幽霊がいる

2014.12.28 (Sun)
2週間ほど前から、昨日あった忘年会までのできごとです。
最初は、課長をのぞいた課内の中堅以下社員で居酒屋に行った夜ですね。
課長がいないのは、はっきり言って嫌われてたんです。4月からこの課に来たんですけど、
横暴だし、ミスを人に押しつけるし、女子社員はお茶くみ要員なんて言うし・・・
みんなで座敷の一角で乾杯して、しばらく課長の悪口を言ってたんですが、
それもダレてきたとき、一番若い牧野くんという男性社員がこんな話をしたんです。
「そういえばこの前、よくわかんないんですけど変なもん見たんです」って。
「ほら、会社のビルを出て一つ後ろの通りに行くと、向かい側に中華料理屋があるでしょ。
 その数件隣につぶれて店じまいしたスナックがあるじゃないですか。
 ふだんはあっち通んないんだけど、たまたまその日残業の帰り10時頃、
 むこうを通って駅に行こうとしたんです。母親から胃痛薬買ってくるようたのまれてて」

「あの通りに、遅くまでやってる薬局があるじゃないですか。
 したらそのスナックの横を通ったとき、隣のビルとの間のせまい隙間で、
 何か動くものがあった気がしたんです」
「ふうん、それで」
「あそこの隙間は50cmもあるかな。人ひとり立つのがやっとって感じ。
 のぞき込んで見たら、白い着物を着た女が立ってたんです。
 しかも前後にぶらんぶらん揺れて」 「揺れるって、どういうこと?」
「ブランコあるじゃないですか。あんな感じで大きく揺れて、
 前に来たときこっちに足の裏が見える」
「意味わかんねえな。実際にブランコがあるのか?」
「いえ、女だけです。だから曲芸見てるみたいで」

「えー壁の両側に手を突っ張って、体操みたいにしてたんてこと?ありえないんじゃない」
「ですよね。俺もありえないと思って怖くなって逃げたんです」
「女の年格好は?どんな顔してた?」
「それが覚えてないんです。印象に残ってるのは長い髪と着物の色だけで」
「うーん、幽霊なのかな、でも足の裏が見えたんだろ。足がある幽霊ってのも変だし。
・・・だったら着物の裾はどうなってた。もしかして中も見えたんじゃないか」
「いや・・・覚えてないです」
「へー、見間違いするようなこととも思えないな。
 実際に女がいて曲芸まがいのことをしてたか、それとも本当に幽霊かもな」
「興味深いな。駅まではあっち通っても距離はかわんないから、今度行って見てみよう」
「私も。7時過ぎくらいなら人通りが多いから怖くないし」

こんな会話になったんです。
翌日の帰宅時ですね。まだ7時前でした。前の夜の話を思い出し、
そこの道を通ってスナック横の隙間をのぞいてみました。真っ暗で何も見えませんでした。
もちろん見えるとも思ってなかったですし、ちょっとした作り話だったんだろうと。
ところが翌日の昼休み、女子職員だけでお昼を食べに行ったんです。
そしたら先輩の佐々木さんが「あの隙間、昨日通ったら確かに何かいた」
って言い出したんです。「えー私ものぞいたけど見なかったです。ブランコ女でしたか?」
「いや、そうじゃなかった。はっきりしなかったけど、おばあさんだと思った。
 ただ黙って立ってるだけ」 「それも怖いですね。何時頃でしたか?」
「昨日はかなり仕事して帰ったから、10時半頃かな」
「じゃ牧野くんが見たのとだいたい同じ」「そうね」

それから昼休みのたびに情報交換しました。男性社員にも来てもらって。
そしたらやっぱり見たって人がいたんです。中堅の武藤さんです。
「俺はかなり遅くなって終電前の時間だな。前に聞いてた話を思い出して、
 あの道通ったんだよ。さすがに人通りが少なくなって薄気味悪かったけど。
 で、隙間をのぞき込んで、確かに見たと思った。ブランコ女でも婆さんでもなかったぞ」
「何でしたか?」 「女の子だと思った、10歳くらいの。
おかっぱ頭に赤い着物を着て、手鞠をついてた」
「・・・・」さすがにこれは嘘なんじゃないかと思いました。
だってあまりにもできすぎてますし。
・・・10日ほどで課内で見た人が5人まで増えたんです。
ただ隙間に何かいたってことが同じだけで、
見たものは年齢から恰好からてんでんバラバラでしたけど。

