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一つ目

2014.10.19 (Sun)
天目一箇神

大学で民俗学の研究をしています。といっても職はまだ非常勤講師ですから、
複数の大学をかけ持ちして食べていくのがやっとなんです。
で、夏休み前です。調べ物である大学の図書館に入ったとき、
私が日本史を教えている女子学生から質問を受けたんです。
たしか太田という名前でした。
授業では席の前列に座って積極的に質問をしてくる子でしたので覚えてたんです。
長い黒髪を後ろで束ねて化粧っ気がないんですが、和風の美人でした。

「一つ目の神って、先生ご存知ですか?」
「うーん、日本神話で出てくるのは天目一箇神(あめのまひとつのかみ)だね。
 片目というか、顔の真ん中に目が一つしかないイメージがあるみたいだ」
「それはどういう神様ですか?」
「鍛冶の神様って言われてる。天照大神が天の岩戸に隠れたときに、
 刀や斧を作った鍛冶の神とされているね」

「鍛冶って鉄でいろんなものを作るんですよね」
「そう。鍛冶屋だから鉄を炉で熱して、真っ赤になったところをトンテンカンと打つ」
「鍛冶屋をすることと一つ目って関係があるんですか?」
「あるみたいだよ。日本神話とギリシア神話の類似性はいろいろ言われてるけど、
 そこに出てくる鍛冶の神、というか巨人だな。
 これがサイクロプスといってやっぱり一つ目なんだ」

「共通するイメージがあるんですね。
 ギリシア神話のほうがずっと古いはずだから、
 日本にその話が海を渡って伝わってきたんでしょうか」
「それはちょっとわからない。神話が文字化された時期で考えると、
 向こうの方が1000年は古いから、伝播したってこともありえると思うけど、
 鍛冶の職能からくるものかもしれない」
「どういうことですか?」

「鍛冶が鉄の色でその温度をみるのに片目をつぶっていたこと、
 あるいは火の粉を受けて失明する職業病があったことから、
 そうなったんじゃないかとも言われてるんだ」
「あーなるほどです。昔は顔を覆うマスクみたいなのもなかったでしょうから」
「うん。鉄工所で使う耐火ゴーグルのことだね。その考えは面白いな」
「どうしてですか?」

「天目一箇神はお面とも関係があるんだ。ひょっとこって知ってる?」
「あの、おかめとペアになってお祭りで踊ったりする」
「そう。ひょっとこは火男と漢字で書いて、天目一箇神と同一視されたりもするんだ。
 あの口がとんがってるのは鍛冶の炉に火を吹き込むためらしい」
「面白いです。民俗学っていろんなところでつながりがあるんですね。
 でも、ひょっとこは一つ目じゃないですけど」
「うん、そこはよくわからないんだ。で、どうしてこんな質問をしたの?」

「もうすぐ夏休みに入って田舎に戻るんですけど、
 私の実家のある村ってすごい辺鄙なとこで、
 一つ目の神様を祀ってるんです。この休み中に歳の例祭もあるんです。
 それで、両親の話だと私が今年の巫女役をやるって決まっているみたいで」
「へえー、それは面白いな。天目一箇神のお祭りはあんまり聞いたことがない。
 というか祀っている神社そのものが少ない。ぜひ行ってみたいとこだけど」

「来ていただければ歓迎します・・・と言いたいんですけど、
 村の人だけでやるお祭りなんです。だからこれまでほとんど知られてなくて・・・
 それに村には泊まるところもないですし」
「いや、たぶん忙しくて無理だから、気にしなくてもいいよ。
 それで、巫女役ってどんなことをするの?
「それが、村の中でもお祭りに参加できるのは男衆と巫女役だけなんです。
 これまで一度も見たことがないんですよ。
 だから詳しいことは実家に帰ってから打ち合わせるみたいです」

「うーんそれ、何だか怖い気もするな。金田一耕助が出てくる話みたいだ」
「金田一って、犬神家とかですか。いや、そんなことはないですから。
 巫女役をやった人はみんな元気で、もうほとんど結婚してます。
 過疎化が進んでるので、未婚の女子ってもうほんと残り少ないんですよ。
 私の後、何代続くか心配なくらいで」
「それはそうだろうね。日本各地で貴重な民俗行事がどんどんなくなっていってる」

