつけたってことだったと思う。兄は意識はあるが頭を強く打ったんで、
一晩入院して様子を見ることになったんだ。母親が兄につきそうということだった。
で、義父が買ってきた弁当を食べて部屋に戻ったら、
さっきまでいじってた粘土がまた平たくつぶれてて、
そこに「ざんねん」と字がほられてたんだよ。
「ざ」の ゛ の部分なんて、箸先を突っ込んだように深かった。
怒られるんじゃないかと思ったか、義父には言わなかった気がする。

で、それから20年以上たって、こないだ義父が亡くなり、
これを機に母は俺の家族と住むことに決まって、実家は売り払う手はずになったんだ。
もちろん築数十年の建物は解体し、更地を売るってことだな。
物の整理をするために兄と実家に行った。
形見分けと同時に、業者が入る前にめぼしい物を回収しておこうってわけだ。
俺の部屋も兄の部屋もほぼ昔のままに保たれてて、勉強机もそのままあった。
何気なく下部の大きな引き出しを開けてみたら、
雑多なものの一番上に粘土のプラスチックケースがあった。
懐かしく思い、手に取って開けてみたら、中の粘土は赤茶色に変色してカチカチになり、
量も四分の一くらいになってたが、その固い表面に「死」と書かれてあったんだ。
さわってみると文字の部分だけ柔らかい感じで、最近ほったもんのような気もした。
それで急に昔のことを思い出して、今こうやってしゃべってるんだよ。

テープ

マンションを買ったんです。もちろん何十年のローンです。
私も30歳を過ぎましたし、結婚できるかどうかもわからないので、
一大決心をしたんです。
それに仕事のほうは順調でしたから。
アパレルの営業をやってるんですけど、大きな取り引きをまとめた成果が評価されて、
男性社員を追い越して昇進することも内々に決まってたんです。
それで、引っ越しも終わった午後のことです。
マンションは1DLKなんですが12階にあり、まわりにはあまり大きな建物もないので、
ベランダに出るとすごく気持ちがいいんです。
ラフなトレーナーのまま、両手を横に広げると布地が風でバタバタいました。
そのとき何だか叫びたくなったんです。
根城ができたこと、仕事の成功などで達成感があったんだと思います。

両隣をうかがうと、平日の午後のせいかサッシ戸は閉まって、
カーテンが閉められてるようでした。
それで、少し遠慮がちな声で、手を広げたまま「やった-」って叫んでみたんです。
声はすぐ風にかき消されてしまったので、今度はもう少し大きな声で。
そしたら、空のかなり先のほうに虹みたいなものがわき出てきました。
100m以上は離れてたと思います。高さは私がいた12階の少し上くらいです。
最初は7色の煙の固まりかとも思ったんですが、それがだんだん近づいてきました。
近くになると何だかわかりました。あの、包装用のテープって知ってますか。
私の会社でも扱ってるんですが、ギフトの装飾でリボン結びにしたりするテープです。
あれが、一色が数十本くらいの束になった状態で、
何色もからみあったまま空を飛んでたんです。
全体としては、ぐるんぐるん回転しながら玉になってる感じ・・・想像つきますでしょうか。
変なものがあるなあ、とは思いました。そのときはまだ怖いとは感じなかったんです。

でも、見てるとだんだん大きくなってくる。
かなりの速さでこっちに近づいてるんだと思いました。
生き物みたいな意志があるように、私の部屋のベランダめがけて飛んでくるんです。
空中だから距離感がよくわからないんですが、20mほどに近くなったときには、
玉は直径3mくらいあるように思えました。
「このままだとこっちに突っ込んでくる」そう思いました。
あのテープって、指が切れたりすることがあるくらい鋭いんです。
鳩よけネットがありましたが、危険を感じて部屋に走り込みサッシを閉めました。
その直後、色の固まりがネットにあたって大きく揺れるのが見えました。
テープはばらけてほとんどは下に落ちたようでしたが、
ひっかかってるものも何十本かありました。もう動かないようだったので、
不思議なことがあるもんだと、おそるおそる外に出てみました。
ネットにかかってるのはほとんどが赤のテープで、何か字の形になってる気がしました。
もう一度部屋に戻り入り口の壁まで下がったら、それは「死」という文字に見えたんです。

