FC2ブログ

土地祭

2014.10.28 (Tue)
2ヶ月ほど前、結婚したばかりの姉から僕の携帯に電話がありました。
姉は中規模の建設会社で事務をしていたところを、
そこに出入りしている土砂採掘会社の人と知り合って結婚したんです。
その人・・・僕にとっては義兄になるわけですが、U男さんってことにしておきます。
U男さんは、その採掘会社の経営者の息子で、
背が高く小太りで堂々とした感じです。
会社のある町は少し山間にあるんですが、そこでは名士の一族だということでした。
もちろん実際に何度も会ってます。ほとんど芸能界のこととか知らないなど、
ちょっと世間離れしたところはあるものの、気さくでいい人だと思いました。
小遣いもくれましたし。結婚式はこちらの市で行ったんですが、
向こうの関係の主席者が多くてびっくりしました。
その町の町長さんや町会議員もほとんど来たんじゃないかな。

姉は会社を辞め、その町で主婦をすることになりました。
それはもう喜んでいたんですよ。元々会社勤めが好きではなく、
3食昼寝つきになる機会を虎視眈々とうかがっていたようなもんですからね。
それでも少しは不安もあるみたいで、
「向こうのご両親もとてもいい方だけど、
 町の名士の方々とのお付き合いが多くなるだろうし、
 上手くできるか不安」みたいなことを言っていました。
僕からしてみれば「何を贅沢なことを」みたいな感じでしたけどね。
うちはホントに庶民で、質素な暮らしをしてましたから。
で、その姉から僕の携帯に直接連絡があったんです。
両親のところには家の固定電話にちょくちょく連絡は来てて、僕も出たりしたんですが、
こういう形は始めてでした。

話はこんな内容でした。「今度、土地祭という町の大規模なお祭りがある。
 そこで、今年新しく町に来た花嫁を神様に紹介する儀式があるんだけど、
 なんとなく不安だ。それでお前にも来てもらいたい」
この「なんとなく不安」というのがよくわからなくて「嫌なことがあるのか?」と聞いたら、
「それはない。向こうの両親もU男さんもとてもよくしてくれる。
 服やバッグもたくさん買ってもらった。
 食事の支度や掃除などは使用人をお義母さんが指揮してて、私はやらせてもらえない。
 U男さんが会社に出ている間は離れで読書したりしている」
でも、これって昔から姉が望んでいた生活で、
何が不安なのか、どうにもつかめませんでした。
「毎日のように町会議員さんやお寺の住職さんが家に来て、私にあいさつしていく。
 そのときに何だか品定めされているような気がする」
これも、田舎にはよくありがちなことですよね。

でも、皆が愛想がよく、結婚を喜んでいて、○○家の嫁にはふさわしくない、
みたく言われてるわけでもないようなんです。
だから、原因がつかめない漠然とした不安、ということでした。
「弟にもお祭りを見せてやりたい」とU男さんに話したら、
ちょっとしぶった様子もあったけど、
「町の誰でも参加できるんだし、
 他のところの人に隠してるわけでもないからかまわない。
 ただ、格式ばったとこがあるから来るなら正装してきてほしい」と言われたそうです。
就職活動中なのでスーツはあったし、そこの町までは電車で2時間、
お祭り自体は1時間少しで終わるということだったので、出かけてみることにしました。
環境の変化で姉が少し不安定になってるだけだろうと思ったので、
まあ顔を見せるくらいしてやろうと。

会場で合流することにして出かけました。
お祭りということだから、どっかの神社でやるものかと思ってましたがそうじゃなく、
会場はそこの町の役場に近いところにある町民公園で、1時からだったんです。
そんなところで昼間にやるんなら、おかしなことなんてあるわけはないですよね。
そう考えていました。姉から気前よくお金が振り込まれてきたので、
駅からタクシーを使って会場に着くと、
公園の中は中央が小高い丘になっていて全体はかなりの広さでした。
その景色にはちょっと違和感を覚えましたけど。全体が中国風だったんです。
ほら例えば休み家なんかの屋根は、
中国のってきつい角度で上にそりかえってるでしょ。あんな感じだったんです。
植えられた庭木も、日本庭園とは少し違っていました。
屋台の類はまったく出てなくて、大勢来ている地元の人はみなきちんとした服装でした。

下のほうの砂地にいくつもテントが張られてあり、顔を出すとU男さんがいました。
大業な感じで僕と握手すると、そこにいた年配の方々に紹介をしてもらいました。
「ほほう、新嫁さんの弟さんか」みたいな感じで、
 特におかしな雰囲気は感じませんでした。
少しして、新嫁たちが来るということで、みなテントから道の脇に出ました。
今年度その町に他所から嫁いできた人は4人ということで、牛車が4台出ていました。
それぞれに一人ずつ乗ってるんです。花嫁衣装を着ているようでしたが、
顔の部分は簾がかかっていて見えませんでした。
でも、最初の牛車に乗ってるのが姉だということは体つきなんかでわかりました。
牛車の列はしずしずとゆるい坂を登っていき、僕たち参会者は町長さんを先頭にして、
渡された紙にあった決まった並びで後についていったんです。
僕は、花嫁の弟、しかも名士の家の親戚ということでだいぶ前のほうでした。