こんな話をしたんです。
興味深い祭りだと思ったんで、どうせ夏中は暇なので行ってみようかと思いました。
村人以外の秘密の祭りって聞いたら、これは興味がわくじゃないですか。
宿泊はテントでもできるし、そういうフィールドワークは慣れてるんです。
よそ者だからって、まさか今時とって喰われることもないだろうし。
まあこんなことがあったんです。
ああ、それと天目一箇神について、もう一つ彼女に説明していないことがありました。
ちゃんとした学問上の説ではあるんですが、
ちょっと下ネタと受け取られかねない内容で、
今はセクハラも厳しく言われてますし、若い女性にはどうかなと思ったんですよ。

大(おお)クマラ様

村の神社のお祭りがもうすぐあるということで、中学校でお面づくりをしました。
「クマラ様」のお面です。僕は3年で、毎年やってるから作るのは慣れてました。
木の型があるので、それに和紙を何枚も重ねて貼りつけていくんです。
ある程度の厚さになったら目の部分を抜きます。
孔を開けるんですが、これが一つ目なんです。
それも顔の真ん中に。大きな目なので、かろうじて孔の両端から前が見えます。

あと10cmくらいの木の筒を、
和紙で面の顔の下側にうまく垂直に立つようにくっつけます。
これは中が空洞になってて、口のつもりなんです。ね、変な顔でしょ。
人間とは思えないけど、これが村のずっと昔のご先祖様なんだということでした。
僕たちが作ったお面は村の男衆が祭りのときに被って、
終わったら燃してしまうんです。
村立中学校の3年は15人で、そのうち男は7人です。女は作りません。
でもお祭りに出る男衆は30人前後なので、一人5つまでいかないです。

それと村の人口が少なくなって、今年から僕たち3年の男子だけ、
お祭りに参加させてもらうことが急に決まったんです。
お祭りは夜中に行うんですけど、夏休み中なので問題はないです。
村の大人の人は、僕の両親も含めて普段はお祭りの話はしないので、
ずっと興味があったんです。今年始めて参加することになってワクワクしてました。
期日は8月7日の夜で、その日は朝から裏山にある神社に幟が立つんですが、
いつもと違うのはそれくらいで、
お囃子が鳴るわけでもお神輿が出るわけでもないんです。

夜の9時に公民館に集まりました。
同級生はみんな来てたし、市の高校に通ってる先輩もいました。
あとはうちの父なんかの男衆、最年長が55歳までで、
それを過ぎた人は「お役御免」といって出られないんです。
公民館の和室で白ふんどし一丁に着替えさせられました。
裸でもまったく寒くはなかったです。
正直言って恥ずかしかったですが、年上の人たちも全員がそうなので・・・

正装した神主さんが来て、和室にみんなが並んで神棚の下でお祓いを受けました。
それから神酒を杯で飲むんです。僕たちも一杯ずつ飲まされました。
中学生には砂糖を入れて甘くしてあると言ってましたし、
飲みにくいとは思いませんでした。
体がぽっぽっと火照る感じがしました。
みな井戸水をかぶりましたが真夏なので平気でした。
それから、普段は小屋に荷車にのせてしまってある一つ目様を出しました。
この一つ目様は始めて見ました。クマラ様と同じ神様なのか、
そこはよくわからないんですが、丸太でできた3mほどの棒です。

それが・・・ちょっと言いにくいんですが、
おちんちんの形をしてるんです。びっくりしましたよ。
これを皆でかついでクマラ様の神社まで石段を登るんです。
かつぎやすいように藁を巻いてましたが、おちんちんの先っぽは出てるんです。
僕たちは自分らで作ったクマラ様の面をかぶり公民館の前に出ました。
そしたら神主さんが女の人の手を引いてきました。
知ってる人で、大きな街の大学に行ってるお姉さんです。
口を聞いたこともあるんですよ。

