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じいちゃんの話 3題

2014.10.14 (Tue)
峠の猿

俺のじいちゃんが若い頃の、村での話なんだがいいかな。
じいちゃんが30代くらいのときだな。郵便局に用があって近くの集落まで出かけた。
たいした距離ではないんだが、近道するには峠を越えなくちゃなんない。
しかし峠といっても、これもたいした山じゃない。
林の中の砂利道を上ってると、道ばたに猿の死骸が落ちてた。
野生動物の死体ってのは、そんな人通りの多いとこじゃ珍しかったんだ。
すごい腐臭がして、死んでからだいぶ時間がたったもんだろうと思った。
寄って見ると仰向けの大の字になってたが、なんと顔に目がなかったっていう。
鼻や口は普通にあるが、目の部分は皮膚に覆われてて何もなし。
体から汁が出ていて、ウジがわき虫が集まってたそうだ。

背中がぞくぞくしたっていうが、そりゃそうだろう。
奇形かとも思ったが、猿の体は成獣のそれで、
目のない猿が群れの中でそこまで長く生きられるとは思えなかった。
気味が悪くて早々にその場を離れ、帰りは下の道を帰ったそうだ。
で、その日の午後に町会の例会があって、それは月に2度、
酒を飲む口実みたいなもんだったらしい。案の状その日もたいした話はなかった。
コップに日本酒がつがれる頃になって、
じいちゃんは隣に座った仲間に峠の猿の話をした。
そしたら両脇のうちの、独身の一人が「俺は今日そこ通ったが、そんなもんはなかった」
っていう。時間を聞いてみたら、じいちゃんが通る10分ほど前だ。
でも、じいちゃんには猿の死骸はずっと前からあったように思えた。

それで言い争いになって、そいつと一緒に見にいくことになった。
時間は9時過ぎ。峠の頂までは往復40分ちかくかかるが、
酔い覚ましにはちょうどいいだろうってことで、
暗い中を懐中電灯を持って2人で出かけた。
猿を見たあたりに近づくと、やはり腐臭がしてきた。
「ほら臭うだろ」「いんや、臭わねえ」 こいつ意地張ってるなと思った。
で、確かにじいちゃんには猿の死骸が見えたんだよ。
懐中電灯で目のあるはずのあたりを照らしたら吐き気がしてきた。
「ほらこれだ」じいちゃんが指さすと、
連れは「ねえよ。虫がいるだけでただの草むらじゃねえか」こう言ってそこらを踏んだ。
猿の体が踏まれて動くのがじいちゃんには見えたそうだ。

しかし連れは「ねえだろ。なんもねえ」さらに力を込めてどこんどこん踏んだんだ。
これ以上言うとケンカになると思ってじいちゃんは黙った。
そっからは口もきかないで帰ってきたんだそうだ。
で、その知り合いは3ヶ月後に木の切り出し中、大木の下敷きになって死んだんだよ。
折れた枝が刺さって顔がつぶれたひどいありさまで、
すぐに火葬しなければなんないほどだった。
葬式があって、それからもときどき線香をあげにその家に通ってたんだが、
だんだん腐臭を感じるようになった。
その家には50代の母親しか住んでなかったから、じいちゃんが頼まれて家の中を調べた。
そしたら天井裏に入ったとき、ぐずぐずに崩れた猿の死骸を見つけたんだよ。
大きさはあの峠で見た猿と同じくらいだったが、顔にはちゃんと両目があったそうだ。

襖の血

これも今のと似たような話なんだ。じいちゃんが50代かな。家に嫁、俺の母親だな。
これを迎えるってんで、家の改装をした。そんときに襖も貼りかえたんだよ。
華やかなのがいいだろうってんで、町の表具師に頼んだ襖は椿の絵柄にした。
ところが、それから襖絵が気になるようになった。
夢を見るんだ。その襖にザザッとばかりに血がしぶく、ただその場面だけをくり返し見る。
いや、その襖の椿の花は白で、血を連想させるようなもんじゃなかったらしい。
それで、思い切って売っぱらっちまおうかと思ったそうだ。
じいちゃんは家長だから、そのあたりの判断は一人でどうにでもなるんだが、
いちおう家族にも相談したら、俺の母親が、
「そうしていただくとありがたいです。襖絵がなんだか気味が悪くて」
こんなことを言ったらしいんだ。

