ロケ隊

2014.11.16 (Sun)
この夏前の話。俺は泡沫出版社に勤めてて普段は麻雀劇画なんかの編集をしてる。
うちの社ではここ10年ちかく、夏にコンビニ売りの心霊ムック
DVD付を出してるんだが、そのディレクターを担当することになった。
といっても去年、一昨年とやってるからまあ慣れてる。ムック部分はすぐできるんだ。
ネットで話題蜷になってる心霊話や拾った画像でちょいちょいと埋める。
原稿も全部編集部で書いて外注はしないから安上がりだ。
ただ、動画のほうはロケにいかなくちゃならんから面倒だし予算もかかる。
多人数で行くし、夜に撮影するからどうしても1日ががりになってしまう。
でね、今回は企画として「心霊廃墟でコックリさんをやってみよう」というのにした。
バカだと思うだろう。いや、べつにいいよ。
俺自身バカな世渡りだと思ってるから。

メンバーは俺がディレクターで、あとAD役の助手、カメラ2人、音声、照明、
ここまでがうちの社と関連会社のやつ。ありあわせの機材でやるし、
テレビの番組制作クルーみたく本式じゃない。
あと、うちでこの手のを出すときにいつもお願いしてる霊能者さん。
この人は40代後半で、いつも修験者の恰好をしてる。
スムーズに本ができるように協力してくれるよ。
だけどこの人にコックリさんをやらせるというわけにはいかんから、
タレント事務所から女の子を2人借りた。いわゆる霊感タレントという子たち。
その事務所のほうからマネージャー兼メイク係として、
女の人が一人ついてくることになった。えーこれで総勢10人だったはず。
11人乗りのミニバンを借りて助手が運転した。

行った先は・・・場所は言わないほうがいいだろうが、
あんたらはこういうの詳しいんだろ。
茨城にある廃旅館だよ。あのほら経営者が自殺したっていう。あ、知ってる? やっぱりね。
もちろん現在の所有者に許可はとったよ、じゃないとDVD発売できないじゃん。
ま、あんだけ荒れ果ててりゃ取り壊すしかないだろうし、ちゃんと謝礼も出すから。
昼過ぎに出発して3時間、4時過ぎには現場に着いたよ。
そこの旅館は築40年以上って話で、外観も中もかなり朽ちていたよ。
ただ、不法侵入者はほとんどなかったみたいで落書きとかは見なかった。
もちろん電気・水道とかは止まってる。霊能者さんや女の子たちには車で待機してもらって、
その間に俺らで外回りや中を動画と写真に収めた。
鍵を借りてたからそれで玄関から入ったんだよ。

中はほこりだらけだが散らかってはいなくて、
座布団やお膳なんかが整然としてるのが、それはそれで不気味な感じだったな。
で、コックリさんは設定上は真夜中ってことになってるんだが、
実際は暗くなったらすぐにやるんだ。でないとその日のうちに帰れなくなるから。
車中で弁当を配ってから大まかな流れを説明した。
まず霊能者さん・・・以下Aさんと女の子2人、これはBちゃんCちゃんとするか、
で旅館内を回ってもらう。その後、Aさんが「こっちに霊の気配が強い」とか言って、
旅館と屋根続きの経営者の自宅に案内する。
仏間のある部屋に入ってそこでコックリさんをやる、という流れだったんだ。
え、Aさんはそういうの聞いてくれるのかって?
もちろんだよ。協力的ってさっき言ったじゃないか。
それで、女の子のうちのBちゃんがコックリさんの最中に具合が悪くなる。

それも最初から決まってるのかって?当たり前だろ。
こういうのを買うやつは、何かが起きなきゃ騙されたって思うだろ。やらせとは違うんだよ。
で、車に戻ったBさんに怪異が起きる。
そのことをAさんが察して車に戻りお祓いをするんだ。
まあだいたいそういう感じ。え、幽霊を出すのかって?
いや、スタッフが扮装して出たってしょうがないだろ。
これはあとでCGを入れる。CGってもぼんやりした影とか手のシルエットくらいだ。
はっきり映るもんはやんないよ。かえって怖さが薄れるし。
あとね、カメラ機材が故障したりバッテリーが切れたり、
変な音声が入ったりするのもお約束で、
うちのスタッフはみんなわかってるからちゃんとやってくれる。
飯を食い終わってから、タレント事務所のマネージャーさんだけ残して旅館に入った。

