電気くん

2015.01.20 (Tue)
うちの商店街であった話なんですよ。どこもそうなんでしょうが、
大型量販店に押されて客足はさっぱりです。いや、今に始まったわけじゃなくて、
平成になってからはさびれる一方、半数以上がシャッター閉めちまってますね。
いくら特色を出そうとしても、そんなあり様ですから、振興組合にも予算がないんです。
200m以上のアーケードがついてたんですけど、老朽化して危険でも改装するお金がない。
話し合いの結果、取り壊すことになりました。
いやあ、これでほんと、この通りも終わりだなーって実感したんです。
え?うちですか。うちは仕出し屋をやっておりまして、
地域の会社とか、学校の部活の親の会なんかに食い込んでますから、
続けていく余裕はなんとかあります。まだまだやめるつもりはないですよ。
でね、アーケードの撤去にともなって、商店街に入るアーチも壊したんです。

ほら「○○銀座、△△商店街」とか書いてるやつです。
でね、このアーチの上に、電気くんというマスコットがのってたんです。
これは、アーチに入ってすぐの店が電気屋でね、
そこのご主人が主にお金を出してこしらえたオリジナルキャラの人形です。
高さは1m以上あって、くりくりした目のヘルメットをかぶって黄色いマフラーをつけた男の子。
数少ない組合のメンバーとして、撤去のときには立ち合ったんですが、
電気くんの足のボルトが鉄骨から取り外されたときには、感慨深いものがありました。
塗装が剥げてあちこちに錆の浮いた電気くんが下ろされてくると、
そのまま廃棄に回されるのがたまらなくって、引きとりを申し出たんです。
もちろん使用するつもりはなく、商店街の往時の思い出の記念として、
倉庫に保管しておくつもりでした。

工事が終わってしばらくは、朝に外に出ると変な感じでした。
アーケードがなくなったため日当たりがまぶしく、通りがぜんぜん違った感じに見えたんです。
まあそれも、しばらくするうちに慣れましたけどね。
で、その頃から商店街に変なことが起こり始めました。
どんなことって? それが変なこととしか言いようがなくて、今から詳細を話します。
まずですね、うちの店の左3軒となりに呉服屋があったんです。とうに店は閉めてますけど。
そこの80過ぎたばあさんと、毎朝道を掃くときに顔を合わせるんです。
子どもたちはみな勤め人で、仕送りでゆうゆう一人暮らしをしてまして、
会えば世間話もします。そのばあさんから、奇妙なことを言われたんです。
「夕方になると、通りに出るのが怖い。変な女の人が近寄ってきて、
 あたしに向かって、死ね、死ねってささやくんだよ」って。

奇妙な話でしょ。ていうか最初は嫌がらせだと思ったんです、
何かばあさんに恨みがある人による。
ところが女の人が誰かを聞いても判然としない。ただ「怖い、怖い」と言うばかりで。
他の商店街のメンバーに聞いても「わからない、ばあさんボケたんじゃないか」とか。
でね、ばあさんに、「もしその女の人が来たら、店にいますから私に知らせてください」
とは言っておきました。実際は配達に出てることも多いんですが。
それから数日は何事もなく過ぎたんですが、うちの末の娘が6時過ぎ頃、塾から帰ってきて、
「今そこで怖いものを見た。となりのおばあちゃんが、怖い女の人につかまって困ってた」
って言ったんです。それで通りに出てみたんですが何もなし。
娘に「どんな女の人?」と尋ねても、
「怖い、怖い」と言うばかりで、とうとう泣き出してしまったんです。

その翌日、呉服屋のばあさんが亡くなったんですよ。
玄関先に倒れていたのを新聞配達の青年が発見しましてね。
心不全ということでしたが、聞いた話だと、それはそれは怖い死に顔だったそうで。
葬式にも出席しましたよ。息子さんらの話では、
呉服屋だった店は解体して売ってしまうということでした。
1週間ほどして、組合の集まりに出たんですが、景気のいい話は何もなく、
それどころか組合自体を解散したらということまで議題に上りました。
でですね、その後の飲み会で、また怖い女の話が出たんです。
みな年寄りのいる家の主からでしたね。
内容はすべて「怖い女が夕方になると出てくる。死ね、と言いながらつきまとう」
・・・呉服屋のばあさんの話と同じです。