丘の上から下まで、人工的に作られた堰が流れていました。
水は透明で、水道水を上まで引き上げているのだろうと思いました。
幅は4mくらいでしたが、道々のぞき込むと、かなりの深さがありました。
下手すれば10m以上もある感じで、きれいな水なのにどこまでも底が見通せないんです。
かなりの工事費がかかるだろうに、なんでそんなに深く作ったのか疑問でした。
丘の上のほうには、
下にもあった中国の休み家を大きくしたような壁のない建物がありました。
牛たちは坂が急になって速度をさらに落として進んで行きます。
堰には水門があり、その前方で幅が広くなっていましたが、牛車の列が通ったとき、
その水面が騒がしくなったんです。水しぶきが上がるのが見えました。
何だろうと思って、水の中を見て仰天しました。
赤い色の巨大な魚が何匹もいたんです。

魚は2m以上あったと思います。太さは人間の胴体と同じくらい。
それが何十匹も重なり合って動いていたんです。
このために深く造ってあるんだな、
と納得しましたが、これまでに一度も見たことのない魚です。
近くを歩いていた僕と同年配くらいの女の人に小声で聞いてみたんです。
「あれ、すごい大きさですね。何という魚ですか?」
「ああ、始めて見た人はみんな驚くよね。あれは大紅魚(だいこうぎょ)と言って、
 中国から輸入したものなの。ここの町の名産にしようと養殖の研究をしてるところ。
 冷たいきれいな水にしか住めないので難しいみたいだけどね。
 食べると美味しいよ、脂が乗ってて」こう教えられました。
ははあ、中国と交流があるから、この公園も和風、
中国風が混ざった感じなのかと思いましたが、それにしてもあきれるくらいスゴイ魚です。
魚は見るからに体に力がありそうで、水面に跳ね上がるものもいました。

やがて、先頭の牛車が休み家の前につき、
御者に手を引かれて姉が降りるのが見えました。
丘の上には広いスペースががあり、堰は直径40mほどの池になっていました。
池の中央から太い噴水が噴き出し、大紅魚がたくさん群れているのがわかりました。
牛車は重なるようにして停まり、4人の新嫁が休み家の前に並ぶころには、
僕たちの列もほとんど坂を上り終えていました。
参会者が整列し4人の新嫁が屋根の下に入ると、神主の装束を着た人が出てきて、
4人を前にして榊を振り、祝詞を唱え始めました。
このあたりのことは僕はあんまり詳しくないのでよくわかりません。
20分ほどで神主が引っ込み、お面をつけた奇抜な衣装の人が出てきました。
えーと、中国に京劇ってのがあるじゃないですか。
あの衣装とお面によく似ていて、原色で毒々しい感じがしたんです。

その面をつけた人は太い筆を持っていて、4人の新嫁の額に印をつけていきました。
姉が最後です。お面の人が奇妙な踊りのような仕草をしながら、
姉の額にチョンと何かを書いたときです。池でバッシャーンと大きな音がしました。
池のこちらに近い際で一匹の大紅魚が高く跳ね上がったんです。
まるで水族館のショーのイルカみたく、数m跳ね上がって空中で頭を下にしました。
そのとき・・・これは見間違いだと思うんですが、その魚の顔が人の顔に見えたんです。
それも姉の顔にです。数秒のことなので見間違いかもしれません、ですが・・・
魚は盛大な水しぶきをたてて水面に落ち、前を見るともう儀式は終わっていました。
その後、下のレストランに戻って会食がありました。
4人の嫁は前の席に並んでいて、僕はU男さんの家族の中に入って食事を共にしました。
メインの料理はあの大紅魚の蒸し焼きとのことで、大きな切り身が出てきました。

もちろん食べました。脂が乗っていて美味かったですよ。
結局、この日姉とは話はできませんでした。
U男さんからたくさん小遣いをもらって戻りました。
まあこれだけの話なんです。奇妙な祭りというか儀式を見てきただけで、
魚が姉の顔をして見えたところ意外に不思議なことはないんです。
その後、姉はすっかり向こうの生活になじんだみたいで、
ほとんど連絡がなくなりました。いろいろと物は送られてきます。
高価そうなお菓子や美術品まであって、両親は恐縮しながらも喜んでます。
あと、あの魚の切り身もタッパーに入ってくるんです。
クセがあるということで両親はあまり食べず、僕がほとんど片付けました。
ホントに美味しいんです。ぜひ養殖の成功を願ってますよ。
最後に、最近同じ夢を見るようになりました。あの公園の池の中を泳いでいる夢なんです。
ああ。もう一つありました。公園で話しかけた女の子と付き合い始めたんです。
あのお祭りに行かなきゃ知り合えませんでした。縁ってあるもんですね。





関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/559-ddbe60b5
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する