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斑(はだら)神社(上)

2014.12.23 (Tue)
県の・・・ここ、秘密を厳守してくださいますでしょうか。ああ。そうですか。
わたしは県の民俗博物館に勤務しておりまして、教育委員会の職員なんです。
ですから、これから話すのは職務上知り得えた内容でして、
まずそこをなんとか理解していただきたいと思います。
ふた月前、10月の中旬ですね。季節外れの雷雨がありまして、
落雷で神社らしき建物が半焼したんです。
山の上から火の手が上がっていると近くの住民が通報したんですが、
とうてい消防の入れない山の奥でね。あたりに他の建物もなかったので、
燃えるにまかせるしかなかったようです。
大雨でしたので、建物の外側の火はすぐ消えたようですが、
内部は黒焦げになりました。で、消防の検証が終わって、
県のほうに、社殿を取り壊していいかどうかの問い合わせをしてきたんです。

あれこれ調べたんですが、どこにもその神社の記録がなかったんです。
ええ、神社ってのは、村外れにある小屋みたいなのでも登録があるし、
担当の神主がいて、定期的にお祀りを行ってるのが普通です。
新興宗教の建物は別ですけどね。
だから県内の主だった神社の社務所にも電話で聞いたんですが、
どこも知らないって回答で・・・
で、わたしが勤務している博物館のほうにお鉢が回ってきたんです。
まあ形だけですけども調査をして、文化的に貴重なものでなければ解体する予定でした。
いえ、私有地ということはありません。国有林内ですから。平日に、わたしと部下と、
それからそこの地域の神社の神職の方がつきあってくださるようお願いして、
3人で現地調査に行ったんです。場所は、高速道路の高架ってあるでしょ。
あの細いやつを渡った山の上にあるんです。山といっても100mもないですけど。

車で4時間かけてその地域に入り、町中で神主さんを拾って、その神社まで行きました。
もちろん歩きですよ。高速の反対側の集落から、
高架を渡ってくしか道はないんですから。それでね、不思議なのは、
高速道路の高架ってずいぶんお金の無駄遣いって言われてますよね。
住民の方が道路を横断する用がほんのちょっとでもあれば、
高架、陸橋をかけなくちゃなりません。
だから、誰かがその神社への通交を要望したんじゃないかと思うんですが、
そのあたりがよくわからなかったんです。
近くの住民の方は神社があることさえ知らなかったようでしたから。
午後2時頃でしたね。暗くなるのが早い季節なので、
2時間程度で済ませるなくてはなりません。つまり、見るだけってことです。

3人で人しか通れない高架を渡って、山に入りました。
ええ、道らしきものはありました。林の中の獣道程度のものでしたけど。
そこだけ生えている草丈が周りより低くなってて、でも人が通ってる様子もない。
10分もかからず社殿の前に出ましたよ。聞いていたとおりの大きさで、2間四方。
外面はあまり焼けてなかったので、用材の観察はできました。
かなり古いマツ材で、内部はボロボロに朽ちてましたね。
落雷がなくても、近いうちに倒壊する運命は免れなかったでしょう。
内部はかなり焼けていましたよ。畳もゴザもないむき出しの床、
祭具一つ見あたりませんでした。祭壇らしき棚が一つだけあって、
立派な鹿の角がひとそろい下に落ちていました。あったのはそれだけです。
それで、急いで簡単な測量をし、四方からと内部の写真を撮りました。

「ご神体らしきものもないし、これは造りだけ神社風に仕立ててあるだけで、
 別の用途に使われた小屋ではないでしょうか。鳥居もありませんし。
 千木があるのがちょっと信じられませんが。古文書をあたってみましたが、
 ここに神社があった記録はなかったです」神主さんが説明してくれました。
ここまで1時間半程度です。思ったより早く終わっりました。
神社から離れようとしたとき、神主さんが高床の社殿の下をのぞき込んで、
「ん、ん?」と言いました。わたしたちもかがんで見ると、
暗い奥のほうに何か棒のようなものが積まれてあるのがわかりました。
それが、ライトで照らすと、どうも骨のように見えたんです。
「ああ、厄介なことになるかも」こう考えながら部下を潜らせました。
蜘蛛の巣だらけになった部下が何本かを持ち出してきましたが、
やはり、全部白く乾いた骨だったんです。

それを見てひとまず安堵しましたよ。というのは人骨じゃなかったんです。
だてに博物館勤務はしていません。人骨なら一目でわかるつもりです。
でもそれらは、どう見ても動物の骨・・・鹿はわかりましたし、猪も。
昔に猟師が獲物の解体に使った小屋なんだろうと推測したんです。
なぜ屋根を神社風に仕立ててあるのかはわかりませんが。
ここらは昔から猟師の多いところで、
まだ地域には鉄砲を所持した年寄りも何人か残ってるんですよ。
ただ万が一のことがあるかもしれないので、警察に連絡する必要があるとは思いました。
いえ、わたしたちの仕事はこれで終わりです。骨は文化財ではありませんから。
今度こそ戻ろうとしたとき、大粒の雨が降ってきました。
予報は見てきましたが、この地域は20%だったので、雨具の準備はしてませんでした。

急に暗くなった中を小走りで林を抜け、高架を渡りました。
ここまででズブ濡れになってしまいましたが、
高速の外にある車までは、まだ10分以上かかるんです。
60過ぎの神主さんの息が切れてるようでしたので、あきらめて歩こうとしました。
そのとき、背後の山、さっき見てきた建物のある方角で「オーン」という音がしたんです。
うーん、そのときは生き物の声というより、一種のサイレンのように思えましたね。
何かはわかりませんでした。ほうほうの体で車までたどり着き、
車にあるだけのタオルで体を拭きました。いやいや、公用車なんてないですから。
車はわたしの古いパジェロで、シートが濡れるのは別にかまわなかったんですけど、
ぞくぞくと寒気がしました。ヒーターを全開にして車を出しました。
神主さんを家まで送り、いったん集落を出てインターから高速に上がるんです。

一つ奥のインターのほうが近いんで、そっから入ります。
後戻りするんですが、時間的にはそのほうが早いので。
つまりもう一回あの建物に続く高架の下を通ることなるんですが、
そのときは特に何も考えてませんでした。
雨はますます激しくなってきて、ワイパーを最強で動かしてもやっと前が見える、
という感じでした。でも、ヒーターが効いて体が温まってきました。
神主さんに礼を言って別れ、インターに入りました。
田舎の高速ですから、そろそろ退社の時間が近くなっても車通りはほとんどなかったです。
博物館のある市に着けば8過ぎ・・・まあ予定通りです。
勤務時間を超過した分、明日の午前は遅く出てもいい許可をもらってました。
雨が激しくて、スピードを抑えて走ってたんです。

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