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2015.02.05 (Thu)
まだ20代の、若いときの話だよ。その頃は出鱈目な暮らしをしててな。
今もそりゃ、ほめられた世渡りとは言えねえが、
当時はいろんなとこに迷惑をかけてて、
それでとうとう、ねぐらを逃げ出さなきゃならなくなった。何をやったのかは
言わねえよ。本筋とは関係ねえことだし。あんたら怪談が聞きたいんだろ。
3ヶ月は逃げたんだが、パチ屋に顔出したとこを見つかっちまったんだ。
外国に売られる、なんてことはねえよ、俺は男だし。
保険金かけて殺される・・・いや、そんなのはマンガの中だけだ。
ないことはないだろうが、基本的に他人様に多額の保険金かけてりゃ、
まず保険屋が怪しむ。向こうだって商売なんだし。
じゃあどうしたかってえと、タコ部屋に放り込まれた。

表沙汰にできねえ土木工事ってことだな。そういうのはけっこうあるんだ。
俺がやらされたのは山中にある沼の埋め立てで、そこは調査したときに
希少生物が住んでることがわかって、本来なら保護地扱いになるんだが、
表沙汰にしねえで、こっそり埋めちまうってことだった。
でもよ、これはどうやら違ってた。なんとかサンショウウオとか言ってたが、
そんなのは工事期間中に一度も見かけてねえ。
というか埋め立てた後の土地を何に使ってるかもよくわからねえんだ。変だろ。
ただに埋めることだけが目的だったみたいだ。
いや、場所は言わないでおく。あんたらも知らないほうがいいだろ。
かなりヤバイ組織が裏でかかわってると思うんだよ。タコ部屋・・・ってのは、
その沼の近くに建てられたプレハブの宿舎。脇に苔むした小さな神社があった。

沼自体は、直径が200mってとこかな。そんなのはどこにでもあるし、名前が
ないほうが多い。人里に近ければ、カラス沼とかそういうのがついてることもあるが、
山の中だし。うん、通常の工事ならダンプで土を運んであっという間に埋められる。
ところがそこは、近場を切り崩した山砂をベルトコンベアで流し込むっていう、
けっこう特殊な工法がとられてた。次々往復するダンプを目撃されたくない
ってことだろ。ま、当時は俺に土木工事の知識があったわけじゃなく、
後から少しずつ身につけてきた知識だから。違ってるとこもあるかもしんねえ。
工事のメンバーは10数人で、タコ部屋の一室に寝泊まりさせられてた。
シャワーはあったが風呂はなし。弁当は朝晩2食出るが、給料は一銭もなし。
すべて借金返済に充てられることになってた。肉体的にももちろん
きつかったが、それよりも何よりも不気味なことが数々あってな。

うん、作業員メンバーの中では俺が一番若かった。
年以外はみな似たような境遇だったろう。ヤサなしで、
娑婆にいられなくなった理由があるっていう。
あとホームレスの中から引っぱられてきたやつもいたみたいだ。そいつらには
給料も出てたはずだ。でな、不気味なことのまず第一は沼が光るんだよ。
曇りの日なんかには、直径200mの沼の中央部分の50mくらいの底が、
円形にボーッと薄緑の蛍光色に光る・・・水がそういう色をしてるんじゃなく、
何か底に沈んでるもんの色のように見えた。それが何かはわからなかったよ。
水が泥で濁ってたから。もちろんポンプを何機も使って水をくみ上げてるんだが、
その尻から土砂を被せてたし。もしかしたら、あの光る物を隠すために
埋め立ててたのかも。ま、これは後になって考えたことだ。

あと、工事したせいだと思うが、毎日大量に魚が浮かび上がってきて、
鮒とかナマズだが、それらが腐ってヒドイ臭いをさせていた。
それらの処理も俺らの仕事のうちだったんだ。それで、
夜はプレハブの中の20畳敷きの部屋で、十数人が毛布にくるまって寝る。
ああ、季節は夏場だったから、寒いってことはなかった。
むしろ逆、エアコンはなく換気扇だけだったから、朝になるとびっしょり
汗をかいてた。でもよ、寝苦しくてまいったってことはなかった。
何でかっていうと、誰も朝まで目覚めるやつがいなかったから。
ま、過酷な労働の疲れもあったろうが、それだけじゃない。おそらくは、
晩の弁当に睡眠薬系の薬物が混ぜられてたんじゃないかと思うんだ。
だってよ、朝になると寝小便してるやつが何人もいたんだよ。

これは、ふだん酒飲んでるやつらが多かったのを、
アルコールを切らせて労働に集中させるためじゃないかって最初は思ってた。
うーん、寝起きが少しつらいくらいで、副作用はなかったけどな、俺の場合。
だけどよ、このことに気がついて、一度だけ晩飯を食わなかったことが
あるんだ。始まって10日ほどたった頃だ。その夜の話をするよ。
プレハブはまずあんまり窓のない特殊なつくりで、
少ない窓にも外側から樹脂のはめ込み式の雨戸をかぶせる構造になってた。
6時過ぎに仕事を終えたらすぐにそれをやって、プレハブに入る。
それから順番にシャワーを浴びて、弁当が配られる。食った容器は、
班長がゴミ袋にまとめるんだが、そんときに残してないか見てたのかもしれねえ。
俺はその晩の弁当を、食ったふりしてビニール風呂敷の中に落とし込んだ。

