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封印3

2014.11.03 (Mon)
会社をリストラされてしまったんですよ。それで家を手放し妻とも離婚しました。
いや、捨てられたって正直に言ったほうがいいでしょうね。もう悲惨なもんです。
子どもがいなかったのが幸いというしかないですね。
職業あっての人なんだなって痛感しました。あ、愚痴はいい? わかりました。
でもね、仕事のほうは再就職できたんです。
得意先だった方が哀れんでくださいましてね。といっても、倉庫番ですよ。
毎晩の勤務で給料は元の会社の半分もいきません。ボーナスもなし。
わずかな退職金も慰謝料で取られました。
でね、今はアパート暮らしをしてるんです。月3万の家賃です。安いでしょう?
何かあるんじゃないかと思ってましたが、背に腹は代えられませんでした。
不動産屋からの告知? なかったですよ、そんなもの。

アパートはね、8戸建ての2階の右端の部屋。
築年数はそうとういってるんでしょうが、
外壁を塗り直したようで、外見はそんなに古くないです。
外にコンクリの廊下があって、鉄階段を上がっていくようなとこです。
入居者は5人で、一部屋ですから家族連れはいないです。わたしの隣の部屋は空き。
でね、昼夜逆転の生活ですから始めのうちは慣れなかったんですよ。
特に昼に寝るのが。カーテンを閉め切って真っ暗にして、
酒飲んでうつらうつらしてる状態です。
そんな中で夢を見たんです。わたしは四角い部屋の中にいまして、
そこには家具も何もないんです。床も壁も天井もみな同じ材質でできていると思いました。
つるつるした真珠みたいな質感で、照明はないけどぼうっと明るいんです。
で、床にじかに座っているわたしの周りになにか動くものがいる。

何だろうと見たらカタツムリなんです。殻の直径は5cm以上あったでしょうね。
見事な大きさのカタツムリが4匹、わたしから30cmほど離れたところを、
同じ方向に這っていたんです。ちょうどね、「卍」ってのがあるでしょ。
あの中心部にわたしがいて、
それぞれのカタツムリはカギの先端あたりに等間隔でいるんです。
ね、奇妙でしょ。そうですね・・・怖くは感じませんでした。
ただ、のろのろと這うカタツムリの中心にいて、ときどき座る向きを変えながら、
それをぼんやりと見ている。そういう夢です。
そのうちにね、一匹のカタツムリがわたしの周りを巡る軌道から逸れたんです。
どこへ行くのかと思って注目していたら、そいつは・・・・
四方が同じ壁なので右左を言えないんですが、そのとき私が向いていた方角に向かって、
右の壁際まで這ってったんですよ。

そして壁にぶつかって・・・すっと溶けるように消えたんです。
そこで目が覚めました。でね、ベッドに寝てたはずなのに、
気がついたときは部屋の床の真ん中にいたんです。
あぐらをかいて頭を床に着くまで下げた状態で。
床は畳ではなくて木です。フローリングなんて気の利いたもんじゃない。
もう少ししたら、安い絨毯を買わなくちゃと思ってたところで。
でね、その床が筋になってぼうっと光るのがわかりました。
さっきまで見てた夢の中の壁に似た光です。
何気にその筋をたどっていくと、夢のカタツムリが這った跡のような気がしてきました。
そんなはずはないのに。筋は浴室との境にある敷居のところで止まっていました。
でね、一段高くなった敷居を指でなでてみたら、ちくっとひっかかるものがある。
敷居の横の木部から、白いとがったものの先端が覗いてたんです。

ちょうどカタツムリが這っていったのと同じ位置ですから気になって、
十徳ナイフで掘ってみたんです。
部屋を傷つけてしまうんですが、どうせ柱など元々傷だらけでしたし。
そしたら意外に大きなものが埋まってて、10分くらいかけて掘り出したのが・・・
何だと思いますか? 歯だったんです。大人と思える人間の歯で、
尖っていたので犬歯でしょう。白く輝いていて、虫歯の跡はなかったです。
むろん、何でこんなものが、と思いましたよ。
敷居に傷をつけないで木の中に入れるなんてありえないでしょ。
まあでも、そのときも怖い感じはなかったんです。
なんとなく、いい物を手に入れたという気になって、
使ってない灰皿に入れて小机の上に置いたんです。

