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鬼ホテル

2014.11.11 (Tue)
じゃあ話すよ。あれは俺がまだ大学生の時分、ちょうど15年前のことだな。
当時、大学の廃墟探索サークルというのに入ってて、
その夏休み中の活動の一環としてあの廃墟に行ったんだ。場所は言わなくてもわかるだろ。
2人が死んで、マスコミでもかなり報じられたから。あのときの顛末だよ。
・・・最近なんだか体の調子が悪くてね。
もしものことがあったら、あそこで何があったかわからなくなってしまうから。
あんたたちは専門家だそうだから、後で意見を聞かせてもらいたいね。
俺らのサークルは、まあ当然の話だが、人が少なくってメンバーは男だけだった。
活動は、基本的には廃墟探索。
だから心霊スポットみたいなオカルト要素のある場所にだけ行ってたわけじゃない。
廃墟の美とか、そういうこともテーマにしてたんだ。

で、訪問した先で撮った写真や動画を編集して学祭のときに発表する。
メンバーは9人だったけど、いつも全員が一緒に行動するわけじゃなく、
二手に分かれて同時期に別々の場所に行くこともあったんだ。
あの夏休みにあのホテルに行ったのは俺を入れて4人。
探索の計画を立てた理由はいくつかあるが、そんときはオカルトもからんでたんだ。
俺らが行く2年前に、コンビニ売りのDVDが出てて、
それに、あのホテルの下で若手芸人が撮ったという不可思議映像が入ってた。
地下の洞窟風呂の岩壁にもたれた芸人の頭の上に鬼の顔が映ってるやつだよ。
・・そんときは、仲間内ではやらせだろうって意見がほとんどだったけどな。
俺らもさんざん映像は撮ってきたけど、あんなにはっきり映るなんてことはなかったし、
ましてそれが、額に一本角のある鬼の顔だなんてな。

いや、所有者に了解はとらなかった。不法侵入ってことになるな。
だから後々いろいろ面倒なことになったんだ。警察にも大学関係者にも絞られたよ。
結局は事故ということで、大学から処分されずにすんだのが何よりだった。
8月に入ったお盆前だな。1泊2日の予定でレンタカーを借り、
買い込んだ食料を積んで、免許のあるやつが運転して行ったんだ。
4人のうち俺ともう1人が3年生で、2人が2年生の後輩。
そこの市に入って市街地から離れ、山の中をさらに2時間運転してホテルに着いた。
外観からして不気味だったよ。4階立てのホテルの全面が、
ツタに浸食されて覆われていたんだ。心霊DVDを見て来たやつらもいたようで、
スプレー缶の落書きもいくつか見つけたが、その上からまたツタが茂っててね。
中もひどかったよ。じめじめしてあちこちから水が垂れ、
そこらじゅう青カビだらけだった。

新築当時のパンフレットを手に入れてたが、
まだ放棄されてから7年しかたってないのに見るかげもなく朽ちている、という感じ。
道中時間がかかって、着いたのは午後3時過ぎになった。
だからまずその日のうちにメインの地下風呂を見ておきたいと思ったんだ。
ホテルのぎりぎりまで車を近づけて、その中を前哨基地にした。
暑い時期だったけど、ケガしないように長袖長ズボン、厚底ブーツに履きかえ、
懐中電灯とカメラ、ビデオカメラ、あとは各自がバールや鉈を持って中に入った。
特に立ち入り禁止の札やチェーン、バリケードみたいなのもなかった。
完全に放棄されていたんだな。あと、俺らの他に車らしいのも見かけなかったから、
他の探索グループが来てるということもない。
あたりに人家も店もないから、ホームレスなんかの心配もない。
入るのは簡単だった。玄関のガラス戸が大きく割れてたんだ。

それと1階の窓はガラスのないところが多かった。
入ってすぐのロビーは広かったけど暗くて、懐中電灯をつけなきゃなんなかった。
吹き抜けの上のほうの窓がツタでふさがれていたせいだろうな。
中はさっき言ったようにカビだらけでね。落書きは多くなかった。
なにしろここまでのアクセスで半日かかるから、来れるやつは限られている。
びしょびしょでソファは座れなかったから、テーブルに腰掛けて作戦を確認した。
行動は6時までで、外が暗くなるこの時間を過ぎたら撤退。
まず地下の問題の場所に行って鬼の顔が映った現場を確認しカメラに収める。
その後に地下施設の探索。階上部分は明日の午前中。
で、携帯DVDプレイヤーを持ってきてたやつがいたんで、
例の鬼の顔の部分を確認した。薄暗い洞窟風呂の濡れた壁に芸人が一人で立ってて、
右肩の50cmほど上に面のような白い鬼の顔。

髪の毛はなく、つるつるした面のような質感だが目は生きているように見える。
もちろん「やらせ」だとは思ったが、見ているとたまらなく不気味なんだ。
芸人はしゃべったり動いたりしてるが、
鬼の顔は微動だにせず画面が切り替わるまで映ってる。
この顔は、撮影時はだれもそこにあることを気づいてなかったんだよな。
後になって映像を編集したときに発見したと、DVDの中で言ってた。
それとこの芸人は、知ってるだろうけど撮影して3ヶ月後に亡くなってるんだ。
山での落石事故ってことだったけど。パンフレットにはホテル内の見取り図があって、
地下には食堂と売店が半分のスペースを占めてて、残りが洞窟風呂。
もちろんエレベーターもエスカレーターも止まってるから、非常階段をいくしかない。
ひとしきりロビーを写真と動画に収めてから、4人で順番を決めて縦列になった。
俺が最後尾、もう一人の3年が先頭でこいつがリーダー。わくわくしてきた。