肝心の「どんな女か」というのが皆目わからない、ということも同じでした。
問い詰めると年寄りたちは「怖い、怖い」としか言わなくなり、うちの娘みたいに、
メソメソ泣いたりするんだそうです。対処に困ったんですが、警察には通報しましたよ。
夕暮れ時に集中的に通りを巡回してもらうことになりました。
警察では特に不審者は発見できないようでしたが、
その間に商店街のばあさんばかりが3人亡くなったんです。
死因は呉服屋さんと同じ心不全で。
ねえ、不気味な話でしょう。これはただ事ではないんじゃないかと思いましたが、
どうすることもできませんでした。でね、2週間前の夕刻です。
仕事が入ってなかったんで庭木の冬囲いをしてたんですが、
塀の外をふらふら年寄りが歩いてくる。

前に話した商店街の入り口の電気屋だった店のばあさんで、
手に買い物籠を持ってましたが、
片手を顔のあたりにあげて何かをはらうような仕草をしてました。
その顔のまわりに、ぼんやりと白い霧のようなのが漂って見えたんです。
「どうしましたか?」そう言って通りに出て近寄っていきました。
ばあさんは買い物籠を放りだしてしゃがみ込み、両手で頭を抱えました。
そのまわりを白い霧がぐるぐると回って、ばあさんは、
「怖い、怖いよう、すまんかった許しておくれ」
そう叫んでたんです。走り寄って霧のようなものに手で触れました。
そしたらきゅーんとしびれたように胸が痛くなりました。
私もしゃがみ込んでしまったんです。そのときですよ。

店の倉庫のほうから男の子が走り出てきたんです。いえ、私は子ども2人とも女です。
男の子はヘルメットをかぶり、黄色いマフラーをつけて電気くんの恰好をしてました。
ですけど、人形ではなく生きた男の子のように見えましたよ。
男の子はあさんを守るように両手を広げ、霧の中に頭を突っ込んだんです。
その瞬間バチバチっと緑の炎が上がったんです。電線よりも高く。
あたり一面が緑に染まるように見えたんですが・・・
後でその場にいた人に話を聞いたところ、道には私とばあさんがいるだけで、
男の子も、あれほどすさまじかった火花も見えなかったんだそうです。
私はあまりの電撃の強さに目が眩んでしまって、その場に膝をつきました。
しばらくして目を開けると、同じようにして電気屋のばあさんが跪いていましたが、
倒れたわけじゃなく、両手を合わせてなにやら拝んでいるところでした。

白い霧も、男の子の姿も消え失せていました。
店から人を呼んでばあさんのことを頼み、私は倉庫に走っていきました。
電気くんがどうなっているか確かめにです。
はたして、電気くんの鋳物の頭が真っぷたつに割れていました。
そしてその中に、古びた封筒が一枚入ってたんです。
中を見ると、古い古い、私が生まれる前の時代の商店街の集合写真でした。
写ってるほとんどが女性だったので、婦人会のようなものだったかもしれません。
若い頃の呉服屋のばあさんも、電気屋のばあさんも、その他に亡くなった商店街のばあさん方も、
すべてその写真の中にいました。じっと見ていると、非常に強い違和感を感じました。
横長の写真を縦にしてみると、画面一杯に人の顔があるのがわかりました。
30代くらいの昔風の髪型をした女でしたよ。いわゆる、心霊写真だったんです。

娘にその顔を見せて確認しようとも思ったんですが、怖がるだろうし、
さわりがありそうな気もしてやめました。
で、ですね、写真は封筒ごと電気くんの中に戻し、割れた頭を溶接して塗装し直したんです。
すべて費用は私が出しました。人に説明しても、
信じてもらえるようなことじゃないだろうし、それに年寄り連中には、
口に出したくないことがあるだろうと思ったからです。
それでね、元電気屋の了解をとって、電気くんを私の店の前に置いたんです。
仕出し屋には似合わないだろうって? まあそうなんですが、
商店街は寂れてしまっても、この電気くんだけは、
どっかに置いとかなきゃいけないんじゃないかと考えて・・・
あれ以来、人死には出ていませんし、変な話も聞こえてはきてませんね。






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コメント
婦人会で昔、何があったのか……。
残る恨みは怖いですが、商店会を見守り続ける電気くんの存在が健気です。
いい歴史も、悪い歴史も人の住む場所にはどちらも残っているんだな、とか思ったり。
印象に残るお話でした。
椿 | 2015.01.21 16:12 | 編集
コメントありがとうございます
そうですね、長い年月を同じ人間が近所で暮らしていて
積み重なっていくもの
そのあたりを書いてみたんです
bigbossman | 2015.01.21 21:39 | 編集
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