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貨客船

2014.11.22 (Sat)
これ・・・って、たぶん前の人の話と関係があるんじゃねえかと思うんだが、
前のは今年の話なんだろ? 俺のはもう20年近く前のことだから、
違うのかもしれねえ。でもなあ・・・まあ、話させてもらうよ。
その頃、俺は会社を興して、羽振りがよかったんだ。
業務はロシアへ日本の中古車を輸出することだよ。
車、特に日本車は重要部品をきちんきちんと交換してれば、15年も20年も保つ。
その頃ロシアは、ソビエト崩壊から国として復活したばかりで貧しかった。
だからそういう古い車の需要があったんだよ。
で、今だから言うけどまっとうな商売だけじゃなかった。
盗難車も扱ってたんだ。ただしこれは車体番号なんかがあるから、
そのままじゃ運べない。部品にバラして輸出し、向こうで再組み立てするんだ。

そのための工場もウラジオストクにこさえた。で、ちょくちょく出向いてたんだ。
ロシアは危険でね。ソビエト当時の武器がたくさん出回ってた。
これは今でもあまり変わらないけどな。マフィアがカ小銃やマシンガン持ってた。
だから油断したことはねえよ。ロシア人はほとんどが機嫌悪いし、
自分に利益をもたらさないやつは、基本、敵と思ってるから。
「ロシア人が優しいのは、子どもと動物にだけ」って言葉の通りだ。
で、いつもボデイガード連れて歩いてた。
こっちの組から借りたやつで、フルコン空手の3段。20代前半で体も大きい。
ま、銃器相手じゃどうにもならんけどな。
そんときは、行きは飛行機だったけど、帰りは貨客船に乗ったんだ。
船だと時間がかかると思うだろうが、2日くらいのもんだ。近いからな。

その船の中での話だ。客室は100くらいだったか、貨物スペースが主だったんだよ。
俺とボデイガードは一等船室をとってた。じゃないと2段ベッドになる。
客は日本に来るロシア人が主で、当時は観光より商用が多かった。
食事は食堂でとるんだ。あとバーもあった。
そこのバーで、すげえ女を見たんだよ。
背が高くて・・・ハイヒール履いて185はあったと思うから175以上だな。
染めたような鮮やかな金髪で、冬だというのに大きなサングラス、
真っ赤な毛皮のコートをはおってた。若くて10代後半だと思った。
な、前の話と似てるだろ。バーのカウンターで短時間飲んで出てったんだが、
印象に残った。ボデイガードのやつなんか、宝石でも見るような目をしてたよ。
ロシアにはきれいなネーチャンは多いが、ものが違ってたんだ。

俺が船内で見たのはその1回きりで、食堂には下りてこなかった。
ルームサービスで食事を運ばせてるんだと思った。
でね、その夜、なんとボデイガードのやつが、
この女に船室に誘われたって言うんだ。
こっからはそいつから聞いた話だから、どこまで本当かわからんが、
うらやましいような、どっか怖いような内容だったよ。
売店で日本の菓子を買って戻る途中で、女が自分の船室のドアから顔を出し、
日本語で呼びかけたっていうんだ。
「ニホンノ ヒト デスネ、ジンジャノ ハナシヲ キキタイ デス」こう言われたらしい。
日本語ができたんだよ。発音はあまりよくなかったらしいが、
文法的な間違いはほとんどなかったそうだ。で、天にも昇る気持ちで中に入った。

イスにかけてかなり長い時間、日本の神道の話をしたらしい。
といっても、しょせんこいつはヤクザだからそんなに知識はない。
盃事に出てくる鹿島・香取の大明神くらいしか知らないだろ。あと天照大神とか。
ずいぶん熱心にいろいろ聞かれたが、答えられないことが多かったって言ってた。
そのときは、派手な恰好をしてるが、
女は日本文化を研究してる学生なのかもしれないと思ったそうだ。
で、話の最中にビールを出されたが、女が冷蔵庫を開けたとき、
せまい寝室で中が見えた。・・・これもさっきの話に出てたが、
中には真っ赤な色のビニールパックがたくさん詰まってたそうだ。
輸血用のパックってことだな。なぜそんなものがあるかわからなかったが、
女は隠すそぶりもなかったそうだ。

