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繭の記憶

2014.11.26 (Wed)
地元テレビ局の公開収録の会場にいました。彼といっしょにです。
その番組はローカル局が作っているバラエティなんですが、
心霊現象や超能力を扱ったコーナーが好きで、ちょくちょく見に行ってたんです。
その日は、地元の精神科医の先生が出演して催眠術を実演してくださる予定でした。
退行催眠といわれるものです。これは催眠状態に入った人の記憶をどんどん遡らせ、
幼児から母親のお腹の中にいる胎児の状態まで戻らせます。
もちろん興味本位で行われるわけではなく、
心的外傷などを治療するための術式の一つということでした。
そしてこの退行催眠中、稀に前世の記憶を思い出す人までいるんだそうです。
先生が参加者から希望する人を募り、さっそく彼が手をあげました。
こういうのは私よりも好きなくらいで、何でも体験してみたい口なんです。

指名にあたった彼は、舞台上でリクライニングチェアーに腰掛け、
膝に毛布をかけた状態になったところで、先生が落ち着いた声で語りかけました。
「目の前に白い階段があります。そこをどんどん下におりる様子を思い浮かべてください」
催眠術というと、目の前でヒモでつるしたコインを振るなんてイメージがあったんですが、
そうではありませんでした。
普通に話してるのと変わらないし、どこで催眠に入ったのかもよくわからなかったです。
「さあ、目の前にドアがあります。開けてください。
 そこはあなたが小学校だった時代です。目の前に誰がいます?」
彼は半眼になっていて、先生の問いに答えて何人かの名前をつぶやきました。
聞いたことがない名ばかりで、私が知っている現在の彼の友だちではありません。
小学校のときに親しかった人たちなんだと思いました。
「小学校のときの最も心に残っている思い出を話してください」

彼は6年生での大阪への修学旅行のことを話し始めました。
それが終わると「さあ、もっと深いところに行きますよ。あなたは幼稚園?保育園?」
彼が「幼稚園です」と答え、また別の子どもの名前をいくつかあげました。
さっきと同じように先生が「幼稚園で最も心に残っていることは?」
その質問に答えようとして、彼の額にしわが寄りました。
「僕は・・・お母さんといっしょにいます。お母さんの隣で手をつないで・・・
 お母さんの隣にもう一人僕がいます。同じ顔をした僕がお母さんの両脇に・・・」
先生は興味深そうな顔つきになって「何をしていますか?」
「山道を3人で登っています。小屋・・・神社かもしれません、ボロボロの小屋みたいな。
 そこに入っていき・・・人形がたくさん・・・木の棒が紙の服を着た」
彼の声のトーンが少し高くなりました。

「おばあさんがいます。見たことない人で、お母さんがおばあさんに何か聞いています。
 選んでくれって言っているみたいです。おばあさんは僕らの顔をかわりがわり見て
 僕でない僕、もう一人の僕の頭をなでて・・・」
「ほう、それで」先生の声にこころなしか力がこもっている気がしました。
「おばあさんが床の板を持ち上げました。みんなでそこに入っていく・・・
 そこには・・・いくつもマユがあります。大きなマユです」
「マユって?」先生が聞きました。そのときです。
彼のチェアーに伸ばしていた足がビンと硬直しました。
両手でアームレストをつかみ腰を浮かせて彼は絶叫したんです。目と口を限界まで開いて。
彼の口から光る白い線が何本も伸びているように見えました。
それはライトに当たってキラキラと輝きました。

私は席から立って舞台に駆け上がろうとしました。「先生!」テレビ局の人の声がし、
先生が「さあ、背中に羽が生えた。どんどん上に登って現在に戻ります。さあ」
切迫した声で言って手を叩きました。「あ、あ、ああ?」彼が間の抜けた声を出し、
目をぱちくりさせました。「カット、カット!」「今のちょっと使えないよ」こんな声が響き、
静まっていた客席がざわつき始めましたが、
先生は彼を立たせて「大丈夫ですか?」と聞き、彼が「ああ、なんとか平気です」と答えると、
それも収まりました。先生が床に落ちていた白い線をつまみ上げ、
「繭糸だ」ぼそっと漏らしたのが聞こえました。
その後彼は客席に戻ってきましたが、何か考え込むような顔でした。
撮影のほうは、他の人が彼に変わって催眠術をかけられ、
他愛のないエピソードをいくつか話して無事に終わったんです。

私たちがスタジオから出たところで、後ろから呼び止められました。催眠術の先生でした。
「体調はどうです。具合悪くないですか?」と彼に聞きました。
彼が「ええ、いやなんともありません。ただ、あまり奇妙な記憶で混乱して・・・」
そう答えると「よかった。すごく興味深い内容でした。
 どうですか下の喫茶店でもう少し詳しく」
3人で局の1階にある喫茶店に入りました。そこで彼はこんな話をしたんです。
「目の前に山があって、あんまり高くはなく、なんとなく見覚えのある形をしてました。
 たぶん俺が小学校以前まで住んでた町にあった山じゃないかと思います。
 さっき断片的にしゃべったように、
 母と俺ともう一人の男の子で山に登って神社に入ったんです。
 そしたら中に木でできた30cmくらいの人形が数えられないほどたくさんありました」