バレはしなかったよ。何でそんなことをしたかって?
そうだな、それが終わって娑婆に出たときに、秘密を握ってれば、
何か有利になることがあるんじゃないかと思ったんだ。
消灯は9時、早いと思うだろうが、朝は5時起きなんだ。もう明るくなってる。
あ、それから、いったん消灯すると電気がつかないんだ。
換気扇は回ってたから、わざと照明だけ電源を落としてるみたいだった。
班長とか組織から来てるやつらは個室に行って、
消灯して15分もたつと、話をするやつもなく、みな静かに寝入ってる。
俺も寝てしまいそうになったが、空腹感でかろうじて起きてることができた。
腕時計を持たされてるやつはいなかったんでよくわからないが、
12過ぎくらいだと思う。外から、ごくかすかにだが、音楽が聞こえてきたんだよ。

そうだな、雅楽って知ってるか。あれに似た感じに思ったが、単に低かったから
そう聞こえたのかも。その音が少しずつ近づいてくる気がした。
さっき、プレハブの横に小さい神社があったって言ったろ。
その関係かもしれないと思った。しばらくして音楽が止まり、
かわりに、プレハブの雨戸を外から叩く音がした。
たいして強くじゃねえ。トントン、トントンって感じだ。
叩きながらプレハブの周りを回ってるようだった。俺は寝たまま、
その音のするほうを目で追ってたんだ。そしたら、トントンの音がやんで、
カリカリひっかくようなのに変わった。雨戸をはがしてるんだと思った。
全部外さないで、隅の方だけ引っぱって浮かせることができるんだよ。
俺の足のほうの場所だったが、少し頭を持ち上げるようにして見てた。

するとな、その一画からビッと青緑の閃光が射してきた。
うーん、どう言えばいいか。外にサーチライトのような強い光源があって、
その光がプレハブ内部に差し込んできてるって感じ。サーチライトの色じゃなかったが。
でよ、まぶしくて見てられない。目をそらそうとした一瞬、
窓の外に緑色に光る片方の目が見えたんだ。ぎょっとした。何と形容して
いいかわからんが、人間の目じゃなかったんだよ、間違いなく。目はすぐに引っ込んで、
今度は青緑の光がビームのような線状になってプレハブに入ってきた。
中がぼうっと薄緑に光って・・・薄めで見ていたら、ビームは寝ている作業員の顔を、
一人一人照らし始めた。といっても雑な感じで、
毛布をかぶってるやつは飛ばしたりしてたな。でよ、これは確かに見たんだが、
ビームがあたったやつの顔が寝たまま苦しそうにゆがんで、そして変化したんだ。

皮膚が内部からもこもこと盛り上がって顔の輪郭が変わった。
うーん、何というか魚に近いのか、そんな感じに鼻先が尖って、皮膚にも
ひし形の鱗が浮いていたように思う。緑色に照らされてえらく気味が悪かった。
口を縦に開いて舌が長く飛び出した。でもよ、起きる気配はなし。
だんだんビームが俺のほうに近づいてきて、俺はたまたま寝返りをうった形で、
ビームに背中を向けた。でもよ、耳から側頭部のあたりにあたって・・・気がついたら
朝になってたんだ。夜中に顔が変化したやつらは元に戻ってた。俺は他のやつらが
便所とかに行ってる間に、外に出て薮の中に夜の弁当の中身を捨てた。
したら雨戸の昨日めくれたあたりに、ごく薄くだが緑色の手型がついてたんだよ。
次の夜から弁当は食ったが、寝る前に横を向いて頭から毛布をかぶるようにした。
あのビーム攻撃?はその後もあったんだろうと思う。

それから2ヶ月して、沼は埋まった。中に沈んでるように見えたもんについては、
やはりわからずじまいだった。俺の借金はまだまだ埋まらなかったから、
他のいろんな場所に回されたが、沼の現場ほど奇妙な体験はしてないよ。
それから娑婆に戻り、そこでも仕事をして長い時間をかけて
金を返した。ずいぶん人生を無駄にしたよ。
沼のあった現場に訪れたことはないよ。一度近くまで行ったことがあったが、
鉄条網が張られて通行止めになっていた。大企業の研究所があるって
話を聞いたが、話をしたやつも実際に見てるわけじゃない。
単なる噂ってことだな。そのときの工事のメンバー? ああ、あのおっさんらか。
その後、他の現場に回されてるときにも、娑婆でも二度と会ってないよ。
これでいいかい、謝礼の約束は守ってくれるよな。





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