餓鬼魂

2014.11.07 (Fri)
ある会社でOLをやっています、よろしくお願いします。
ちょうど2週間前のことです。退社時間間際でした。
ある後輩の女子社員が、通路を歩いていて抱えていた書類の一枚を落としたんです。
たまたま見ていたんですが、それを拾おうとしてすごく不自然な姿勢になったんです。
足を前後に開いて、頭だけ高く持ち上げたまま手を伸ばして書類を拾おうとして・・・
その恰好が想像できますでしょうか?
「あなた何やってんの?」と言おうかと思ったくらい変だったんですが、
もしかして腰を痛めているのかとも思いました。
拾ってあげようと近づいたら、その姿勢のまま後ろに転んだんです。
いえ、頭を打った様子もなくコテンという感じでしたから、
ケガもないだろうと思ったんです。

ところが、その子は立ち上がろうとして床に手をついて、
そのまま口を押さえて吐いちゃったんですよ。
ええ、そのときは他の女子社員に指示して吐瀉物を片付けさせ、
その子は医務室につれて行きました。汚れた制服を拭いてあげ、うがいをさせ、
保健師さんと協力してベッドに寝かせようとしたんですが、
だだっ子みたいに泣き出しちゃったんです。
何か事情があるんだろうと思い、いったん部署に戻って事情を説明してから、
もう一度医務室に来ました。話を聞いてあげようと思ったんです。
2人で医務室のベッドの一つに並んで腰掛け、聞いたのは信じられないような内容でした。
頭をかがめるというか、ある高さまで地面に近づけると強烈な腐臭がするんだそうです。
生ゴミを限界まで腐らせ、どろどろになったのをドブ川にぶちまけてかき混ぜたような臭い。

それが襲ってくる。それでできるだけ頭を下げないようにしていた、ということでした。
これは普段、普通に頭を上げているかぎりは臭いはしない、
階段などで上の位置から下に降りてきた場合も大丈夫。
ただ、頭が腿くらいの高さになった場合にかぎって強烈な腐臭が漂う。
・・・そんなことはありえないと思いました。
実際に私がかがんで、その子の足下に顔を近づけてもみたんです。何の臭いもしませんでした。
素人ながらこれは、何かの心理的な要因で頭を下げたときに「臭いを嗅いだような気がする」
んじゃないかと思ったんです。それで、保健師さんといっしょに病院にいくよう勧めました。
ところが、もう病院に行ってる、症状を話して検査をし、
薬をもらって飲んでいるが一向に改善しない、むしろひどくなってきているような気がする、
ということだったんです。

ちょっと困りましたが、こうなった心当たりがないか尋ねてみたら「ある」って言うんです。
その1週間前、退社して駅のホームで電車を待っていたとき、
ベンチの下から何か白い物が低く飛んできて膝の下に当たった。
うずらの卵くらいの大きさで、足に当たったときに割れたような感触があった。
ところが地面を見ても何も落ちていない。
おかしいな、と思ってベンチの下を覗こうとしたとき、
この臭いが襲ってきて倒れそうになった、という話でした。
ベンチには誰も座っている人はなく、臭いのせいでベンチの下は見られなかったが、
とうてい人間が入り込めるすき間ではなかったそうなんです。
そのときは駅のトイレに駆け込んでしばらく吐き、なんとか収まったので家に戻ったものの、
それから頭を膝ほどの高さに下げたときには、
常にその臭いを感じるようになったのだそうです。

話を聞いて、もしかしたらこれは霊的なものなんじゃないかと思いました。
じつは私の家は母方が昔、拝み屋をやっていたということで、
子どもの頃に実家にいくたびに、
まだ健在だった祖母からその手の話をいくつも聞いているんです。
その中に「呪いの魂(たま)」とでもいうのがあって、今回のとよく似ているんです。
それでその晩、家に戻ってから母方の実家に連絡してみました。
そちらは母の姉が独身で一人で住んでいまして、
ネットで霊的な身の上相談のようなことをやっているんです。
結果は、「やはり呪いの可能性が高いだろう」ということで、
実家は遠いので、こちらに住んでいる霊能者の方を紹介してもらったんです。
翌日、仕事を少し早く終えて、その子といっしょに紹介された霊能者の家を訪ねてみました。
お宅は郊外の住宅地にあって、門柱のわきに抽象的なオブジェが飾ってありました。

出てきたのは、意外にもまだ20代と思われる若い人で、
白い浴衣のような着物を着ていました。あらかじめ叔母から連絡が行っていたため、
そのまま応接間に案内してもらいました。
いちおう事情は聞かれましたが、これも話が通じているらしく、
霊能者はいったん奥へ引っ込んでから古びた丸い鏡を持ってきたんです。
「これは照妖鏡。道教のものです」霊能者が言いました。
その子を立たせた状態で、つま先から膝上まで鏡で映して見ていましたが、
「うわ」という、見るからに嫌な感じの顔をしました。
「たくさんの餓鬼が憑いています。どうやら餓鬼魂をぶつけられたようですね」
こう言って「見ますか」とその子のほうに鏡を向けました。
その子がおそるおそる鏡を覗いて・・・
はっきりと顔色が変わるのがわかりました。

