猿も木から

2015.02.28 (Sat)
今晩は。じゃあ始めますけど、これって自分の話じゃなくてもいいんですよね。
いや最初はね、先輩のことだったんですが、俺にもかかわってくるようになってきて、
怖いんですよ。ここ、話をすれば謝礼が出るってことだったけど、
お金はどうでもいいから、どうすればいいか知りたいんです。
始まりは1週間前です。会社・・・職種は伏せさせてもらいますが、
5年ほど入社が早い先輩と一緒に外回りをして、時間が空いたんで、
駅前の小公園のベンチで缶コーヒーを飲んだんです。
そんとき先輩が、彫刻の後ろにあるポプラの木を見ながら、
「あれくらいなら大丈夫だな」ってぽつっとひとり言みたいに言ったんです。
「え? 大丈夫って何がですか?」反射的に俺が聞いたら、
先輩はちょっと困った顔をしましたが、こんな話をしたんですよ。

「変に思うだろうけど、俺は木が怖いんだよ。と言っても、
 あのポプラくらいの高さなら大丈夫だと思うが、怖いのはあれより高い木だ」
変なこと言うなあ、と思いましたよ。だって木が怖いってねえ。
高い木って言ったから、もしか子ども時分に木から落ちたとかのトラウマでもあるのか、
なんて考えたんですが、まったく違う内容でした。
「もともと怖かったわけじゃない。むしろ木、大木が好きでね。
 大学時代は山を回って、大木の写真を撮ったりしてたんだよ。
 大木になれば樹齢は3桁を超えてるし、すごい威厳が感じられる」 「そうですよね」
「神気みたいなのが、木のそばに寄るとこっちに移ってくる感じがしてたんだ。
 でな、3年の頃だったか、東北のある山に登ったんだ。木を撮るのが目的だから、
 頂上は はなから目指してない。

 で、日が傾いてきてキャンプできる場所を探して登山路から登山路を行き来してた。
 そしたら近くの藪が動いたんで、野生動物かと思って身構えた。
 したら出てきたのが若い女だったんだ。
 ・・・別に女がいること自体は不思議じゃない。秋口だったし、
 他の登山者も何人も見てる。そうじゃなく、女の格好が異様だったんだよ。
 靴はハイヒールでこそなかったが、黒いパンプスみたいなやつで、
 上が黒・・・喪服に見えた。それに真珠のネックレス。
 なあ、標高800m近いとこでその格好は異常だろ。
 むろんそのあたりに民家があるわけじゃない。
 女は、出てくるなり俺に気がついてこっちを、キッて睨んだんだ」
「何歳くらいの? 美人でしたか」俺は思わず口をはさんでしまった。

先輩は続けて「年はそうだな、20代後半ってとこじゃないかと思う。
 美人は美人だったが、なんか目力があって怖い感じがした。
 で・・・女は俺のほうを睨んだまま、
 両手を腹の前に出して、手の甲を打ち合わせる動作をしたんだ」
「何ですかそれ?」
「そんときはわからなかったが、後に調べたら『逆手』といって、よくないもの・・・
 呪いをあらわす仕草だったんだ。で、女は俺のいた道に入ると、
 あとは目も合わせずすれ違って、すたすた去っていったんだ」
「うーん、声かけたりしなかったんですか?」
「いや、あんな場所じゃマズいだろ。下心なくても犯罪と思われかねないし、
 それよりあっけにとられてたから」 「まあそうでしょうね」

「女は意外に早い足取りで藪を曲がって見えなくなった。
 これは荷物を持ってないせいもあっただろう。リュックもザックもなしの手ぶらだった」
「確かに奇妙な話ですねえ。それで」
「ああ、とりあえず女の来た方向に出たら、人ひとり分ほどの幅のわき道があった。
 でな、女が何してたんだろうと興味を引かれて、そこに入っていった。
 今思えば、やめとけばよかったなあって。
 そこを15分ほど上ると、ぽっと崖に出たんだ。大岩が谷に向かってせり出してて、
 その横にアカガシの大木があったんだ。そんもあたりでは珍しいんだよ。
 20m以上はあった。暗くなりかけてたが写真を撮ろうと岩の上に登った。
 したら、幹に打ちつけられてるものがあって、赤い紙だったんだ。
 10cmに縦が30cmくらいの。筆でなにやら字のようなのが書いてあった。