お姉さんは薄い白い着物を着ていて、肌が透けて見えるようでした。
頭に赤い冠のようなものを被っていました。お姉さんは恥ずかしそうな様子で、
神主さんに手助けされて一つ目様に跨り、
町会議員の○○さんのかけ声とともに一気に持ち上げました。
たぶん何百kgの重さがあるんでしょうが、
30人ちかくで担ぐので、それほど大変じゃなかったです。

配置が、大人の間に中学生が入る形になってたので、
負担が少なかったんだと思います。
藁についてる縄を持つんです。そのまま先頭が走り出したので、
後ろから押される形でついていきました。
かけ声を真似ながら叫んでいると、
さっきのお酒のせいかびしょびしょに汗が出てきました。
でも、気持ちよかったんです。なんかスポーツをしている感じでした。
ただ、クマラのお面の一つ目は先が見えにくいので、
石段を登る足下が危なかったです。

僕の後ろにお姉さんの片方の足がきていました。
履き物はなくて素足です。それがブラブラ揺れて、僕の背中に当たりました。
石段はそんなに長くはないです。高い山じゃないですから。
体と体がぶつかり、汗まみれになったところで、
鳥居をくぐって山頂のせまい境内に入りました。
篝火の他に、社殿の前にはたくさんのロウソクが灯されていてすごくきれいでしたよ。
賽銭箱や鈴などは取り払われていました。
下からついてきた神主さんが息を切らしながら、
「大クマラ様にお出まし願う」と言いました。

一つ目様を担いでいた何人かの大人が社殿に入り、ずしっと重さが増しました。
大人たちは社殿の奥から何かを引き出してきました。
台座の上に銀色のぴったりした服を着た人があぐらの形で座っていたんですが、
ピクリとも動きません。頭には巨大な一つ目のお面をつけてました。
緑色のぶつぶつのある面です。近くの大人の人が「人形だよ」と教えてくれました。
人形は社殿の前まで出てきましたが、
背中に支柱があって倒れないようにしてるのがわかりました。

神主さんが祝詞を唱え、神前に酒、肴をお供えしました。
「年毎のご挨拶と、ご無事のお帰りをお祈り申して」
そんな言葉が聞こえたと思います。
みなが歌い出しましたが、時間がなくて習ってないので節がわからず黙ってました。
その後、またなにやら儀式があって、人形は後ろに引っ込められました。
そして社殿の戸の両脇に大人が一人ずつつきました。
僕たちは一つ目様をかついだまま10mほど後ろに下がり、
そこから神主さんのかけ声に合わせて神社のほうへ突進したんです、
お姉さんを乗せたままで。

きっと一つ目様を社殿の中に投げ込むんだろうと思いました。
そんなことをしたら床が壊れちゃうんじゃないかと考えたんですが、
勢いよく突進した一つ目様は、
お姉さんを乗せたままドーンと大きな音をたてて中に落ちたんです。
そのとき足を上げていたお姉さんが前にのめって大クマラ様の人形にぶつかりました。
人形の面がずれて、その下の赤黒い大きな穴の開いて目鼻のなくなった顔が見えました。
大人の人がすぐに戸を閉め、これで祭りはほとんど終わりです。
少しまた祝詞があって、僕たちは水をかぶり、焼いた餅をもらって下にもどったんです。
あとは篝火でクマラ面を焼いてお祭りは終わりました。



一つ目の神、天目一箇神については、
ほぼ大学の講師の先生が上でおっしゃってるとおりですが、少し補足すると、
『古事記』の岩戸隠れの段で鍛冶をしていた天津麻羅と同神とも考えられています。
「麻羅」というのは、片目を意味する「目占(めうら)」に由来するという説もありますが、
一方でこの音は「魔羅」を思い起こさせます。これは男性器を洗わす仏教的な隠語で、
「仏道修行を妨げ、人の心を惑わすもの」から転じて、
僧侶の間で用いられるようになったのだそうです。
ところで、男性器は「目」にも例えられますね。「一つ目小僧」とかです。
講師の先生はお祭りを見に行ったんでしょうか、どうなったんでしょう。

『泥田坊』この片目の妖怪も男性器との関連が指摘されている




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コメント
天津摩羅と魔羅との関係についてですが、Wikipediaには「この説は後世の附会である」との記述があります。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/天津麻羅
| 2016.12.11 09:33 | 編集
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