それで、表具師に引き取ってもらうことになったが、
金は払ってもらえず、新しく入れる襖の代金を安くされただけだったそうだ。
でな、「俺としたことが、たかが夢ぐらいで損を引いたか」と思って、
母親に「なんであの襖が気味悪いとお持ったかね」ときいてみたそうだ。
そしたら母親が言うには、
「あの襖絵から、夕暮れ時になるとたらたら赤いものが畳にこぼれてきて、
 拭こうと思ってぞうきんを持っていったら消えてなくなっていた。
 そういうことが数回あった」
それで、どういうことかはわからないが、
やっぱりあの襖は悪いもんなんだろうって納得してた。
それから2年もたった頃、町で殺人事件があったんだよ。

若い嫁さんがその家の姑に色恋をしかけられて、包丁で姑を刺したっていう。
このことは新聞にも載ったし、町はおろか県内でも殺人なんてめったにないとこだったから、
じいちゃんも当然話は知ってたし、あれこれ噂もしたらしい。
ただ、そこの家が表具師からあの襖を買っていった家だってことは、
長年知らずにいたっていう。ま、新聞に現場写真が載ったわけでもないだろうしな。
それが何年かたって寄り合いでたまたま表具師と飲んだときに、
そこが襖を買い取った家だってことを聞かされたんだ。
さあね、襖に血が飛んだかは、表具師も知らなかったようだよ。
あと、これをしゃべっていいもんかどうかわからないが、母親にもこのことを聞いたんだ。
じいちゃんが亡くなった後だけどな。母親は、
「そうね、あの襖は怖かった。・・・それとあの頃のおじいちゃんも」 ぽつんと、
こう答えたんだよ。

山ナシ

最後の話だ。これはじいちゃんがとうに亡くなって、俺が50代になったばかりの頃だな。
その時分にはもう米作りはやめてて、建設現場に毎日出てたんだ。
それが10月に入った朝の出がけ、家の門を通ったあたりで、
コンと頭に何かが落ちてくるんだ。もちろんそんときはヘルメットはかぶっちゃねえ。
でね、地面を見ると何も落ちてないんだ。上は何もねえ空だよ。
3日、同じことが続いた。まるでねらってるみたいに、俺の頭の天辺にコツン。
おかしい、何かあるなとは感じてたが、その晩に夢を見た。じいちゃんの夢だ。
じいちゃんは死ぬ直前の年ごろで、にこにこ笑いながらコップ酒を飲んでるんだ。
コップの中にころんと見えるのはサルナシで、
じいちゃんは秋口になると山でこれを拾ってきて、焼酎に漬けて酒をこさえてたんだ。

じいちゃんはコップを干すと、一杯機嫌の顔で、
○○と俺の名を呼び、「裏門から出て、お諏訪さんへ行け」って言う。
ここで目が覚めた。お諏訪さんてのは、ここらの氏神になってる諏訪神社のことだ。
でね、その日は朝早く、夢でのとおりに裏口から出た。
例のコツンはなかったよ。そのまま誰もいない道を神社まで行った。
それでな、神社の一番鳥居をくぐったところでコツンが来たが、玉砂利を見ると、
サルナシが一個落ちてたんだよ。まだ熟れてない固いやつだった。
それを拾って境内に入っていったら、神職が早起きして枯葉を掃いてた。
そのサルナシを渡し、夢でみたことやら事情を話して、
お祓いをしてもらったんだよ。

もちろんその後で仕事に行ったんだが、山の造成をしてたんだ。
俺はショベルカーの免許を取ってて、その日もそれに乗るはずだった。
ところが急に配置換えがあって俺はコンクリ練るほうにまわされ、
重機は別のやつが乗ったんだ。
でな、事故が起きたんだよ。突然地面が陥没してショベルは横転し運転手が亡くなった。
ああこのことだったんだな、ってわかったよ。
でなあ、俺なりに考えてみたんだが、じいちゃんには何か先のことを見通せる力があって、
ただそのことを本人は知らなかった。知らないんだが、
目ん玉のない猿とか襖にかかった血とかの形になって現れてきたんじゃないかってな。
死んだ後も俺を気遣って教えてくれたんだろう。
それにしても怖いと思うのは、俺らの他の誰かが必ず死んでるってことだよ。



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コメント
さむどの屏風の話を読んだら、なんとなくこの襖の話を思い出して読み返したくなりました。

三題の連作形式だったとは忘れていましたが改めて読み直して、
短いエピソードでさらさら読めてしまうのに三題それぞれの怖さがありつつ、
最後にまとまりもあって完成度高いなと思いました。
★ | 2018.08.09 21:36 | 編集
コメントありがとうございます
そうですね、この襖の話は自分でも印象に残ってます
bigbossman | 2018.08.10 00:42 | 編集
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