音 2題

2014.10.05 (Sun)
*音テーマなんで少し擬音を多く入れてみました。

太鼓

中学1年のときの話ですね。毎年7月に町内の祭りがあったんです。
そんな大々的なもんじゃなく、どこにでもあるだろこんなのって感じのやつで、
山車を引いて、夜店が並んだ商店街の通りを山王神社まで練り歩くだけです。
ああ、でも去年から「よさこい」を踊るようになって、
商店街が寂れたのに反して前より盛り上がってる感じがしますね。
小学生の頃は山車を引くだけでしたが、
その年は中学生になったんで太鼓を叩かせてもらえることになりました。
これがかっこよくて、ずっと楽しみだったんです。
祭りは7月の4週目の土日でしたから、この月に入るとすぐ練習が始まるんです。
週3回、月、水、土でした。僕は野球部でしたが、1年なんでまだ球拾いだし、
太鼓の練習のほうが面白かったですね。

太鼓はふだん町内の公民館にしまってあるんです。公民館の隣が消防団の倉庫で、
ポンプ車なんかがある奥に、山車があったと記憶してます。
練習が始まって、お囃子は小さい頃からずっと聞いてたんで、
叩き方を覚えるのは簡単でした。でも、始めのうちは腕が疲れましたね。
30分過ぎると肩から上がらなくなるんです。
・・・太鼓は4人で、鉦が2人、笛が2人だったと思います。
最初のうちは世話役の大人の人が、
中学生一人に一人って具合について教えてくれるんですけど、
そのうちに大人は来る人が少なくなって、祭り近くなるとまた増えるんです。
町会長さんは家が近くなんで毎日来てましたけどね。

でね、その太鼓なんですが、公民館の物置から出すとき、
他のはむき出しでしまってあるんですが、一番奥にテント地っていうんですか、
あれを上からかぶせて荒縄で縛ったのが一つだけあったんです。
「これ使わないんですか?」って聞いたら、世話役で来ていた町会長さんが、
「ああ、それは皮がやぶれてるから」みたいなことを言ってました。
これは後から思い出したことで、そのときはすぐ忘れましたけどね。
練習はいつも1時間くらいでした。
外でやるんで、5時を過ぎるとさすがにうるさくて迷惑になるんでしょう。
それに、さっき言ったように腕の筋肉が1時間もやれば限界になりましたし。
町会長さんは50過ぎなんですが、一番下に高校生の娘さんがいて、
あんまり町内での評判がよくなかったんです。ここらで言うヤンキーとか、
ツッパリってのともまた違ってまして、もっと崩れた感じなんです。

一度だけ見たことがありました。僕らがお囃子の練習をしてる横を通ってったんです。
髪は金髪なんだけどすごく顔にかかってて、
少しだけ見えるあごのあたりが異様に白かったです。
練習してる僕らのほうを一瞥もしないで、かったるそーな感じで歩いてました。
今にして思えば、クスリ関係じゃなかったかと思います。
町会長さんとの仲もうまくいってなかったって話は後から聞きました。
で、練習が始まって4回目くらいじゃなかったかと思います。
その日は何でだったか、僕だけ早く公民館に来てたんです。
叩き方もほぼ覚えてやる気満々だったからかもしれません。
公民館は鍵かかってないんで、入って物を出して準備しようとしてました。
倉庫と外を往復して何個か太鼓を運んだとき、
町会長さんの娘さんがふらっと入って来たんです。

何の用だろうと思って「こんにちはー」と挨拶したんですがまったく無反応で、
フラフラした足取りで倉庫の奥までいくと、
あの皮が破れてるという太鼓の覆いを外しだしたんです。
「何するんだろう」と思いましたが、怒られるかとも思って黙って見てました。
出てきた太鼓は叩く反対側のほうが確かに破れてましたが、
自然に裂けた感じじゃなく、剃刀かなんかで切り裂いたように×印に皮が切れてたんです。
娘さんは太鼓を少し前に出し、、そこらにあったバチをとると叩き始めました。
破れ目からブワッと埃が出てきまして。
けっこう上手いなと思いました。でも、ふつう祭りは女の人は太鼓をやらないんです。
それに皮がやぶれてるからやっぱり、出てくるのは「ボヨンボヨン」した音なんです。
娘さんは腰を落とし無調子の連打を始めました。「ボヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨ」
頭を振り上げたとき片方の目が見えましたが、
まったく焦点が合ってないというか、イッちゃってる感じだったんです。

「ああ、だれか大人の人来てくれないかな」と思ったとき、ダダッと畳で音がしました。
太鼓の破れ目から何かこぼれてて、ネバネバする液体が落ちたんです。
それは薄い赤色でダラダラとこぼれ続け、僕は破れ目から視線が外せなくなりました。
カエルの手のようなものが出てきました。でもカエルよりずっと大きかったんです。
やがてネバネバした液につつまれた頭・・・カエルじゃなかったです。
それは生きてるようでした。
ボタッとうつ伏せの状態で畳に落ちて「ええあああ」と鳴いたんですよ。
僕が後ずさりしたとき、
「お前何やってんだ!」という町会長さんの大声が聞こえました。
会長さんは走ってきて娘さんからバチを取り上げようとしました。
娘さんがそのバチで会長さんの肩を何度か叩きました。
会長さんはタックルするようにして娘さんを持ち上げ、そのまま外に連れ出したんです。