祈り

前に友だちに誘われて、新興宗教の教団に入ったことがあるんです。
その友だちは女です。下心があったんだろうって思われるかもしれませんが、
それはないです。きれいな人ではありましたけどね。
でも何度かセミナーに参加してみると、あまりに変なことばっかりだったんで、
半年ほどでやめさせてもらいました。
脱会するときはちょっとしたトラブルはありましたが、
こっちが弁護士を雇うようなそぶりを見せると、それ以後は関係が切れました。
え、何系の宗教かって?いや、自分はそういうの詳しくはないんですが、
あっち系・・・キリスト関係ではないです。
密教みたいなものでしょうか。
施設内に、阿修羅とか夜叉とかそういうのの古い木像がいくつも祀られてありましたから。
曼荼羅図みたいなのも見た記憶があります。
けっこう詳しいって・・・いやいや。

でね、これが徹底的に現世利益を願うんです。
日常のちょっとしたことで得をしたい。合格したい、昇進したい、良縁を得たい・・・
何でも願えばかなうみたいに言ってましたよ。
いやもちろん、誰でも適うわけじゃないんですよ、それは。
修行に応じて適うんです。まず魂の段階を高めて、
そうすれば自在力を行使する範囲も広がるってのはよくある話じゃないですか。
で、魂の段階を高めるには、瞑想なんかじゃちょっとずつしか進めないけど、
教団に寄進や報謝をすれば一気に段階が高まるっていう、
絵に描いたような金取りの形ですよ。でも、後に得られる利益を考えれば、
今寄進する額なんてわずかしいもんだって思わせるテクニックがよく研究されていまして。
かなり詳しいじゃないかって・・・いやいや。
でね、利益が得られるってことは、この世を自在に操れるってことですよね。
それには裏もあるんです。

ここの方々なら、おわかりですよね。俗にいう呪いです。
もちろん呪いなんて言葉は使わないんですが・・・バチをあてるって言えばわかるでしょう。
自分の気に入らないやつ、恨んでるやつに罰があたるようにお願いするってことです。
1回だけですが、それやってる現場を見たことがありますよ。
施設には地下があって、そこはわざと洞穴を掘り抜いたような形に装飾されてまして、
暗い中を、神像なんかがライトアップされて雰囲気が怖いんです。
そこに、呪いじみたことを行うスペースもあったんですよ。
護摩壇がありまして、とにかく煙かったです。
幹部の一人が装束をつけて壇に向かって祈祷していました。
その後ろに灰を入れた石版がありましてね。願者はそこで祈りながら、
両端の尖った金色の道具で灰の上に何度も「死」という字を描くんです。
その行をやってたのが、自分を誘った女の子だったんですよ。
ものすごく真剣な顔で、手に力を込めて何度も何度も・・・
それを見ちゃったのも、興ざめしたっていうか、抜けさせてもらった理由の一つなんです。

『死字』殷墟書卷甲骨文字

*この字はヤバイですよ力があります。




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コメント
 ふと、どの怪異もアルファベット文化圏の人が遭遇したらどうなるのかな(ていうか遭遇するのかな)? という疑問が湧きました。ほら、信仰心の伴わない十字架が吸血鬼に効かなかったりするじゃないですか・・・いやちょっと違うか。
 あと調べてみると、画像の甲骨文字は「骨を拾う人」の象形文字であろうという説がありました。なるほど一理あります。
| 2014.10.05 21:55 | 編集
コメントありがとうございます
外国人と幽霊というのは様々な話題がありますね
キリスト教やイスラムは全能の神が支配する一神教なので
建前は神の手から離れて迷う幽霊は存在しないことになってます
だから幽霊を見た場合、天使か悪魔が姿を変えたもの・・・
あるいは神に許されてこの世にとどまってる人間
さまよえるオランダ人のように、神罰を受けている人間
とはいえこれは建前なので、そういう国でも幽霊目撃談はありますし
映画のジャパニーズホラーが近年は外国人の幽霊観にも影響を与えてるようです
bigbossman | 2014.10.05 23:58 | 編集
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