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ブランドパッカー

2014.11.21 (Fri)
あんたら口は堅いんだよな。ここで話すことが外に漏れたりしないんだろな。
そうか、じゃ話すけど、犯罪がらみだから承知してくれ。
ここに来たのは謝礼がほしいせいはもちろんあるが、
それだけじゃなく、何が起きたのか、これからどんなことが起こるかもしれないか、
説明してほしいからだよ。2週間前の話。
あるJRの大きめの駅だと思いな。モノレールが乗り入れてて外人が多いとこだ。
その待合室でバッグを置き引きした。俺は置き引き専門で食ってるんだよ。
あそこはよく、席と席の間にバッグが置かれてるんだ。
それをさりげなく横から引っ張り出して、何気ない感じで持ってく。
ここで慌てて走ったりしない。注意を引かないことが肝心なんだ。
バッグは地面すれすれまで下げて、近くに持ち主がいても目につかないようにする。

ほら、見てのとおおり俺は背が低いだろ。だからこの仕事にうってつけだし、
後で話すけど、このおかげで危ないとこを逃げられたんだよ。
で、午後最初の仕事として、有名ブランドものの旅行バッグを盗った。
そうっと普通に歩いて、待合室から出ると急ぎ足で歩き・・・と言いたいとこだが、
これがかなり重かったんだ。中身がぱんぱんで、衣類だけ入ってる重さじゃない。
まさか札束じゃねえだろうが、期待が膨らんだよ。
こら、しばらく仕事しなくても済むかなって。
改札を抜けてでたらめにホームに降り電車に乗り込んだ。
そうしちまえばもう安心だから。どこ行きの列車を選ぶかなんて俺自身も決めてねえ。
で、コートの下にでかい空の紙袋を巻いてるんだよ。
昼過ぎの午後だから電車は空いてて、席に座って盗ったバッグをそれに入れ直した。
ほら、俺がブランドもんのバッグ持ってても釣り合いが悪いだろ。

で、4駅ほど乗ってトイレがホームにある駅で降りた。
男子トイレの個室に入って中身を検めるためだよ。ま、寝屋に帰ってからでもいいんだが、
どんくらいの稼ぎになったか早く知りたくてな。
それにしても重いバッグで、女物なんだがこれを持てるのはかなり力のあるやつだ。
そんなことを考えながらファスナーを開けた。
最初に赤いセーターが出てきたが、畳まれておらず、
中身全体にかぶせるようになってた。で、次から出てきたのがかなり意外なもんだった。
輸血用のパックなんだ。血液製剤とかかもしれないがよくわからん。
とにかく真っ赤な血の色が見える頑丈なビニール袋で、重さは3個で1kgくらいか。
とにかく次から次と出てきたんだ。数十パックあっただろう。
紙袋に詰め替えながら、これって売り物になるのか?って考えた。

まあ価値はあるもんだろうが、医者に知り合いはいないし、売るつてがねえ。
しかもこういうのって冷凍とかしてないとダメなんじゃないか。よく知らんけど。
こら捨てるしかないだろうな、と思った。
パックを全部出し終わると、コンタクトのケース。それから布に包まれた小さなもの。
白い布の中からは入れ歯が出てきた。
・・・最初本物だと思ったが、そうじゃなかったんだよな。
プラスチック製の安物のジョークおもちゃだった。本物の歯の上にかぶせるやつ。
上の犬歯が両方とも尖ってた。こら時期的にハロウインの仮装用かと思ったよ。
ということで、金になりそうなのはバッグだけ。これはフランス製の本物。
買ってくれるとこは確保してある。ていねいに畳んで、これも紙袋に入れた。
個室から出たとたん顔面に衝撃があった。

