白銀

2014.12.21 (Sun)
先週のことです。金曜を年休取って、土日とかけてスキーに行きました。
2泊3日の今シーズンの滑り始めでした。いえ、一人で車で行ったんです。
片道4時間ほどもかかりましたが。
スキー用具を送って、電車で行くってのはあんまり好きじゃないんですよ。
それと、人といっしょに行くのもちょっと。
気を遣うし、初心者がいたりすれば自分のペースで滑れないじゃないですか。
どのみち、俺の職場にはスキーできるやつってあんまりいないんです。
所帯持ちの先輩は、行くにしても家族とだろうし。
宿泊はネットで探して、半ホテルの温泉宿にしたんです。
ペンションははっきり嫌いですね。やっぱオーナーに気を遣うし、
キッチンとかで手料理をふるまわれるとかも、俺は落ち着かないですね。

夜は自分の部屋で酒飲んで、好きなようにしたいじゃないですか。
出身が雪国なんです。スキーは子どもの頃からやってました。
小中とも学校の裏の山に専用のスキー場がありましたよ。ロープつかんで登るやつ。
1日目、宿に着いたのが2時過ぎでした。
で、部屋に荷物を置いて、さっそく滑りに行ったんです。
快晴で、雪質もよく、気持ちよかったですよ。
6時過ぎに滑り終えて、宿に戻りました。ナイターもあったんですが、自重したんです。
まだ1日半ありますから。筋肉痛で滑れないなんてことになったら、
何のために来たかわからないですし。
部屋に食事を運んでもらって、持ってきたウイスキーをちびちびやってね。
ベッドでテレビを見てるうちに寝てしまいました。

翌朝のことです。起きてすぐ窓のほうを見ました。天気が気になるじゃないですか。
そしたら、外に人がいたんです。「え!」と思いました。
部屋の外に廊下があって、そこに籐椅子とテーブル、
廊下に面した窓の外にバルコニーがあるんですが、
雪が積もってるから出ないように宿の人に言われてたんです。
バルコニーにはもちろん、その部屋からじゃないと行けない作りになってるんですよ。
小学生の女の子だと思いました、赤の地に太い白の線の入ったスキースーツを着た。
顔はわかりません、競技用のクラッシュヘルメットをかぶってましたから。
半身をこっちに向けて立ってるように見えたんですが・・・
近づいていくと誰もいなかったんですよ。いや、そのときは幽霊とか思いませんでした。
雪が朝の光でまぶしいくらい明るかったし。

だから・・・気の迷い、幻覚だと考えたんです。ウイスキーもけっこう飲んでましたから。
バルコニーには足跡どころか、人が立てば膝まで埋まるくらいの雪がありましたし。
でね、朝食を食べてすぐ、スキー場に出かけたんです。
宿からは歩いていけるほど近かったです。
パスを買ってましたので、午前中はゴンドラで何本も滑り、ヒュッテで食事をしました。
ええ、ビールも飲みましたが、1杯だけですよ。
で、午後からは上級者コースに行ったんです。リフトでしか行けない高いほうです。
そこは斜面が急なので初心者はいないし、ジャマなスノボもいません。
3本ほど滑って、またリフトに乗ったとき・・・もう上に着くというあたりで、
下を赤いスーツの女の子が滑っていくのが見えたんです。

朝と同じスキースーツで、同じ子だと思いました。
でも、下はまばらな林とリフトの支柱が立ち並んだ、圧雪されてない斜面です。
滑走禁止区域だし、ありえないと思いました。もう一度確認しようとしたら、
女の子の姿はありませんでした。
それと、滑っていたならついているはずのシュプールも見えなかったです。
このときに急に怖くなったんです。・・・女の子の赤いスーツですね。
それが記憶にひっかっかってるっていうか。でも、考えてみてもわかりませんでした。
もう上で滑るのはやめて、人のたくさんいるコースにずっといましたよ。
やっぱり怖いので、この日もナイターはやめちゃったんです。
で、宿に戻って、思い切ってロビーで話したんです。スキー場でのことじゃなく、
朝、部屋のバルコニーに女の子がいたと思ったことをです。