一連のことを呆然と見てたんですが、我に返ると、畳の上には何もありませんでした。
不気味な生き物はもちろん、液体の一滴もこぼれてなかったんですよ。
会長さんの娘さんはそのまま入院したようでした。
やっぱり薬物中毒だったんだと思います。
公民館で見たもののことは誰にも言わなかったです。
信じてもらえないからというより、自分自身が信じたくなかったんでしょうね。
その日も太鼓の練習はあったんですが、僕は吐き気がして途中で帰りました。
祭りの日ですが、初日の宵の宮は土砂降りの雨になって山車が出せませんでした。
本宮の日は何とか小降りになって夜店も開きましたが、
神社の杜で落雷騒ぎなんかがあったんです。
え? 娘さんのお腹ですか?いや普通だったと思います。
むしろガリガリに痩せて細かったですよ。

ロケット花火

えっと3年前、俺がまだ高校生だった頃の話。仲間2人と肝試しに行ったんだよ。
ホントは3人なんだけどな。どういうことかって?それは後で話す。
そこは地元で心霊スポットとして恐れられてるとかじゃなくて、
つい数日前までは普通に使われてた地下道なんだ。
歩行者しか通れなくて線路を渡る踏切代わりに使われてたやつだ。
それが老朽化して、雨降りの日に通路に水が溜まるようになったってことで、
改修されることになったんだ。長さは50mくらいじゃないかなあ。
で、取り壊されるまでの間に、そこで肝試しをやろうってことになった。
照明が消えて真っ暗なのは確かめてあったし、
通行止めの柵なんて簡単に乗り越えられるもんだったからね。
まあね、今になってみると何バカなことをしてたんだって思うけど、
実際バカなんだから、今もこんなもんなんだよ。

で、3人っていうのはどういうことかと言うと、一人が隠れてる手はずになってたんだ。
俺も含めて3人が一人ずつ真っ暗な地下道を往復するってことにしてあったけど、
あるやつ・・・こいつはちょっとムカツクとこがあったんで、
そいつの順番で真ん中らへんまで行ったときに、
向こう側から中にロケット花火を連発で撃ち込むことになってたんだよ。
いや、リアクションを見て笑おうってだけだ。
まあ写真も撮れたら撮るつもりでいたけどな。
連発?ああ、それはペットボトルなんかにロケット花火をまとめてさしといて、
導火線にいっせいに火をつけるだけでできる。
夜の11時に一人の家に集まって少しダベってから出かけた。
その時間になると車はいるけど、地下道の側はめったに人も通らなくなる。
線路の近くだから普段からうるさいし、民家もないから苦情も出ないだろうって。

街灯があるから外は本読めるくらい明るかった。
でもな、地下道は暗かったね。ジャンケンで負けて俺が一番になったんだ。
懐中電灯はなしってことにしてあったから、正直やっぱ怖くて、
向こうの出口の灯りを目標に途中から走ったよ。
俺が1番だったんで向こうで花火持ってるやつと打ち合わせができた。
次がターゲットだったんだ。
そいつはあんまり怖がってる様子がなかったけど、まあ見た目は俺もそうだったと思う。
要するに虚勢を張ってたんだな。
そいつが「じゃ行ってくるぜ」とか言ってゆっくり地下道に入っていき、
真ん中らへんまで来た頃合いを見はからって、こっちの入口で大型懐中電灯をつけた。
これが合図で向こうにも見えるはずだった。もう一人のやつがデジカメ構えてた。
「シュルルルー」という聞き慣れた音がして、中で「パアン、パン」と花火がはじけてる。
音は反響で大きく響いたが、光はあんまり見えなかったな。

「ひえええええええ」という悲鳴が上がり、俺は思わず笑ったね。
ところがその声に少し遅れて「ぎゃああーああ」という叫びがしたんだ。
間違いなく女の声だった。最初はね怪奇現象とは思わなかった。
「ああ、マズイ。他に人がいたんだな」と考えたよ。それが当たり前だろ。
「ダダダダ」という足音が聞こえた。
これは当然向こうから撃ち込まれたんだから、こっちに戻って逃げてくるわな。
でね、そいつが出てきたときに見ちゃったんだよ。
走り出てくるやつの背中にボロボロの女がおぶさってるのを。
女は皮膚がないように赤黒くて、筋肉がむき出しになって見えてた。
フラッシュが光ったが、カメラを構えたやつも「何だコレ」って感じに呆然としてる。
「ひいい、ひいい」という悲鳴は入ってったやつのだ。
もうね、後先見ないで逃げたよ。走って走って店のあるとこまできた。

カメラ係も息をきらして追ってきたから、どうしようか相談したんだが、
ほっとけないし、地下道の向こうには花火係もいる。
それでしかたなくそろそろと戻ってみたら、
やつが道ばたの草の上に倒れてて、花火係が介抱してた。
まあこんな話だ。その後は、別に人死にとかが出たわけじゃない。
ただ、デジカメには俺らが見たもんは写ってたんだよ。少し透けてたけどな。
さすがに持ってるわけにいかなくて、カメラ係といっしょにお寺に持ってったよ。
いや家が檀家になってる禅宗のとこだ。
住職にモニター画像を見せたら、「ちょっと待ってて」と言われて、
その後いきなり、警策っていうのか?
あの座禅のときに打ちすえるやつで2人とも叩かれた。正面から鼻をだぞ。
カメラ係は鼻血を出して、俺もよっぽど坊さんを殴ってやろうかと思ったがやめた。
カメラはそのまま坊さんがでかい線香立ての灰に埋めてそれっきり。
どうなったかもわからないよ。

『祭りの山車』





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