そのとき、外で「バン」と大きな音がしました。昔はよく車がそんな音をたててましたが、
今はそんなことないでしょ。何だろうと思ってカーテンを少し開けて覗いてみました。
そしたら前の道路を、その界隈には似つかわしくない黒塗りのベンツが走ってました。
ウインカーがついてたので発進したばっかりなんだと思いました。
でね、同じような夢を1ヶ月の間にもう2度見たんです。
2回目のときには、わたしの周りを這うカタツムリは3匹に減っていました。
でまた、そのうちの一匹が別の方向に這い出して・・・
このときはベッドにもぐって、コンセント差し込み口下でまた歯を見つけました。
板壁の中に埋まってたんですが、ベニヤ板を割るだけで取り出せました。
やっぱりきれいな犬歯でした。同じ人物のものかはわからなかったですが、
何となく違うような気がしました。

夢の3回目はカタツムリは2匹になっていて、一匹が壁を垂直に上っていきました。
歯は作りつけの換気扇の縁から出ました。これで3本、同じように灰皿に入れてました。
ああ、それとね。黒塗りのベンツですが、ちょくちょく見かけるようになりました。
アパートの近くに路駐してることが多いんですが、
朝方わたしが倉庫から帰ってくると出て行きます。でね、カーテンから覗うと、
わたしが寝た頃を見計らって戻ってくるんです。
違法の黒フィルムがガラスに貼られてて中は見えないんですが、完全なその筋の仕様ですよ。
でもね、そんなのにかかわった心あたりなんてまるでありませんし・・・
で、つい1週間前、4回目の夢を見たんです。
同じ場所に座っていて、ついにわたしの周りのカタツムリは1匹だけになりました。
今までは、カタツムリは回る外側のほうに這い出していってたんですが、
今回はわたしのほうに近づいてきたんです。

おや、これまでと違う展開だなと思っているうちに、
カタツムリはわたしの膝元まできて体を這い上り始めました。
カタツムリが触れたとたん、体が動かなくなりました。
硬直したようになったわたしの膝から腹、首筋へとカタツムリはどんどん上って、
ついに頬まできました。そしてわたしの唇に・・・
そのとき信じられないほどの痛みを感じたんです。
まだ夢の中なのかも、目が覚めているのかも定かでないまま、わたしは絶叫しました。
体が少し動きました。目を落とすと、右手にナイフ、左手に歯を握りしめていたんです。
だだっと膝に血が落ちました。わたしの口からこぼれたんです。
「なんだこれ、俺は自分の歯をナイフで抜いたのか?」そう思ったとき、
ギッ、ギッという家鳴りの音が上でしました。
見上げると、部屋の天井板の中央部が大きくたわんでいたんです。

ああ、何かが落ちてくる・・・体をずらそうとしたとき、強くドアがノックされました。
激痛と天井、ノックの音、もう完全にパニックになってましたよ。
ドーンとすごい音をたててドアが破られ、ほぼ同時に天井板が割れました。
わたしは転がって頭を抱えました。もうもうと埃が舞い、
床に何かが落ちてきているのがわかりました。
その落ちくぼんだ眼窩と目が合ってしまいました。
ミイラのような枯れ果てた人間、骸骨の頭に髪がぼうぼうと伸びていました。
うつ伏せの状態で、作業服のようなものを着て背中にリュックを背負ってましたよ。
「産まれた、産まれた」あざけるような声がして、そっちを見ると、
同じ色の作業服を着た体格のいい男が2人立っていました。
ドアを蹴破ってきたやつらです。

1人が「あんたご苦労だったな。歯医者へ行け! あと部屋の修理代と」
そう言って、目の前の床に何かを投げました。
・・・札束でした。その後わたしには目もくれず、
床の遺体からリュックを外して1人が持ち、
1人は腰から折って麻袋に詰め、軽々と担いで出て行ったんです。
あのリュック、何が入っていたんですかねえ。金は100万ありました。
歯医者に行くと、やっぱり自分で上の犬歯を一本抜いてたんですね。
ナイフで歯茎をずたずたに切って。・・・まあこんな話ですよ。
それ以来、カタツムリの夢は見ていません。
黒ベンツも姿を消しました。部屋の修理代、歯医者の代金、合わせてもおつりがきましたが、
2度とこんな目に遭いたくはないです。ああ、それとね、
天井から落ちてきた遺体、ミイラですが、口を開けてまして・・・
歯が一本もなかったんですよ。

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