子どもの頃の話 3題

2014.10.27 (Mon)
幻肢

わたしが子どもの頃の話をします。昭和の30年代ですね。
日本が高度成長期に入っていた時期です。当時は地方の市に住んでいまして、
今もまだそうですが、そこいらは3世代同居が多いんです。
長男は大きな家を建てて両親を引き取り、自分らの子どもとともに住む。
うちにも祖父さんと祖母さんがいまして。まずは祖父さんのほうの話から。
祖父さんはずっと農業をやってましたが、右手の肘から先がなかったんです。
昭和初期の戦争でやられたんですね。
それでも、片手でどんな作業も器用にこなしてましたよ。
ただ、幻肢痛っていうんですか、それともただの神経痛だったのかもしれませんが、
切断した腕の切り口周辺が痛むことがあって、冬場はよく湯治にいってました。
あと、戦争から帰ってきてから急に信心深くなったらしく、
地元の神社にしょっちゅうお参りに行ってましたよ。

わたしも祖父に連れられて、その神社には何回も行きました。
何の変哲もない小さな社殿の田舎神社なんですが、小高いところにあって、
急な石の階段をのぼって行かなくちゃなんないんです。100段近くあったと思います。
小2くらいだったと思います。日曜の午前でした。
その日も祖父さんに手を引かれて階段をのぼっていました。
あと10段ほどで登りきるというあたりで鳥居が見えてきましたが、
鳥居の上におかしなものがいることに気がつきました。
一言で言えば髪の毛の玉です。大きさは。そうですねえ、
人の頭より大きかった気がしますが、
子どもの目から見たものですからねえ。実際はもっと小さかったかもしれません。
もつれ、絡まり合った長い髪の毛の束が渦巻いていて、目も鼻も・・・というか、
顔らしき部分がありませんでした。
驚いて祖父さんに知らせました。祖父さんは「うん?」と言って眼鏡をかけ直しましたが、
わたしの手を握っていた左手に力がこもりました。

と、そのとき、毛玉が鳥居の上に浮き上がり、
すごい速さで、しかもわたしの顔めがけて突っ込んできたんです。
せまい急な階段の上ですからね。
祖父さんはわたしの前に出ようとしましたが間に合わない。
毛玉はみるみる目の前にせまって・・・
そのときです。祖父さんがもう一方の腕、手のない右腕の肘を振り回しました。
ところがそこにね、手があったんですよ。銀白色に輝く肘から先が。
その手を手刀にして、祖父さんは毛玉を上から叩きました。
毛玉は地面に落ち、びしゃっと濡れた音がしました。
数秒、階段の上で蠢いてから垂直に飛び上がり、
毛玉はそのまま急上昇して消えてしまったんです。
祖父さんはぽかんとした顔をして、自分の右腕を見てました。
いつもどおり、肘から先はなかったです。

わらび餅

小4のときのことでした。今度は祖母さんの話です。
祖母さんは苦労人で、7人の子育てをしましたが、その長男がうちの親父です。
親父は勤め人でしたが、その数年前に何を思ったか急に勤めをやめ、
銀行から金を借りて、養殖した小エビの卸を始めたんです。
商売の経験なんてなかったですからねえ・・・
当然のように上手くいかず、家の生活は苦しくなりました。
恥ずかしい話ですが、わたしの給食費にもことかく有り様でした。
でね、大きな支払いの期日が迫っているのにどっからも金が入るあてがなくなって、
追い詰められたことがあったんです。
このままでは家屋敷を売って、祖父さん祖母さんは他の兄弟のところへ・・・
そんな話が出たとき、祖母さんが「よしゃわかった、明日はわらび餅を作ろう」
こう言ったんです。

家族はみな祖母さんが呆けたのかと思いましたよ。
ただ、祖父さんだけが「おっ」という顔をして、
「その手があったか」とつぶやいたんです。
翌日、祖母さんは春にこしらえたわらび粉を取り出して、鍋に水と入れてかき混ぜ、
祖父さんのほうは小豆を煮始めました。
ここらの地方では、わらび餅と粒あんを混ぜて食べるんです。
親父は、この一大事に何をやってるんだと思ったでしょうが、
その日も朝から金策に出ていっていませんでした。
わらび餅ができあがり、学校から帰っていたわたしは
食べさせてもらえるかと思ったんですが、そうではなく、それと酒を竹籠に入れて持ち、
祖父さんと2人でさきほど話した神社へと登ったんです。
祖母さんのほうはもう、その階段を登るのは無理になっていましたから。

で、神社の境内はさして広くないんですが、
主となる社殿の両脇にいくつか小さなお社がありました。
なに、お社といってもダンボール箱ほどの大きさの木箱に高い足がついているものです。
そのうちの一つの前に行って扉を開けました。
中には煤けた和紙に包まれたものが祀られてあって、
その前に御神酒の杯と皿があったんです。
祖父さんに「これは何だ?」と聞きましたら、「こんせい様だよ」との答え。
杯と皿を取り出してよく洗い、お酒とわらび餅をお供えしたんです。
それからわらび餅は本殿のほうにも供えました。
で、祖父さんはこんせい様の社の前で長いことお祈りをしていまして、
わたしもマネゴトはしましたよ。それがやっと終わっての帰り道です。
石段を下り始めて何気なくふり返ると、草むらに金色に輝くものが立っていました。