「白い着物のおばあさんがいて、僕ともう1人の僕の顔をかわるがわる見て、
 僕でないほうの僕の頭をなでたんです。それから4人で、神社の地下?に降りました」
「それで」「いや、そこまでです。それしか覚えてない」
「さっきはマユって言ってましたが」
「わかりません。何か目の前がキラキラ光る白い物だらけになって・・・」
「そうですか。さっきあなたが吐いたものです」先生がポケットからハンカチを出し
中に包んだ物をテーブルに載せました。
それはやや黄ばんだ光沢のある糸をくるくる丸めたものでした。
「俺が吐いたんですか?何でしょうか、これ?」
「カイコガだと思います。その繭糸ですね」「繭糸・・・・わかりません。俺が吐いた!?」
「さっきの舞台の上で口からね。拾い集めてきました。それとですね・・・
 あなたは自分とそっくりな子どもがもう一人って言ってましたが、もしかして双子ですか?」

「いえ、俺は妹と2人兄弟で、俺が幼稚園の頃は妹はまだ生まれてないですし、
 双子ってことはありえないです」
「・・・お母さんはご健在ですか?」
「それが、つい2年前亡くなりました。父は早くに亡くしてたんで、
 家族は社会人になったばかりの妹だけです」
「あなたが幼稚園時代を過ごした町は遠いんですか?」「車で3時間くらい」
「次の日曜日3人で行ってみませんか、そこに」先生が言いました。
そして4日前のことです。朝早くから先生が車を出してくださり、
彼が幼年時代に過ごした町に行ったんです。
そこは寂れた町で、すっかり木々は冬枯れして陰鬱な感じがしました。
過疎が進んで、彼が過ごした頃から人口は半減以下になっているそうです。

役場のある通りに曲がると、正面に山が見えました。
数百mくらいでしょうが特徴的な形です。
「あの山です。覚えてます」彼が懐かしそうに言いました。
30分ほど走って山すそに出、麓の林の中に車を停めて石段になった道を登りました。
私たちの他に人の姿は見かけませんでした。しばらく行くと中腹に神社が見えてきました。
といっても、屋根の形でかろうじて神社とわかる程度のあばら屋です。
まわりには雑草がぼうぼうに生え、
ずいぶん長い間だれも足を踏み入れていないように見えました。
先生が正面に回って扉に手をかけました。鍵などは最初からないようでした。
彼も手伝って重い扉を開けると、中は埃と蜘蛛の巣だらけで・・・
先生が懐中電灯で照らすと、正面意外の三方の板壁に棚が設けられてあり、
そこにたくさんの人形?が並んでいました。数百体はあったと思います。

不思議な姿をしていました。本体はただの30cmほどの棒なんです。
それに奇妙な形に紙が幾重にも巻きつけられていました。
遠目に見て、かろうじて着物という感じがするだけのものです。
「ちょっと変わってるけど、オシラサマだね」先生が言い、
懐中電灯で床を照らし出しました。そこは8畳間くらいの広さで床も木張りでしたが、
隅の一カ所が1m四方ほどの一枚板になってました。
先生が彼に合図をして2人で持ち上げました。
思ったより軽くすぐに外れて、床下が空洞になっていました。
縦梯子があり、彼に上から照らさせながら慎重に降りていきました。
そのとき中に光が入って、相当な広さがあることがわかりました。
奥のほうに白いものが積み上がるように重なっていて、光を反射していました。
その後懐中電灯を先生に手渡して彼が降りました。

私も降りようとしたんですが、彼に止められたんです。
神社の中で待っているように言われ、むくれました。
言い返そうとしたんですが、中から「あなたはそこにいなさい」先生強い声がして、
しかたなくそこに立っていたんです。
床下から2人がぼそぼそ話す声が聞こえてきましたが、
くぐもっていて内容はわかりませんでした。数分して「ああ!」大きな声が響きました。
先生がまず始めに、それから彼が息せき切って上がってきました。
2人とも足ががくがく震え、顔色が蒼白でした。
「何があったの?」私が聞いても、どちらも答えません。
顔を見合わせていましたが、ややあって先生が「マユだよ」とだけ言いました。
私は彼に腕を引かれて小屋の外に連れ出され、山を下りて車に乗り市へと戻ったんです。

車中ではだれも口を聞きませんでした。聞きたいことは山ほどあったんですが、
何かを言える雰囲気じゃなかったんです。
先生は駅前で私たちを降ろしてくれましたが、彼が降りようとしたとき、
「あれはなくしてしまうよ、いいね」強い口調で言いました。
彼は一瞬の躊躇もなく「ええぜひ、お願いします。
 あんなものが世の中にあるなんて許されることじゃない」泣きそうな声で答えました。
それからこの3日、彼から連絡がありません。
携帯はずっと電源が入っていない状態で、こんなことは初めてでした。
アパートに訪ねて行っても不在なんです。先生からは1度連絡がありました。
「町にかけあって、あの神社はつぶしてもらうことになった。
 山を切り崩し、大量の土で埋めてもらう。わたしは少しは顔も利くし、
 役場の人に見せたら二つ返事で承知したよ」って・・・

『オシラサマ』





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コメント
 封印されていた記憶が蘇るにつれ、自分の存在が足元から揺らいでいく、というパターンは個人的にとても怖いですね。逃れ得ない不安感が、巻き込まれ型の怪談にはないスパイスだと思います。
 ところでこの先生、お医者さんにしては妙にオカルト側に踏み込んできますね。何か別の顔を持っているとか・・・
| 2014.11.27 01:06 | 編集
コメントありがとうございます
無意識の罪悪感みたいなものを持っている人は
けっこう多いのではないかと思います
もしかしたら自分は忘れているんだけど
大変なことを過去にしでかしているんじゃないかとか
この精神科医はなんでしょうねえ
こういうことを書けば怒られるかもしれませんが
精神医学はある面呪術的ですから
bigbossman | 2014.11.29 03:20 | 編集
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