自殺 2題

2014.11.01 (Sat)
借り物

うーん30年くらい前だね。俺は業界誌の会社にいたんだ。
編集は10人足らずで、あと営業職が30人くらい。それと専務以上の役員、
全部で50人を少し切るくらいの会社規模で、ほとんどが男子社員だった。
でね、今は会社総出での忘年会や慰安旅行なんてめったにないけど、
当時はまだまだ残ってたんだよ。
その年もクリスマス後に箱根への1泊2日の旅行があったんだ。
もちろん不参加なんて親の葬儀ででもないかぎりできない。
温泉ホテルに着いて一風呂浴び、浴衣に着替えて広間で宴会をやることになった。
で、余興があるんだよ。福引きとか、そういった賞品をかけたゲーム。
これがね、男ばっかだったせいか内容が年ごとにどんどんエスカレートしていってね。
危ない感じになってきた。

ほら、ちくわにワサビが入ったのがあって、
前に出たやつの中で表情を見て誰が食ったか当てるのとか、腰に万歩計をつけて
ドドドドって舞台で足踏みして、計測された数を競うとか。
少なかったやつは罰としてビールを一気飲みする。全力で動いた後だから心臓に悪いよ。
そういうゲームを幹事が2週間も前から準備するんだよ。
で、その年のゲームの中に借り物競走があったんだ。
もちろん子どもの運動会でやるような普通のじゃなくて、
借りてくるのが「ダッチワイフ」とか「金魚」とか、まず無理だろうってもんばっか。
とにかく何かそこらにあるもんを持ってきて、こじつけで説明するゲームなんだな。
で、借り物を書いた紙を拾った新入社員が、あちこち見回していたが、
○×さんの手を引いて座の中央に出てきた。

この○×さんというのは俺らの会社の社員じゃなく、
入ってるビルの管理会社の人で、俺らの階の担当者。ほら編集部は校了があるから、
徹夜が何日も続いて、いつも迷惑をかけてたんだ。
それでね、この年はお客さんとして来てもらってたんだよ。
その○×さんと手をつないだ新入社員が、紙を開いてみなに見せると、
「幽霊」って書かれてた。たちまち回りからヤジが飛んだよ。
「○×さんが幽霊なのかよ」「失礼があったら承知しねえぞ」「今月の給料なし!」とか
すると、新入社員はまじめくさった顔で「今みなさんに見せますから」
そう言って、浴衣のたもとから数珠を取り出した。
「こいつ、こんなもんいつも持ち歩いてるのか、危ねえやつだ」誰もがそう思ったが、
新入社員は意に介す風もなく、ホテルの仲居さんに照明を消すように言った。

でね、薄暗くなった中で、○×さんの手を片手でつかんだまま、
お経のようなのを唱え始めた。
そしたら、○×さんの背中のあたりが薄ぼんやりと光り始めた。冷た~い青い光。
そこに確かに見たんだよ。4・5歳くらいの血まみれの顔の女の子が、
○×さんの背中にしがみついているのを。
座はね、まさに水を打ったように静まり返り・・・仲居さんの一人が悲鳴を上げた。
「電気をつけろ!」って社長の声がして、すぐに明かりがつくと、
もう幽霊の姿はなくなってて、○×さんが真っ青な顔で目をつむりぶるぶる震えてた。
新入社員は得意そうな顔だったが、専務たちにどっかに連れて行かれた。
その後は、何も起きなかったようにして宴会は続けられたよ。
でも、○×さんは具合が悪いと言って早々に部屋に引っ込んじまった。
俺らは飲めるだけ飲んで、あとは各部屋に別れて麻雀とかだったな。

○×さんの話は誰もしなかったよ。あれはマジもんだったから。
でね、朝になって○×さんが朝食会場に出てこない。
まあ、朝飯も食えないほどに飲み過ぎたやつは他にもいたけど、
部屋に呼びに行ったら姿がなかった。
一足先に帰ったのかと思ってあちこち電話したが、消息不明。
そうしているうちに、地元の警察から連絡があって、
近くの林で首吊り遺体が見つかったがそちらのホテルの浴衣を着ている。
見に来てきくれないかってことで、副社長が行ってみたら○×さんだったんだよ。
その前の夜の宴会での話は誰もしなかったんだと思う。
とにかく自殺ってことで、それ以上警察も詳しい捜査はしなかった。
ああ、新入社員のほうは帰りのバスで顔に青丹をつくってしょんぼりしてたな。
役員の誰かに殴られたんだろ。・・・誰しも秘密ってもんがあるからね。

