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坂田さんのタタタ

2015.03.03 (Tue)
大学時代バンドやってたんですよ、俺はキーボードで。
子どものころピアノ習ってましたんで。ジャンルはレゲエを中心に軽い、明るい曲です。
仲間はギターとベース、ボーカル兼パーカッション。
ドラムは外注だったんです。たいていはギターから始めるんで、
ドラムやる人って少ないんです。ほら、楽器買っても置ける家は限られてるし、
家で鳴らせば近所から苦情が来るしで。今は電子ドラムもいいのができて、
ヘッドホンつけて練習もできますけど。
この坂田さんというのが、他の大学の6年目なのに、まだ卒論までほど遠いって人で w
あちこちのバンドから頼まれて、かけ持ちでドラム叩いてたんです。
ヒゲ面で、見た目はレゲエにふさわしかったですけど、
メタルからフュージョンまで何でもこなしてました。

ええ、どんな曲も一回合わせれば十分でしたよ。センスがいいっていうか、
完全コピーじゃなくても、曲調に合わせたドラミングができたんです。
でね、その年、俺らは学祭に向けて練習してまして、
だいたいいい感じになってきたんで、坂田さんを呼んで最終合わせをしようと、
貸しスタジオに来てもらったんです。これが始めていく場所で、ベースのやつが、
「安くて近いとこ見つけた」って言って予約したんです。
そろって行ってみると、確かに大学からは近かったんですが、
なんか陰気なたたずまいのところでした。
こういう貸しスタジオって、初めて入ると必ずといっていいほど、
「霊がいる」って言い出すやつがいるんですよ。
俺らが借りたのは10畳の部屋で、平日の昼で1時間1000円でした。

安いでしょ。頭割りすれば坂田さんを抜かしても一人250円です。
コード類をセットしてると、案の定ベースのやつが、
「うわ、あの壁の染み人に見えね?」と言い出しました。防音壁の壁は白っぽい色で、
そこの一面に人が立ってるようにも見える染みが浮き出てたんです。
「ねえよ、そんなもん」 「あとで坂田さんが来たら聞いてみりゃいい」
坂田さんは家が新興宗教の宗家という話で、見える人って噂もあったんです。
それから思い思いチューニングとかしてると、
10分ほど遅れて坂田さんがやってきたんです。
あいさつして、ベースのやつが「あの染み、人みたいに見えるんスが、どうスか?」
って坂田さんに聞いたら、「そうね、まだわからんけど、何かあってもべつに大丈夫だから」
こう言いました。

でね、1曲目、2曲目と進んで、さすが坂田さんはセンスよく合わせてくれました。
3曲目に入ったときです。俺らは素人なんで、曲が始まると余裕なくて、
自分の手元に集中してしまうんですよ。だから回りの様子はあんまり見えない。
その曲の途中で、坂田さんがドガンと大きな音を出した。
こういうスタジオだと、ドラムの音は強烈に響くんですが、
それまで坂田さんは俺らのことを気遣って、軽めの音を出しててくれたんです。
「ちょっとストップ!」坂田さんが音に続いて怒鳴ったんで、
俺らはみな手を止めました。「壁見てみろや」坂田さんが静かに言いました。
あの染みのことだと思ってみると、それが・・・薄黒いような色でしたが、
それと同じ色のもやがぼんやりかかって、壁から抜け出してる途中のようにも見えたんです。
でもね、タバコ吸うやつはいないし、そもそも禁煙だし、煙が出るはずはない。

坂田さんは目を閉じて「うん、ここ、演奏中に死んだやつがいるな。ギターだな」
そう言いました。それを聞いたせいかもしれないですが、なんとなく染みの形が、
ギター抱えた形にも見えたんです。染みの上のもやは少しずつ溶けて、
部屋の空気に混じっていってるみたいでした。
「お前らの学祭いつだっけ?」坂田さんが聞いたんで、「今月の22日です」って答えました。
「じゃ、あと10日もねえな。それまで俺が預かっといてやろう」
坂田さんは言って、目を閉じたまま複雑なリズムを小さく叩き始めたんです。
うーん、16ビートよりもっと複雑な基本リズムとタムの単調な連打の繰り返しでした。
再現しろって言われてもできないですよ。
そしたら、そのもやが動き出して、ゆっくりゆっくり坂田さんのほうへ近づいていきました。
やがて、背中におぶさるような形になり、坂田さんが叩き終えると消えたんです。

「えっ、今のは?」 「坂田さんに入ったように見えたけど、大丈夫すか?」
俺らが口々に聞きくと、坂田さんはにやっと笑って、
「こういうの慣れてるから。こいつ演奏し足りないみたいだから、
 しばらく俺が一緒にいてやる。お前らのコンサートで成仏するようにするよ」
そう言ったんです。・・・うーんまあ、信じないわけにはいかなかったですよ。
壁の染みが前より薄くなってましたから。
でね、こういうことがあったんで、2時間の予定が3時間になりましたけど、
それからは特に何事もなく、練習は終わったんです。
コンサートの当日になりました。
俺らは他のバンドに混じって3曲やるんです。
坂田さんは俺らの前と後のバンドにも、ドラムで加わってました。

いよいよ俺たちがステージに出たとき、坂田さんはドラム台から降りてきて、
「最後の曲でやるから、ギターのやつは場所開けろよ」って言いました。
何のことかそんときはわからなかったです。
夢中で1曲目を終えたら、けっこう受けてる反応でした。
2曲目でメンバーを紹介して、最後がレゲエのスタンダードのちょっとしんみりした曲。
その途中で、坂田さんのソロがあるんですが、リハとは違った構成で、
前にあのスタジオで聞いたパターンがちょっと混じったんです。
はっとして坂田さんのほうを見ると、頭の上に黒いもやが出ていました。
それはだんだんに形がまとまってきて床に降り、
ぼんやりとですが、ギターを引いている人の形になりました。
うーん、お客さんには見えてたんですかね。たぶんわからなかったんじゃないかと思います。

その影はギターのやつの横へ滑るように動き、
ギターのやつはぎょっとしたように少し脇へどけました。
幽霊の楽器の音は聞こえませんでしたけど、
俺らはそいつも入れて6人のメンバーになって演奏を終えたんです。
曲のしめは坂田さんのシンバルクラッシュで、俺らが礼をして頭を上げると、
影の幽霊も深々と礼をしてて、そしてそのまま消えたんですよ。
・・・後になって坂田さんに尋ねると、「あああれ、俺が取り込んでる間に少し話したけど、
 悪いもんじゃなかった。もちっと演奏したくて、それが心残りだったみたいだな。
 もうあっちの世界へ行ったから」
俺らが、「すごいっスね!」 「演奏してましたよ」 
「大学辞めても、霊能者としてやっていけるんじゃないスか」とか驚きの声を上げたら、

「バカ言うんじゃないよ。俺はドラム叩いてただけだ。
 そういうのが嫌で、実家から逃げ出してきたんだからな。
 だけどよ、俺がちょっと変わったパターンを叩くと、頭痛のあるやつが治ったり、
 ちょっとした雨ならやむこともあるんだぜ」
こんな答えが返ってきました。
で、就職活動が始まる前にバンドは解散しまして、俺はそれ以来、
本格的な演奏はしてないですね。前の仲間と集まろうって話もあるんですが、みな忙しくて。
坂田さんは、結局大学は辞めて、プロのジャズドラマーになりました。
けっこう名前も出たんですが・・・東南アジアに演奏旅行に出たとき、
現地で行方不明になっちゃいました。うーん、死んではいないって気がします。
向こうの精霊とかといっしょになって音楽やってるんじゃないですかね。







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