共通点があるのは、隙間にいたのは全部女だったってことくらいです。
それで・・・忘年会の前の日の昼休みですね。
最初に出てきた牧野くんから伝言がまわってきたんです。
「大事な話があるので、昼休みにKホテルで食事しませんか。
 女性社員のほうをまとめていただければ」って。
集まったのは、課長とその日お休みしてた一人以外、課長補佐も含めた課の全員で、13名。
Kホテルのラウンジは高いので、ふだんまず行くことはありませんでした。
食事を頼んでから、Kくんがこんなことを切り出しました。
「えーみなさん、こないだから隙間の幽霊の話が出てましたよね。
 最初は僕がしたブランコ女の話。それでみなさんが興味をもってくれて、
 見た人が増えてった。でもあれ、僕がしたのは作り話なんです」

「えー俺が見たのはホントだぞ。鞠つき少女は」と武藤さん。
「ええ、ええ、本当だと思ってます。なぜなら僕が仕掛けたんですから」
「仕掛けたって何を?」 「幽霊を見る装置です」思わず顔を見合わせました。
「僕、実は四国から出てきたんですけど、
 実家が拝み屋をやってて、その方面の知識はあるんです。
 あそこの隙間にちょっと細工をしまして、幽霊が見えるようにしたんですよ」
「・・・・」「それが本当だとして、何のために?冗談か?」
「いえ、そうじゃありません。じつは・・・」牧野くんは声をひそめました。
「課長を排除するためです。居酒屋に行ったときに、みなさんの話を聞いてて、
 これは身につけた知識を使うときだろうと思って」
「うーん、お前の言ってることが本当だとして、どうすれば課長の排除につながる?」

「明日、会社全体の忘年会がこのホテルでありますよね。
 幹事は総務課で、2次会は有志で駅前のカラオケって決まってるじゃないですか」 「うむ」
「1次会が終わったらみなで課長を囲んで、あの隙間の前を通らせてください。
 ここの前の道を他の課の人たちは通るでしょうが、
 みなさんで課長にこないだからの幽霊話でもして、あっち通らせるんです。
 俺は1次会をちょっと早めに抜けて準備してますから」
「・・・まあ、難しいことじゃないが、それでどうなる?」
「課長が隙間をのぞき込んだら、
 みなさんとは違ってちょっと怖いものを見ることになるでしょうね」「それから?」
「あとは課長次第ですよ。課長の人格というか、人徳というか、これまでの生き方というか、
 それによって結果は違ってくるでしょうね」こう言った牧野くんの頬が少し強ばってました。

それで忘年会当日、計画は実行に移されました。
別に難しいことはなかったです。忘年会が終わって、みながエレベーターで下に降りるときに、
課長の隣で、武藤さんが幽霊の話を出しました。
私たち女子社員がそばにいて、さも怖そうな興味ありそうな様子をして・・・
課長はふだん懐かない課員たちがそばにいて嬉しかったのかもしれません。
「じゃ、そこ通って見てみようじゃないか」こう言いました。
課長を先頭にぞろぞろ、みんなであのスナックの前まで来たんです。時間は9時半くらい。
「なんだ!別にどこにでもあるただの隙間じゃないか。
 手鞠をつく女の子なんて、くだらない怪談本の読みすぎ・・・」
課長はそう言って、隙間の前に立ちました。

「ほら何も・・・、ん? んん?なんだあれ?うわ、うわ、うわわあ」
課長の膝ががくがく震えました。「そんなバカな、うわあ許してくれ、助けてくれ!!」
課長は絶叫して、脱兎のごとく駅のほうに走り出しました。
あまりの反応に私たちは、その場で呆然としてましたが、
やがて隙間から、細長いものを抱えて牧野くんが出てきました。
「効果あったみたいですね」牧野くんは言いましたが、沈痛な響きのある声でした。
牧野くんが両手で持っていたのは、よくブティックなんかにある細長い姿見で、
街灯の明かりで、その全面に赤い字でなにやら呪文のようなのが書いてあるのが見えました。
「実家に伝わってる呪言ですよ。あまり見ないほうがいいです」
牧野くんはそう言って、くるりと裏面を向けました。
それで課長なんですが・・・ そのまま駅まで走ってホームに飛び込んで・・・






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