そしたら、係員は変な顔をしてましたが、「ちょっと待ってください」と、
奥に引っ込んでいきました。代わって、60過ぎくらいの白髪の紳士が出てきたんです。
そこの温泉ホテルのオーナーということでした。女の子の服装のことを聞かれたんで、
「赤に白い線」と答えたら、「ああ」とため息のような声を出し、
ホテルの裏手にあるオーナーの住居に案内されました。
そこの一室に案内され、中にはたくさんのトロフィー類が整然と並べられていました。
壁には新聞の切り抜きを額に入れたもの。
子供用の机の上に写真立てがあり、女の子の古い写真が飾られてありました。
その中に、あの赤いスキースーツでコースを滑っているのもあったんですよ。
オーナーの話で、それが娘さんであることがわかりました。小さい頃からスキーを仕込んで、
トロフィー類はその子がいろんな大会で取ったものだったんです。

その子は関係者から将来を嘱望されていたんですが、夜間の練習中にコースを外れ、
停まっていた雪上車に衝突して、3ヶ月入院した後に亡くなったということでした。
「未練がましいと思うでしょうけど、娘の思い出のものをこの部屋にまとめてあります。
 あれから10年近くたつが、あなたが見たのは娘じゃないかと思う。
 でも、なぜ姿を見せたのかわからない」オーナーはこう言ったんですが、
俺には心あたりがなくもなかったんです。額に飾られている新聞の切り抜きの中に、
東北の有名スキー場の大会で5年生の女子の部でその子が優勝した記事があったんですが、
同じとき男子の部で優勝したのが俺だったんですよ。
おそらくその大会の表彰式で、姿を見ているんだと思います。
だから、赤いスキースーツが記憶の底にひっかかっていたんじゃないかと。
オーナーはずっとその土地に住んでいて、
その子が亡くなったのは一つ隣のスキー場ということでした。

でね、3日目。午前中滑ってから帰るつもりだったんですが、
予定を変更して、その子が亡くなったというスキー場に行ってみたんです。
そこは町営でロープとリフトしかなく、コースも短かったんですが、
かなりの急斜面でした。日曜なのに一般客はほとんどなく、
そのかわり小中生が来て練習していました。おそらくこれから大会が続くんでしょう。
頂上までリフトに乗り、4本滑りましたが特に何事もなかったんです。
帰る時間が近づいてきたんで、最後にと思い、子どもらがいなくなっていたので、
役員らしき方にお願いして、彼らが練習していた大回転のコースを滑らせてもらったんです。
ポールを通るのは久しぶりで、もうぜんぜんなまっているのがすぐにわかりました。
もしタイムを計ったら、小学生の時より何秒も遅かったかもしれませんね。
あまりに体が思うように動かず悔しかったんで、もう一本滑りました。

1回目よりはだいぶマシでしたよ。リズムに乗って滑れていたと思います。
時間にすれば2分もかからなかったでしょうが、
その間に子どもの頃のことをたくさん思い出しました。
あと最後の旗門を通ってゴールするだけ、というところで、
曇り空の雲のすき間から太陽が顔を出し、あたりをまぶしく照らしました。
斜面が銀白色に輝いて・・・もちろんゴーグルはしてましたが、
一瞬目が眩んで足がもつれ、転倒してしまいました。
いや、ずっとカッコつけて滑ってましたんで、転ぶ感覚も懐かしかったです。
そのまま背中で滑っていると、ふっと横を、小さな赤いスキースーツが
追い抜いていき、両腕を開いてゴールの旗門を通過し、消えたんです。
いえ、もう怖くはなかったです。・・・彼女はずっと競技の中にいるんでしょうね。
それが幸せなのかどうかはわかりませんが・・・まあこんな話ですよ。





関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/615-8a25bd53
トラックバック
コメント
 イメージカラーが印象的な話が続きましたね。内容は不気味だった前回と正反対で、切ないというか爽やかというか・・・そんな感じです。
 私はウィンターに限らずスポーツは全くやらないんですが、年齢・性別・優劣を(もしかすると生死も)超えた、競技者同士にしか分からないシンパシーがあるんでしょうね。
| 2014.12.22 01:14 | 編集
コメントありがとうございます
特に色ということを意識したわけではないんですが・・・
題名はかなりいいかげんにつけてます
これは「スキーの歌」(山は白銀、朝日を浴びて~)から
bigbossman | 2014.12.22 23:15 | 編集
管理者にだけ表示を許可する