 ちょうど人の胸くらいの高さだよ。近づこうとしたとき、
 上から突然何かが落ちてきたんだ。
 猿だよ、日本猿なんだろうな。それが頭から岩に落ちて・・・
 でもな、頭は落ちる前からつぶれてたと思うんだ。上半身はすでに赤黒く濡れてたし。
 でな、その猿はまだ生きてたんだよ。落ちたときに新しい傷もできたのか、
 血をぴゅっぴゅ、ぴゅっぴゅ振りまきながら、頭を中心にして岩の上を、
 手足を伸ばして倒れた姿でくるくる回ったんだよ」
「うわ、嫌なイメージですね」
「だろ。俺もそれ見て怖くなって、一目散にその場を逃げ出した。
 日没ぎりぎりに麓のオートキャンプまで下りて、そこでテントを張り、
 予定を変更して翌朝すぐに帰ったんだ」「うーん、写真は撮らなかったんですか」

「それがな、赤い紙のあった幹を、
 猿が落ちてくる前に一枚だけデジカメで撮ったはずなんだが、
 後でみるとその画像はなかった。・・・でな、それ以来だ、
 ある程度の高さの木の下に行くと、目の前に猿が落ちてくるんだよ。嘘だと思うだろ」
「・・・」
「まあな、他のやつには見えないんだよ。俺だけにしか見えない。
 猿は、アカガシの木の下のやつと同んなじように、頭から血を噴き出しながら回るんだよ。
 がさがさがさって。どんな種類でも高い木の下に行くと必ずそうなんだ。
 人にも変に思われたし、だから近寄らないようにしてる。別に信じなくてもいいけどな。
 ・・・何でこの話をしたかっていうと、最近見たんだよ。
 雑踏の中で、あの喪服の女を」 こんな話だったんです。

その後、先輩ともども会社に顔を出してから退社しました。
帰りの電車の中で先輩の話について考えたんですが、俺をからかうような人じゃないし、
しごく真顔でした。でも、異常なことがあるとしたら、
それは先輩の精神のほうだって考えますよね。
山で猿が落ちてきたのは本当だったんだろうけど、それがトラウマになって、
幻覚の猿が見えるようになった・・・
まあ、仕事に関してはおかしなところはなかったんで、
時間とともに治るんじゃないかとも考えたんです。今は木の写真、撮ってないようだし。
ところがです。4日前、先輩が自殺しちゃったんですよ。
それも・・・金槌で自分の頭を叩き割った・・・そういう話でした。
でも、自分でって、そんなことができますか?

場所は2つほど離れた県の有名な神社の杜、巨大なご神木の前だったそうです。
いや、前に話に出てた山とは別の場所なんです。
昨日葬式だったんですが、そんな亡くなりかただったんで、
内輪で行って、出席したのは社長だけでした。
これ、絶対に猿の話と関係があるって思いますよね。
でもね、先輩のノイローゼだと思ったんです。
ないものを見て、ないことを考え、それで錯乱して死を選んだんだろうって。
ところが・・・昨日なんです。俺は営業なんですが、人手が足りなくて、
現場に4tトラックで資材を届けたんですよ。
山の中の自動車専用道の事務所です。
そしたら、そこ山を伐り出した中にあって、杉の大木が裏手にあったんです。

そうですね、20m以上はあるのが3本。
ああ、先輩はこういうのの下に入ると猿が落ちてくるのが見えたんだろうな、
って思って、帰りがけに近寄ってみたんです。そしたら・・・
こっからは言いたくないんですが・・・先輩が落ちてきたんです。もう火葬されてるはずの。
先輩は頭が大きく陥没してて、そっからびゅっびゅっ血を噴き出して、
両目は固く閉じてました。右足が硬直したように伸びてて、その親指の先が地面に立ってて、
そこを中心に草の上を回るんです。がさがさがさがさって。
・・・俺にしか見えないもんだってことはわかりましたよ。
目をつぶって後ろを向き、もう一度振り返って目を開けると何もなかったですから。
でね、それ以後、機会もなかったし、高い木に近寄ってはいないです。
どうなんでしょうか? 高い木の下に行くとまたあれが見えるのか・・・




 
 
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コメント
 ある程度の高さがあればどこの木からでも落ちてくる、というギミックがとても好きです。呪い(?)がメートル法に則っているとも思えないので、落下地点から空が見えるか否か、あたりが発動の条件でしょうか。
 しかし、伝播する法則性がよく分かりませんね。いや、もしかすると猿はスタート地点で、先輩を第一号として「これから法則になっていく」のかも・・・
| 2015.03.01 13:36 | 編集
コメントありがとうございます
うーん呪いの発動条件はよくわかりませんが
いわゆる大木ってことでしょうね
どこからが大木かも難しいですが
幹の太さとかも関係してるのかも
bigbossman | 2015.03.01 21:19 | 編集
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