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福禄旅館

2015.02.18 (Wed)
去年の秋、仲間と3人で釣りに行ったんです。1泊2日で。
場所は・・・太平洋側、関東地方とだけ言っておきます。
昼から出かけて夜まで、一泊して早朝から昼までっていう強行軍の釣行。
まあ、みんなそんなもんだとは思いますけど。
宿は、とろうかどうか迷ったんですよ。夜遅くに着いて、朝早く立つから寝るだけだし。
でも、車中泊にはそろそろ厳しい季節だったし、
ミニバンで寝るとしばらく体が痛かったりで、もう歳なんでしょうね。
ネットで調べたら福禄旅館というのが見つかりました。
素泊まりだと一人3千円で、これならってことで決めました。
温泉でもなんでもない、民宿に毛が生えたようなところでした。
当日ね、3人のうちの日村ってやつが、仕事の関係で遅れるって連絡してきました。

自分の車を使って、着くのがその日の夜遅くになるだろうって言うんで、
三河ってやつの車で2人で出かけたんです。天気はよかったですよ。
後から考えるとそれだけでしたね、救いは。1日目の釣りはさんざんでした。
釣れなかったというわけじゃないんですが、外道ばっかりで。
ウツボです、あの長くて歯が尖った。食べれば美味いなんて話も聞きますが、
持って帰ったことはないです。基本リリースですが、何十本も釣れましてね。
気味が悪かったです。同んなじやつが釣れてた場合もあるかもしれませんが、
ほとんど大きさも柄もまちまちでしたよ。
ウツボの繁殖地みたいな感じでねえ・・・
それでもあたりがまるでないよりはいいですけど。目的のイシダイも一本だけ釣れたし。
でね、宿に入ったのが9時過ぎでした。あらかじめその時間になるって連絡してたんです。

宿は一見すれば海辺の民家と見まがうような造りで、もとからの旅館ではないようでした。
意外と重厚な構えで驚きましたよ。昔の網元の屋敷とかなのかもしれません。
「福禄旅館」という看板も建物より新しかったですし。
入ると番頭さんが出てきて、暗い廊下を通って部屋に案内されました。
6畳に4畳半の次の間付き。欄間に透かし彫りなんかあって、時代がかってました。
すでに3人分の布団がひかれてました。
遅れてくる予定の日村から連絡が入り、もう2時間ほどで着くってことでした。
そのことを番頭さんに言うと、
「表戸を開けてますから、お客さん方で迎えに出ていただければ」という話でした。
ま、釣り宿ってのは朝早く、夜遅くの客は普通で、そんなもんなんだろうなって思いました。
でね、4畳半のほうで、持ってきた発泡酒をチェイサーにしてウイスキーを飲み始めたんです。

そこの部屋はテレビがなかったんで、しばらく釣りの話をしてました。
そうしてるうちに10時を過ぎ、頭が重く,眠くてたまらなくなってきたので、
こくりこくりしてると三河が「日村がくるまであと1時間くらいだから寝てろよ。
 来たら起こすから」そう言ってくれたので、ジャージに着替えて布団に入りました。
そんとき、頭が床の間のほうを向いてたんですが、
福禄寿の掛け軸が下がってたのを覚えてます。
福禄寿ってご存じでしょう。頭の長い老人の神様で、七福神にも入ってますよね。
少し調べたんですが、中国の道教の仙人らしいですね。
福が子宝に恵まれること、禄が財産、寿が長寿を表す、目出度い神様ってことでした。
「ああ、この旅館の名前と関係があるんだろうな」
そう思いながら布団に入って目を閉じたんです。

ビタン、バタンという音で目が覚めました。
耳元で何かが跳ねているような音です。それと異様に磯臭い。部屋は真っ暗でした。
「日村が来たんだろうか」そう思って起き上がったときに
背中にドンと何かがぶつかりました。足で蹴られたような感触でした。
「おい、ふざけんなよ」そう言って手でつかもうとしたんですが、
ヌルリ、と嫌な感触がありました。よく知ってる手触りでした。
日中にさんざん釣ったウツボです。「え!?」と思い、立ち上がって電気をつけました。
そしたら・・・これは信じてもらえないかもしれませんが、
長い・・・2mもある白い触手のようなのが部屋の中をのたうっていたんです。
先がまるくなって、ねとねと濡れて光ってました。目や口はなかったと思います。
それが畳に上から落ちてきてバウンドし、また上がって壁にぶつかる・・・