でな、話の後でベッドに誘われた。女から誘ってきたそうだ。
そのときまでずっと女はサングラスをかけたままだったが、服を脱ぐときに外した。
そしたら、目がが真っ赤な色をしてたんだそうだ。
ああ、これは充血してるってことじゃなく、瞳そのものが赤い色をしてたって意味。
おそらく色素異常とかだったんだろう。
もしかしたら冷蔵庫の輸血パックもそれと関係があるかもしれないと思ったそうだ。
ベッドの中では・・・まあ俺は人の色事なんて興味はないが、
こんときはちょっとだけうらやましくてね。あれこれ聞いたんだ。
そしたらずいぶん情熱的だったって。
長い爪で背中をひっかかれたって傷跡まで見せられた。
ナイフで切ったような鋭い跡で、じくじく血と黄色い膿がにじんでた。

最後に部屋を出るとき、女が日本語でそいつに、
「イマハ コロサナイ」って言ったそうだ。
そして日本での連絡先、ホテルの住所を書いた紙を渡された。
聞き間違いだと思ったって。「コロス」なんて穏当じゃないからね。
で、2日目の夜もそいつは女のことを期待してたようだが、
船室から出てこなかったらしい。
ま、日本でまた会えると思ってガマンしたって言ってた。
船は日本に着いて通関作業があり、これが普通は2時間程度のもんだが、
えらく時間がかかった。後で聞いた話によると、
中国人の船員が1人行方不明になってて、そのせいだったようだ。
船の中だから、行方不明たってケンカか自殺で海に落ちたしか考えられないけどな。

やっとのことで港に降りると、ずっと先を赤いコートの女が、
でかいボストンバックを引きずって歩いてた。
ボデイガードは今にも走り出していきそうだったが、
黒塗りの高級車が来て、女はそれに乗って行ってしまった。
俺はボデイガードと近くのレストランに入って食事をとり、
「深入りしないほうがいいんじゃないか」と忠告した。
あれが学生なわけはねえ。スパイとまでは言わないが、
何かの組織に関係してるに決まってる。そこでボデイガードとは別れた。
でな、3日ほど後にそいつの組に礼の電話をしたんだが、
そしたら連絡がつかなくなってるって聞かされた。その後ずっと行方知れずだよ。
あれから何度もロシアには行ったが、その女の姿は見かけたことはない。

ただな、噂はちょくちょく聞くんだよ。
これは日本でのことなんだが、
いつも赤いコートを来てサングラスをかけている外人女の話。
すべて裏の社会のことで、血なまぐさい場面でその女が出てくる。
リーマンショック後の総選挙のときや九州での抗争とか。
けっこうな勢力を持ってるようだが、詳しいことを知ってるやつがいない。
まあ俺はここのところずっと堅気の仕事をしてるから、そのせいだと思うが。
・・・世の中にはかかわっちゃいけない部分があって、
そういうのを慎重に避けてきたから、この歳まで無事でいられたんだ。
触れると、すぐに死神がすっ飛んでくるようなことがね。
あるんだよ。あんたらだってわかるだろ。






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コメント
毎日素晴らしい作品を生み出されてて
非常におどろいています。
どの話も引き込まれ
読み終えた所で必ず背筋がぞっとします。

今日のは特にぞくっとしました。

新しいお話を拝見するのを楽しみにしています。
朔 | 2014.11.22 19:47 | 編集
コメントありがとうございます
これは謙遜とかではないんですが
自分は単なるネットの怪談師で
作品とかそういう高級なものではありませんよ
bigbossman | 2014.11.23 00:19 | 編集
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