女がいたんだよ。それも外人の若い女・・・驚くだろ、男子トイレだぞ。
身長は175は超えてただろう。真っ赤な毛皮のコート着た金髪のやつが、
思いっきり俺の頬をひっぱたいたんだ。・・・俺は160ないんだぞ。
衝撃で後ろにひっく返り、背中が個室の戸にあたった。
女はでかいファッショングラスをかけてたし、外人の歳はよくわからないが、
二十歳前に見えたな。そいつはかがみ込んで、
ポケットから注射器を取り出し俺の首筋に刺そうとした。
とっさに這いつくばり、女の足の間をすり抜けて後ろに出た。
もうバッグも紙袋もほっておくしかなかった。そのまま起ち上がり一目散に逃げたよ。
後ろから外国語の金切り声が聞こえたが、振り向きもしなかった。
うーん、英語じゃなかったと思うな。中学校で聞いたのとは違ってた。

駅の外に出てからもずっと走り続け、公園に入った。
俺は足が速いんだよ。中学校じゃ陸上部で長距離やってたから。
公園のトイレで顔を確認した。右側が赤く腫れててひっかき傷ができてた。
爪でやられたんだと思う。ほら、これだよ。まだ治らないんだ。
傷自体は小さいんだがずっと黄色い膿が出て・・・
ああ、すまんな汚いもん見せちまって。でな、冷静になって考えれば不思議だろ。
その女がバッグの持ち主だとして、俺に追いついてあのトイレまで来るってありえねえ。
電車の中ではさりげなく周囲を覗ってた。これは習い性になってるんだ。
その車両にはあの女はいなかったし、そもそもその電車に乗る自体が不可能に思える。
どうやってあの個室の前まで来れたかってことだ。
しかも日本語が不自由そうなのによ。

とにかく、さんざんな結果になったんでその日は仕事はやめた。
こういうのは縁起物だから、一回あやがつくとしばらくは上手くないことが続く。
でな、顔のほうは冷やせばなんとかなりそうだと思って医者に行かなかった。
保険にも入ってないしな。酒を買って寝屋に帰ったんだ。
いや、住みかはあるよ。安アパートだけどな。
鍵を開けて中に入ると・・・コタツの上でくたーっとなって白い猫が死んでたんだ。
これもありえない話で、一間の部屋に鍵をかけてて猫なんて入れるはずがない。
もちろん俺が飼ってる猫じゃないし。よくわからんが、ノラじゃなく高級そうな種類だった。
買えば高いんだろう。体に傷はないように思った。しょうがないから、
新聞で包んでガムテープでぐるぐる巻きにし、コンビニのゴミ箱に捨てに行った。
毛皮の首巻きかと思うほど軽かったよ。

その帰りだ。もう4時すぎてたかな。アパートの前まで来たら、
2階の俺の部屋の窓に赤いもんがちらっと見えた。
見えるはずはない。普段はカーテンを引いたままだからな。あの女だよ。
金髪で赤いコートの、俺を殴った女が部屋に立ってこっちを向いてたんだ。
心底ゾーッとしたね。走って逃げるしかなかった。
いや、部屋自体は惜しくはねえ。こういう商売してるから寝屋はひんぱんに変えるんだ。
一カ所に住むのは長くても3ヶ月だよ。だから家具もほとんどないし、
現金やら通帳なんかもない。いつでも逃げ出せるようにしてある。
それよりも怖いんだよ。やつは何なんだ。どうして俺の後をついてこれるんだ?
あの血液パックは何なんだよ。猫はどうやって死んだんだよ。
でな、その日からサウナ、ネトカフェ、ドヤ街の簡易宿所を転々としてる。

あれ以来あの女の姿は見てないが、少し大き目の仕事をしたら上方に逃げようと思ってる。
じつは昨日な、俺がいた簡易宿所で死人が出たんだよ。
まあドヤ街だからめずらしいことじゃない。
アル中、ヤク中、病気なのに医者に行ってないやつ、そういうのは多いから。
だけどよ、話を聞いたところじゃ、宿が呼んだ医者が失血死って言ったって。
体に傷がないのに大量の血が失われてたらしい。
それで警察も来たし、俺も足止めを言い渡されてる。
後で事情聴取とかあるのかもしんねえ。もちろんその前にふけるつもりだが。
どう思う?これもあの女と関係があることなのか?
それとよ、その昨日の朝なんだが、起きたときに口の中に変な味がして、
鏡を見たら中が真っ赤だったんだよ。

*題名は「bloodsucker」のもじり






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