布団に寝てたのは俺だけで、他の2人ののはそのままでした。
「何だよこれ!」そう叫んで、4畳半のほうへ行こうとしました。
そしたら俺の前に触手の先端が落ちてきて、そのまま跳ね上がって腹を打たれたんです。
さらに天上近くまで上がって、頭に落ちてこようとしました。
それを両手で防いだときに、その触手の根元が、
床の間の掛け軸から出てることに気づきました。
「あ?!福禄寿の頭?」そう思いました。
ありえないことですよね、掛け軸の中の人物の頭だけが伸びて動いてるなんて。
体をかがめ、這うようにして四畳半に入りしきりの戸を閉めました。
そっちも真っ暗だったので、電気をつけると・・・
日村と三河が壁にもたれ、足を投げ出すようにして座っていました。

で・・・腹が2人とも破れてたんです。畳は血だらけで、
内蔵の切れ端のようなのも目に入りました。2人は目をかっと見開いたままで・・・
破けた腹の部分だけが動いていました。
日村の腹の中から大きな、焦げ茶色のウツボが歯をむき出して頭を出しました。
絶叫してしまいました。そのとき、バカーンと隣の部屋との仕切り戸が外れ、
福禄寿の頭が入ってきて、足を払われました。
それでひっくり返ってしまい・・・あとは・・・
揺り動かされて目が覚めました。跳び上がって起きると、
日村と三河が釣り支度をして立ってたんです。
「昨夜はよく寝てたから起こさなかった。もう4時なってるし、出かけるぞ」
こう言われたんです。・・・あれはすべて夢だったのか、しかしそれにしても・・・

あんなリアルな夢は見たことがなかったです。
それと部屋の中がやはり磯臭く感じました。あと、右のすねが痛くて、
見ると青あざになってたんですよ。掛け軸? もちろん見ましたが,
鹿を従えた福禄寿が静かにいるだけでしたよ。頭の部分にさわってみたかって?
いや、それは考えませんでした。といかく一刻も早くその部屋を出たかったんです。
下の帳場で昨日の番頭さんに支払いをして、駐車場の車で防波堤の近くまで行きました。
さすがに秋の午前4時ですから暗かったですよ。
でも、桟橋は釣り人のための常夜灯がついてて、人影も何人か見えました。
そこまでくるとやっと、昨日ののは夢だったんだなって、納得できる気がしてきたんです。
「なあ、昨日俺うなされたり暴れたりしなかったか」って聞いたんですが、
2人とも「よく寝てたぞ」って言ってたし。

餌を投げ入れてリールを巻いてると落ち着いてきました。
すぐに三河の竿にあたりがありました。ウツボです。
水面に出てこなくても独特の引きでわかります。
三河はいつもなら「チッ」と舌打ちして針外しを取り出すんですが、
嬉しそうな顔をして「よーし」と言いながらリールを巻いてました。
・・・出てきたのはやはりウツボなんですが、独特の縞はなくて生白い色の・・・
昨夜、掛け軸から出てきた福禄寿の頭とそっくりでした。
三河は釣り上げたウツボを無造作につかみあげ、そのときウツボが腕を噛みました。
「ああおい」「いいから、いいから」三河は片手に食いつかれたまま、
残り1m以上の部分をつかんで車のほうへ歩いていきました。
「それどうすんだよ。食うのか?」俺が聞くと「神様だよ」ふり返らずに三河が答えました。

「いーな、あいつ」日村がやや悔しそうに言いました。
「お前もかよ?ウツボなんかどうすんだ?あんなのいくらでも釣れるだろ」
「あれは特別のやつだよ」わけがわからなかったんで、それ以上聞くのをやめました。
下の海に白い筋が浮かんできていました。長さは5mもあったでしょうか。
それはのたくり泳いでいて、昨夜の福禄寿の頭・・・と同じ物にしか見えませんでした。
幸いに水面まではあがってきませんでした。
車2台で帰りました。三河は帰り中ずっとご機嫌で鼻歌を歌ってましたね。
ときどきドコンと音がしたのは、
クーラーボックスの中であの白ウツボが動いてたんだと思います。
俺はその日から釣りに行ってません。三河も日村もさそってこなかったし。
2人ともあれ以来、激やせしまして、つるんで行ってるみたいですよ、福禄旅館に。







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