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赤ナマコ2

2014.10.07 (Tue)
温泉が大好きだったんです。もちろん有名どころではなく、
秘湯と呼ばれるようなところですが、
最近は「秘湯の会」の提灯がある宿のほうがむしろ人気が高くなってしまって、
日帰りツアーのお客さんでごったがえし、楽しめなくなってしまいました。
そこでいろいろ考えて、
あまり人に知られていない温泉郷をネットでさがして出かけるようにしたんです。
こういうとこって、意外な穴場があったりするんです。
それだけじゃなく、宣伝のためにアンケートに答えて
無料招待券が当たるなんて企画もけっこう見かけたんですよ。

地元の関西を中心に応募していたんですが、その中の一つに当選したんです。
ペアでの一泊2日の招待券でした。
当選したというメールが来たんです。でも、ちょっと微妙なところがありました。
一つは、電車が通ってないため、車で行くしか交通手段がないことで、
私の住む市からは3時間ほどかかりました。
もう一つは、宿泊は古民家の貸し出しで自炊になるということです。
温泉はその民家から歩いて5分ほどの共同浴場に入っていただくという内容でした。
さっそく彼に相談してみましたら、
「かえってくつろげるんじゃないか。せっかくだし行ってみたい」と言われました。
彼とは、私が秘湯に目覚めた頃にとある温泉宿で知り合ったんです。

メールに添付して画像が送られてきており、
宿泊は藁葺き屋根の豪農宅のようなところで、
囲炉裏がきられ、自在鉤が下がっていました。
共同温泉のほうはよくある簡易的な施設ではなく、洞窟風呂のような作りでした。
せっかくのラッキーなんだからと考え、ご招待を受けることにしました。
5月の連休の話です。彼のアウトバックで昼過ぎに出発しました。
ご飯は竈で炊いてくださるということだったので、
食材は前もってスーパーで買い、クーラーボックスに入れて行ったんです。
献立は、夜は親子丼。朝は地元の特産があれば買うつもりでした。
2時間走って山道に入り、4時前に道の駅の駐車場に車を停めました。

そこで温泉組合の関係者の方が待っていてくださったんです。
50過ぎくらいの人のよさそうなおばさんでした。
そこから歩いて5分で古民家に着きましたが、立派な庭があり、
中には和室がいくつもありました。
そこを明日の10時まで、自由に使ってもよいということでした。
電気炬燵のある部屋に荷物を置き、
浴衣に着替えて温泉に案内してもらうことになりました。
途中、砂利道の坂を歩いていると、
トン、ドン、トン、チンと太鼓の音が聞こえました。

「これは何ですか?」彼が聞くと、「かいそさんのお祭りだよ」という答え。
「へえ、たまたまお祭りの時期にあたったんですか、ラッキーだな。見られますか」
重ねて彼が聞いたら、
「それがね、これは地元衆しか出られないんだよ。それにおなごも参加できん。
 申しわけないがな。でも、今この下の道を通るから様子は見られるよ」と言われ、
しばらく待っていると、白装束に簑をかけた姿の男衆が幟を立て、
鉦太鼓を鳴らしながら数十人で行列してきました。
長崎の「おくんち」でしたか、竜が練り歩くお祭りがありますが、
あのような形で、棒の先についた大きな赤くて長いものを、
10人近い男が持って支えていました。布団を丸めたようにも見えました。

長さ4mほどあり、赤い布でできていて中に柔らかい芯があるようでした。
それには目も口もあるように見えませんでしたが、赤い芋虫のような形で、
みなでお囃子に合わせるようにして調子よくくねらせていたんです。
「あれは?」と私が聞くと、「あれが かいそさんだよ」と言われ、
「どういう由来があるんですか?」
「詳しいことはわかんねえが、昔からこの地域に伝わってる古い祭りだよ。
 収穫のお祝いだってことだが、ほんに古い」
こんなやりとりになって、あまり要領を得ませんでした。
行列を見送ってから数分で共同温泉に着きました。