文字

中1のときのことですね。友だち2人と竹林で遊んでたんです。
迷路みたいで面白いじゃないですか。あの中でチャンバラみたいに細い竹を振り回すと、
あちこちに跳ね返って面白いんです。
ああ、すみません。それで、しばらく遊んでから、近くの小山に登ったんです。
直径20mほどの円形になってて草が短く刈られていたんで、
上からでんぐり返りしながら下りてくると面白いんです。
散歩コースになってましたから、ところどころに犬の糞とか落ちてて、
それがまたスリルがあって・・・ああ、すみません。
それで、でんぐり返りしてる途中で、友だちの一人がぼこっと落っこちたんです。
いや、ただの斜面だったのが、急に地面が陥没して。
あわてて駆けよったら、直径1mくらいの穴になってて、中は暗くて見えませんでした。

「おーい」って呼びかけたら、「いてえよー」ってくぐもった音の返事が返ってくる。
これはどうにもならないと思って、大人を呼びに行ったんです。
・・・このあたりは古墳の多いところで、
この間も奈良時代の装飾古墳を近所の年寄りが見つけたってことがあって、
そういうものに落ちたんだと思いました。
それでます、消防署からレスキュー隊員が来ました。
穴は大人の胴でも入る大きさだったんで、
ロープにつり下がった状態のレスキューの人が中に入って、
友だちを抱き上げて出てきました。
友だちは泥だらけになってましたが、ちょっとした擦り以外に大きなケガはなく、
1日で病院から戻ってきました。穴のほうは緊急に発掘調査されることになり、
「高松塚みたいなのならスゲエ。俺らが発見者だな」とか話しましたよ。

翌日、落ちたやつとまた遊んだときに様子を聞いたら、
「そんなに長くは落ちなかったけど、足が固い物にあたった。もし頭からなら危なかった。
 中は真っ暗だったけど、壁に字が見えて、それは緑色に光ってた」
「どんな字だったんだよ」って聞いたら、
「俺の名前がひらがなで書いてあって、それから日付があった。
 日付は1994年7月24日ってなってたぞ」これはそのときから2週間後のものでした。
「ありえねえよ。古墳の時代に漢字はあったかもしれないが、
 お前が読めるような今と同んなじひらがななんてなかったし、
 だいたい、お前の名前が古代人にわかるわけないだろ。それに西暦って明治からだぞ」
「まあそうだけど。そうだけど、でもよ・・・」
そいつは不服そうな顔をして首を傾げていました。

その古墳は重機を入れて平削されたんですが、
ごくありきたりのものでめぼしい副葬品や壁画などもなかったんです。
蓋の閉まった石棺があったんですが、中の被葬者は朽ち果てていて、
砂と灰のようなのしか出てきませんでした。
もちろん、友だちが言っていた名前など書かれてあるはずがありませんでした。
「あいつやっぱ頭を打ってて、マボロシを見たんだろうな」
こんなことを言い合ってました。
古墳は埋め戻しせず、市の史跡として誰でも入って見学できるように整備されました。
ごくごく簡単な作りです。
ここの市はそういうむき出しになった古墳があちこちにあるんですよ。
それで、落ちたやつはそのときから、なんとなく元気がなくなったんです。

学校でも「俺、死ぬかもしれない」って休み時間にもらすようになりました。
別にイジメを受けてるわけでもないので「何でだよ?」って聞いても答えない。
それで、とうとう失踪してしまったんです。
夜になっても家に戻ってこないので親が捜索願を出し、
警察や学校でもあちこち探したんですよ。
それで見つかったのが翌日、あの古墳の内部でした。
閉じられていた蓋と石棺の縁の間に首がはさまって窒息死してたんです。
で、長い間警察が調べていましたが、他に人がいた様子はなし、
首以外にケガしてるようなとこもなしで、自殺って結論になったんです。
でも、中1生が一人であの蓋を持ち上げ、
そこに首を差し入れるなんてできると思えませんでした。
それと、亡くなった日付が、
そいつが古墳の中で見たって言った緑の文字と同じ日だったんです。





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