「私も見てもいいですか?」霊能者がうなずいたので横から鏡をのぞき込むと、
そこには・・・たくさんの小さな、2歳くらいの幼児ほどの青黒い生き物?が、
鈴なりに群れているのが見えたんです。どれも頭に髪の毛はほとんどなく、
ガリガリに痩せてあばらが見え、腹がまりのようにふくれていました。
「これは・・・」「さっき申し上げたように餓鬼です。強い呪いを受けていますね」
「どうすればいいんでしょうか」その子が泣きそうな声で尋ねました。
「取るのは難しくはありません。でも、呪いの元が絶たれないと、
 また何かが起きるでしょう」霊能者が冷静な声で言いました。
その後3人で霊能者のワゴン車に乗せられてデパ地下に行き、
籠に5つ分ほど大量の果物を買わせられました。
それを抱えてまた車に乗り、今度はかなりの距離を走って、
隣県との境にある鄙びた温泉地に到着しました。

「ここは大国主命が開いたという口伝のある霊験あらたかな鉱泉があります。行きましょう」
霊能者に連れられて歩きで山を登り、小屋のような場所にたどり着きました。
霊能者が車から長机を取り出し、白布をかけて祭壇のようなものを浴槽の脇に作りました。
そこに果物の籠をすべて並べたんです。その子は別室で白襦袢に着替えさせられました。
「いいですか、この果物はまだ餓鬼には食べられない状態ですから、
 あなたの体から離れません。私が呪文をかけて食べられるようにします。
 そのときに合図をしますから、そのまま浴槽に飛び込んでください。
 これで果物のお供えを食べ終えてもあなたの体に戻れなくなるはずです」
霊能者が懐から鈴を取り出して鳴らしながら、果物籠に次々と触れていきます。
「今です。さあ!」霊能者の合図とともに、その子はしぶきをあげて浴槽に飛び込みました。
・・・鉱泉の温度は14度ということでした。
その子は腰まで漬かっただけでしたが、唇を紫にしてがくがくと震えていました。

「あなた方には見えないでしょうが、今、餓鬼はすべて離れて籠に群がっています。
 体が鉱泉で濡れているうちは戻れません。急ぎましょう」
その子の手をとって浴槽から上がらせ、急ぎ足でその場を離れて霊能者の車に乗り込みました。
「これで餓鬼のほうは一段落つきました。後であそこに戻って供養して消し去ります。
 ですが、問題の根は絶たれていないのはおわかりですね。
 これはおそらくですが、人間関係からきているものでしょう。
 だとしたらわたしにはどうにもできませんから」
このようなことを言われて街に戻ってきたんです。霊能者に礼を言い謝礼をお渡ししてから、
私はその子に、「あなた何か隠していることがあるでしょう。
 ここまで乗りかかった船なんだから言ってしまいなさい。
 できることなら相談に乗るから」こんな風に言ったんです。

でもその子は思い詰めた表情をして、
「相手がどんな気でいるのかわかりましたから。先輩にご迷惑はかけられません」
かたくなにそう言い張って帰って行ったんです。
次の日、会社に出てびっくりしました。たいへんな騒ぎになっていたんです。
私が所属しているのと別な課の課長の奥さんが包丁で刺されたんです。
幸い命に別状はなかったようですが、しばらく入院が必要という話でした。
刺したのはあの子で、昨夜のうちに逮捕されたらしいです。
噂をかき集めたところでは、どうやらその課長があの子と不倫をしていて、
奥さんと別れる話が進んでいたようなんです。
その課長は他社から声がかかっていて、会社もやめる予定だったという者までいました。
それで頭にきた奥さんが、どうやって知ったのかわかりませんが呪いを放った。
そういう事情だったようです。もちろん呪いのことは他の人には知れてはいませんが。
このままだとあの子が一方的に悪者になってしまうんでしょうねえ。かと言って・・・





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コメント
嗅覚(味覚)に訴えるホラーというのは、グロテスクになりがちですが結構好きです。
 しかし、気にかけてあげた後輩がこんなことになって、語り手さんも残念でしたね。確かに呪いの術者が特定できているなら、一番手っ取り早い方法でしょうが・・・ 
| 2014.11.10 19:08 | 編集
コメントありがとうございます
餓鬼がついてくるような呪いというのは
実際にある?らしく、いろいろ話を聞きます
当然ながら嫌なものが多いです
bigbossman | 2014.11.11 00:06 | 編集
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