小さな板作りの建物で、少しがっかりしかけたんですが、中に入って驚きました。
小屋は洞穴の入り口の上に立ってるだけなんです。
草履に履き替えて洞穴の石の階段を下っていくと簡素な脱衣場があり、
数十m向こうまで、天然の岩の湯船の温泉が広がっていたんです。
「じゃあ、わたしはここで遠慮するから、ごゆっくり」おばさんが言ったので、
「地元の方はこないんですか?」と聞いたら、
「お祭りで男衆は出払ってるし、おなごらはあんたらに遠慮して来ないだろうな」
と言われました。さっそく浴衣を脱ぎ、
彼と手をつないで湯船に入りました。

岩はぬるりとした感触があり、
湯ノ花がたまっているようでした。かすかに硫黄の臭いがしました。
進むにつれて湯船は深くなり、お湯が胸のあたりまできました。
湯温はややぬるめでしたが、いかにもあたたまりそうな泉質に感じました。
いろんな温泉に通っているうち、そういうことが少しずつわかるようになってきたんです。
洞穴は進むにつれて天井が下がり、しまいには頭をかかめなければならなくなりました。
「これ、換気だいじょうぶかな」彼が言いました。
突き当たりは畳一枚分くらいの岩の壁で、くぼみから勢いよく湯が噴き出していました。
そしてその下に、岩を彫って作ったのでしょうか、
さっきお祭りで見たあの赤い虫のようなものがあったんです。

お祭りのの半分ほどの大きさで長さは2m程度、縦にくらべて横幅がありました。
さわると、温泉にあらわれてテロテロとした感触で、
やはり目も口もなくどっちが頭かもわかりませんでした。赤い色は塗ったのではなく、
元々そういう色の岩が濡れているのだとわかりました。
「ふーん、面白いなこれ、温泉の守り神か。
 あとで脱衣所から携帯持ってきて写真撮ろう」
彼はそう言って、しばらく岩をなで続けていました。
平たい岩の上にコップがあったので、彼が温泉水を汲んで飲み、
「美味くはないが、体によさそうな味だな」と私にもコップを差し出してきたんです。
1時間ほど温泉で過ごし、すっかり温まって1本道を宿に向かいました。
5月でしたが、来るときは寒いくらいの気温だったんです。

古民家ではおばさんが待っていて、かまどに火を入れてくださっていました。
「ご飯はできてお釜に入ってるよ。料理はこのかまどでもいいし、ガスコンロもあるよ。
 火はここも囲炉裏も寝る前に灰をかぶせててくれればいいから。
 あと、これね食事の後に食べて」竹籠に入った小さな赤い実をいただきました。
「何ですかこれ?」
「ここいらの山の野生の桃の実だよ。見かけほど酸っぱくないから。
 上の温泉はいつでも入れるから夜中でも早朝でも行っていいよ。
 懐中電灯は炬燵の部屋にあるから。
 ここらは熊なんかはいないし安心して休んでいいよ。じゃあ、ごゆっくりね」

こう言いおいて帰っていかれたんですが、5分ほどとはいえ、
夜中にあの温泉まで行くのは怖いような気もしました。
彼に話すと「夜は他にやることがあるだろ。明日の早朝に行こう」と言われました。
彼といっしょに料理を作って食べ、持ってきたワインを飲みました。
いただいた桃の実?は、外見に反して種もなくとろけるように甘く、
特産として売り出せばいいんじゃないかなんて話も出たほどです。
ときどき彼からもらうスモモののど飴にも少し似た味をしていました。
テレビはなかったので、10時過ぎには寝ることにしました。
炬燵で寝てもよかったんですが、押し入れから布団を出して敷きました。

夢を見ました。夕方に出会ったあのお祭りの夢です。
ドクン、ドクンと太鼓の音は心臓の鼓動のように変わって、
赤い芋虫をかつぐ人の人数も減っていました。
それと視線が・・・私がまるで芋虫の上に跨っているかのように変化していたんです。
道の風景が後ろに流れていき、鳥居をくぐって神社の参道に入っていきました。
石段を上っているようですが、振動はありません。
やがて境内に入り、社殿の前で烏帽子の神職が日本刀を手にして待ち構えていました。
そして、横に回り込んで、その刀で芋虫の先の部分を切ったんです。