・・・昔の小判です。あれを何十倍も大きくした、大きな猫くらいのものが
草の陰から光を放っていたんです。
祖父さんに知らせると「ああ、こんせい様」そう言って、
またしばらく片手を立てて拝んでいました。輝くものはいつしか消えてましたね。
で、親父の商売のほうなんですが、宝くじが当たったとか、
そういう派手なことがあったわけじゃないんですが、
援助してくれる人が現れたり、新たな銀行の融資が決まったりして、
とんとんと良くなっていったんです。
まあ最終的にその商売はやめたんですが、家屋敷を売り払うといったことはなかったです。
後にこのときのことを思い出して、祖父さんに「こんせい様って?」と尋ねたら、
紙に「金精様」という字を書いてくれましたよ。

ヘリウム風船

小6のときのことです。たぶん最初の話に関係があるんじゃないかと思います。
神社のお祭りがあったんですよ。
当時は例の石段を駆け上って御輿が本殿まで登ってましたが、
危険だということで今は取りやめになっています。
地元民しか参加しない祭りなので、夜店、屋台も階段の下に十ほど出るだけです。
夏の盛りですね。祖父さんといっしょにお祭りを見に行きました。
その頃はもう手をひかれるということもなかったですし、
社殿にお参りしたら友だちと合流することになっていました。
人はけっこう出ていましたよ。百人はいたと思いますが、
これは銀行の主催する歌謡ショーを見に来た人も多かったでしょう。
で、祖父さんの後ろをぶらぶら歩いていくと、
人波の上に青色のヘリウム風船が浮かんでいました。

ああ、だれか手を離したんだな、と思いましたが、
その風船はそこから上昇していくわけでもなく、人の頭の上を右に行ったり左に行ったり、
うろうろ漂っているんです。それって動きとしてはありえないでしょう。
見ていたら、風船は目標を見つけたかのようにスーッと降りてきて、
浴衣を着た女の人の背中に負ぶさって眠っている2歳くらいの男の子、
その頬にペタと張りつくようにしたんです。
不思議だなと思ったし、なんとなくよくないものを感じて祖父さんに知らせたんです。
祖父さんは一目見て「また悪さしとるな」そう言うと、
人をかきわけて風船のほうに近づいていき、左手を伸ばして、
神社にお供えするお米を入れてきた壺で、風船を突っついたんです。
風船は弾かれたように10mも宙をすっ飛びました。

で、電線にあたってパンと弾けたんですが、中から出てきたのはなんと、
最初の話に出てきた髪の毛の束なんですよ。
どうゆう具合にしてか、風船の中に入っていたんですね。
髪の毛の束は、未練がましい様子でしばらくとどまっていましたが、
やがて闇の中に消えていきました。
祖父さんに「あれは何だったの?」と聞いても「さあな、このあたりに昔からいるもんだ」
と要領を得ない答えでした。
続けて「あのままだったら、さっきの子どもはどうなったの」とも聞いてみましたが、
「なんでも悪い夢を見て引きつけを起こすとか言われてる」と言われました。
その後、わたしに息子ができて妖怪図鑑を買い与えたときに、
その中に出てくる「おとろし」というものに似ていることに気づきました。
ただこんなふうな目鼻はなかったし、
そもそもその地方には、そういう妖異の言い伝えもなかったんですよ。

『おとろし』





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コメント
 お祖父さんの白銀の手刀、かっこいいなあ。相手が妖怪だと、信心が報われる話もしっくりきますね。
 あと、怪異の描写は毛羽毛現かと思いました。おとろしもそうですが、妖怪って具体的にどんな害があるか伝わっていないものも多いですよね。
| 2014.10.30 16:35 | 編集
コメントありがとうございます
「おとろし」は神社の鳥居の上にいて
そこから落ちてきて人をおどすと言われていますが
何が元になっているのかは謎です
まあ、そういうもののほうが想像する余地があって
いいような感じもあります
bigbossman | 2014.10.30 22:41 | 編集
これ、「黒玉」かもしれません。
http://kitsunekonkon.blog38.fc2.com/blog-entry-3136.html

私も14年前に見たことあります。
http://blog.goo.ne.jp/kitsunekonkon/e/926f77e58646dbf9a90a6e6185906d3b

「おとろし」はもっと大きいそうです(乗用車くらい)。
http://youtu.be/Cm6ZbfTLQjw
王子のきつね | 2015.01.30 10:36 | 編集
コメントありがとうございます
黒玉のほうが目鼻がないぶん、話の内容に近いですね
実に興味深い体験をなさっていて正直驚きました
自分は怖い話の創作の他に実話も集めてるんですが
奇妙な体験には透明ペットボトルがらみのものが多いんです
何かあるのでしょうかね
bigbossman | 2015.01.30 23:56 | 編集
確かに、ペットボトルにかんする怪談が多いですね。

ただ、実話・創作怪談は、その時代の流行ものや最先端の話題が多く登場するようです。

1848年に起きたハイズビル事件(ニューヨーク郊外の民家で起こったポルターガイスト現象で、近代スピリチュアリズムの起源となっている)では、フォックス姉妹が音を使って霊と交信したのですが、そのやり方が当時普及しはじめた電信のモールス信号とよく似ていました。

近年でも、ビデオが普及すると「リング」、遺伝子解析が進むと「らせん」や「パラサイト・イヴ」がつくられました。

いたこ28号さんの実話怪談では、霊が現れると空気清浄機(プラズマクラスター)が作動するって話があります。
http://youtu.be/Durjpb2kUUo

ペットボトルは、どこにでもあるものなので、それだけ怪談に登場するのではないでしょうか?
王子のきつね | 2015.01.31 10:29 | 編集
コメントありがとうございます
確かに新しい物というのは怪談のタネになる場合が多いでしょうね
ただ、よくネコ避けとかに小路にペットボトルを置いてるのを見ると
水が入って周囲の物がゆがみ
片なのが映って見えたりもします
bigbossman | 2015.01.31 19:56 | 編集
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