非常階段はすぐに見つかり、重い鉄扉を開けて中に入った。
密閉されているせいか、ここはあまりカビがついていなかった。
このホテルは客が入る前にバブル崩壊の影響でつぶれてしまったんで、
カビさえなければきれいなもののはずなんだ。
降りていくと売店の前に出た。ガラスケースが並んでいるが、そういった事情で商品はない。
売店を過ぎると窓がなくなるせいかかなり暗い。懐中電灯なしでは探索不可だろう。
レストランの前を過ぎた。椅子机が整然と並んでいた。
帰りに時間があれば入ってみることにして、写真と動画だけを外から撮った。
やがて洞窟風呂の入り口、普通の浴場のようにのれんが下がっていた。
中は夜と変わりない真っ暗。懐中電灯の光で脱衣籠が見えた。
足下に注意しながらさらに進んだ。すりガラスが一面に広がっていて、
その端のドアから洞窟風呂に入った。

中はすごい湿気。洗い場にはタイルがはってあったが、浴槽は岩で水は入ってない。
その中に足を踏み入れた。風呂は最初はせまいが、だんだん広くなって置くまで続いている。
10mほど進んだら天井と左右の壁も岩になった。
もしかしたら天然の洞窟を利用しているのかもしれない。
それほど人工的なところのない造りだったんだ。ときおりカメラのフラッシュが光った。
こうなると本物の洞窟にいるのと大差ない。
DVDはかなり強力な照明を使っていたことがわかった。
突き当たりは幅5mほどの岩壁、右の端にくぼみがあって、ここが芸人が立ってた場所。
地上2m以上、天井から下30cmほどの鬼の顔があったあたりを見たが、
近くの岩と特に変わりがない。後輩の一人を同じ場所に立たせて写真とビデオを撮ろうとした。
そのとき「うああっ」とこそいつが叫び、後ろに倒れた。
ありえない、巨大な壁ごと倒れたんだ。
ズーンと腹に響く音と衝撃がしてものすごい砂埃が舞った。

「おい、大丈夫か!」声をかけたが視界がきかない。
ややあって「大丈夫です、ケガしてません」という声が聞こえた。
懐中電灯の光が集中し、岩の上でうずくまっている後輩がいた。
「いや、びっくりしましたよ。突然後ろにひっくり返ったんだから。体に痛いとこはないです」
倒れた岩壁の後ろは高さ数十mのホール状になっていて・・・神社があったんだ。
木が黒く煮染めたようになった古い古い神社。その後ろは土の壁。
近づいていくと足下がざくざくした。骨だよ。手足と思える長い骨が一面に積もってた。
「これありえねえよ。戻りましょうよ」後輩の一人が言った。
「いや、スゲエじゃねえか。大発見かもしれないぜ」
先頭の3年リーダーが言い、さらに神社に近づいた。
賽銭箱もロウソク立ても鈴もないが、光があたってるところ間違いなく神社の造りで、
けっして大きくはない。木の段を上って先頭が神社の横開きの戸を引いた。
何か丸い物がたくさん落ちてきたんだ。中にはそれがいっぱいに詰まってた。

俺の足下に転がってきたのを見ると、頭蓋骨、しかも額に一本角が生えてた。
「先輩、逃げましょう」後輩の一人がおびえた声で叫び、
「撤収・・・」リーダーが言いかけたとき、神社の奥から大量の水が一気に出てきたんだ。
あっという間だった。俺らは一気に足下をすくわれ押し流された。
そんとき懐中電灯を落としたんで、完全な闇の中を運ばれた。
暖かく硫黄の臭いがする水が口に入ってきた。息ができなかった。
水がどれくらいの高さまできてるかもわからなかったよ。
もしかしたら天井一杯まであったかもしれん。俺は気を失った。
で、闇の中で気がついたんだよ。時計を見たら蛍光の文字盤が2時5分になってた。
体のあちこちが痛み、俺は這うようにして洞窟風呂を出た。
勘を頼りに非常階段を上って建物の外に出、車から非常用に持ってた携帯で警察に連絡した。
そこでやっと不思議なことに気がついた。体が濡れてなかったんだ。

車で警察の到着を待っていると、後輩の一人がよろめきながら出てきた。
他の2人を探しにいこうとは考えなかったよ。車のドアを閉めロックした状態でいたんだ。
あとは報道であったとおりだ。
2人は洞窟風呂の乾いた床に倒れて死んでいた。死因は硫化水素中毒。
水は一滴も飲んでいなかったということだ。
俺だけじゃなく、生き残った後輩も水に流されたと証言したが相手にされなかった。
中毒症状の中で幻覚を見たと思われたんだな。
実を言えば俺もその頃には自信がなくなりかけてたんだ。
だってよ、倒れたはずの風呂のつきあたりの壁がそのまま残ってたからだ。
神社なんて影もない。しばらくたって警察から持ち物が戻ってきた。
それも水でダメになったということはない。生き残った2人で映ってたのを整理した。
で、動画はダメだったが、この写真だ。今スクリーンに拡大するよ。
な、あのDVDと同じ岩壁の場所にあるだろ鬼の顔、しかも2つ。





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コメント
 探索シーンが怖くてゾクゾクしますね。結局、芸人の死はあまり関係なくて、真相(?)に触れた語り手氏たちを本物の怪異が襲ったんでしょうか。しかし硫化水素中毒という現実的な結末のおかげで、それも藪の中・・・
| 2014.11.15 00:40 | 編集
コメントありがとうございます
この話はおっしゃるように、怪異そのものよりも
廃墟探索に入る前段階のところを詳しく書きました
これから探索に入るぞ~というときの
気分を感じてほしかったからです
bigbossman | 2014.11.15 23:06 | 編集
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