芋虫の先端から湯気のたつ液体が噴きこぼれました。
そのとき、夢の中なのに温泉の臭いを感じたんです。
ぱっくり穴になったところから何かが出てきました。
同じ形をしたもう少し小さい赤い芋虫です。
太さは外側のよりないはずなんですが、
中に何かが詰まっているようにぱんぱんにふくれていました。
それはどっと地面に落ちて割れ、
中からまた小さな赤い芋虫がうじゃうじゃと重なって出てきたんです。

本当の生き物のような動きでのび縮みし、胴の下側に黄緑色の突起がいくつもある、
そんな生物が何匹も何匹ももつれ、くっついて重なり合って・・・・
自分の叫び声で目が覚めました。反射的に携帯を見ると午前2時過ぎ、
横に寝ているはずの彼がいませんでした。
トイレだろうか? 布団にさわってみるとひんやりとしていました。
立ち上がると強い吐き気がしました。
廊下に出てトイレに行こうとしたとき、雨戸の隙間から光が見えました。
「こっちに出てこい!」叫ぶ声がしました。彼の声です。

雨戸のつっかいを外して開けると、煌々とした明るさで目がくらみました。
たくさんの人が白い装束の上に簑をつけ、松明を持って立っていました。
彼は烏帽子を被り神職の格好をしていました。
吐き気がますます強まって、立っていられなくなりました。
私は裸足のまま髪をつかんで引きすえられ、庭に歩み出ました。
夜になって雨が降ったのか、玉砂利が濡れていました。
私はそのまま大きな木桶の前まで引かれ、座らせられました。

「豊作だ、収穫だ!」という声がしました。これも彼の声だと思いました。
木桶に顔を突っ込んだ状態でいると、背中をドンと棒のようなものでどやされました。
それをきっかけに吐いてしまったんです。
喉の奥に長いものがひっかかる感触、そして自分の口からこぼれ出てきたものが
涙でかすんだ目に見えました。あの芋虫でした。
「豊作だ、豊作だ!今年の赤ナマコのできはよい、よいぞ」大勢がこんなことを叫び、
私の口からは次々と、赤く長い生き物がぬめるように出てきて、
桶の中に溜まっていったんです。

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『これは海産の赤ナマコで、もちろん食用です』







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コメント
気持ち悪ーーーーー!
ナマコっておいしいんですけどね。
原形見たら食べる気なくしますね。
異形のお祭り、お見事です!
makakaraten | 2014.10.08 09:08 | 編集
アカナマコ、かわいいですよね。みんな気味悪がってますが。
私はナマコとかウミウシとか表面がぬるっとしたような生き物が好きなんです。
でもその夢のように増えたらさすがに不気味かも。
西條すみれ | 2014.10.08 10:57 | 編集
コメントありがとうございます
本当は生理的嫌悪感だけで押していく話は反則だと思うんですが
ここでは民俗学的な不気味さとからめて書いてみました
家では海水魚を飼ってますが、ナマコを入れておくと
あまった餌を掃除してくれます
bigbossman | 2014.10.08 22:45 | 編集
コメントありがとうございます
ウミウシは実にきれいな物が多く
海水魚店でも観賞用に売られてますが
特定の海綿しか食べないなど
餌の供給が難しくて長く生かすことができないんですね
海中に漂ってるアメフラシなんかもきれいです
bigbossman | 2014.10.08 22:48 | 編集
 前回も今回も、語り手さんはナマコを吐き終えた後、どうやって生還したんでしょうね。ルームに来て怪談として披露している以上、一応は無事に・・・と思いたいところですが、怪異イベント進行中の語り手も大勢いるしなあw
 ただ何となく、ハリウッドの寄生モンスター的な後腐れはなさそうな気がします。
| 2014.10.10 19:38 | 編集
コメントありがとうございます
実話怪談の場合は、その後の展開も書かないといけないわけですが、
この「赤ナマコ」についてはナマコをはき出す部分で話を完結しないと
蛇足をつけ足すことになりそうです
ですから本来はホラー小説として3人称とかで書いたほうがいいのかもしれません
bigbossman | 2014.10.10 22:35 | 編集
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