それぞれ懐中電灯を持ってもらって、Aさんが先頭、女の子が後について旅館内を回る。
2階に上がって部屋を一カ所ずつ見て回る。旅館のまわりは森で物音一つしない。
女の子たちはキャアキャア言って、縁起半分、本当に怖がってるのが半分くらい。
やがて下のロビーに戻り、Aさんが、
「ここには何もいませんね。ただこの裏手に強い気配を感じます」みたいなことを言い、
細い渡り廊下から経営者の自宅に入っていく。
こっちは4間の平屋の住宅。一番奥に仏間のある部屋があり、おそらく寝室として使われてた。
生活用品はほとんど残ってて、タンスの中には衣類もあったよ。
大きな仏壇の前にテーブルを出し、3人でコックリさんを始めてもらう。
仏壇は一回中を開けて撮影したが、
位牌なども残っていて編集ではカットするしかなさそうだった。
コックリさんの用紙はAさんが作った特製のやつで、梵字で書かれてる。

だからコイン・・・こんときは1銭銅貨を使ったが、
動いても女の子たちには意味がわからない。
つまりAさんが都合いいように解釈してくれるというわけ。
窓の外では雨が降り出したようで、ますます気味の悪い雰囲気になってきた。
ここでコックリさんのほうは霊が降りてきて、どうやら自殺した元オーナーらしい。
実は女の子たちにははっきり言ってなかったが、
そのオーナーが首を吊ったのはこの部屋だったんだ。
で、段取りどおりBちゃんが「寒気がする」と言って肩をすくめた。
「そこに何かがいる」仏壇と窓の中間あたりを指さした。
「これはいかん」Aさんが言ってコックリさんを中断し、立ち上がろうとするBちゃんを抑えた。
・・・あまりにやらせ臭い展開だが、様になってる、使い物になると思った。
ここでわれわれがBちゃんを連れ出して車まで戻る。

その間もコックリさんは続けられることになってるんだが、実際には全員で戻るんだ。
二手に分かれたら撮影できないだろww
「じゃ、いったん中断して・・・」Aさんが言いかけたとき、突然仏壇の扉が開いた。
「ああっ」「うわ、何だ」「きゃー」驚きの声と悲鳴が交錯した。照明が点滅し始めた。
仏壇の中から位牌が飛んできて、畳にへたり込んでいたCちゃんの額を直撃した。
またひとしきり悲鳴が上がった。仏壇の両開きの扉がバタバタ揺れ、中から白い霧が出てきた。
霧は渦巻きながら天井のあたりまで昇って何かの形を作り始めた。
「何ですこれ?」「逃げよう!」みなで襖戸に殺到したが、固く閉まって開かなかったんだ。
後ろをチラ見すると、白い霧は窓の側で人型になって揺れていた。
首を吊った人みたいに。「Aさん、なんとかしてくださいよ」俺が叫んだが、
「あう、これはダメ、ダメです。本物だよ。初めてだこんなこと」
泣くような声が返ってきただけだった。「くっそ!」カメラマンの1人が襖を蹴った。

「いやー」ひときわ大きな声が上がって、
見ると頭を抑えたCちゃんの体が畳から浮き上がっていた。
だれも助けにいかなかった。Cちゃんは天井近くまで浮き上がり白い霧のほうへ近づいて・・・
襖に大穴があき、Aさんがわれわれを押しのけてくぐろうとしたとき、
ターンと勢いよく襖が開いた。外にいたのは・・・タレント事務所のマネージャー。
両手を前に組んで数珠を持っていた。
マネージャーは這いつくばっているAさんを押しのけると前に出た。
Bちゃんがその背後に回り込みんで隠れた。
マネージャーは宙に浮いているCさんの片足を無造作につかむと、
もう一方の手で数珠を押し当て・・・金色の閃光が走ったように見えた。
Cちゃんは足からどさっと下に落ちた。額から血が流れ意識はないようだった。

マネージャーはつかつかと前に出て、揺れる白い霧に向かって数珠を突きつけた。
すると霧は人型から一気に収縮してソフトボールほどの塊となり、
吸い込まれるように仏壇の中に戻って、バタンと扉が閉まった。
「ここはロケには向いていないようですね」マネージャーさんが冷静な声で言った。
Cちゃんを抱えみなで車まで戻ったが、旅館の建物を出ると意識が戻り、
タオルで押さえていた血も止まっていた。
その後病院、傷は顔でもあるし縫うことはなかったよ。
でね、ロケは日を変えて別の場所で撮り直した。
もう発売されててね、今持ってきてるからほしい人がいたらあげるよ。
いらない?あ、そう。でね、今回のことで考えさせられたよ。
霊スポットの本物はダメだが、霊能者は本物じゃなきゃってね。






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