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ウッドベース・マン

2015.03.06 (Fri)
小学校のときの話ですね。僕が4年生で、弟はまだ幼稚園だったと思います。
記憶があいまいなんですが、季節は秋だったと思います。
僕は弟と手をつないで、川原の土手を歩いてたんです。
そのとき、道の両側に枯れかけたススキがぼうぼうと生えていたと思うんです。
夕暮れでしたね。2人で公園ででも遊んだ帰りだったのか、
それとも弟を幼稚園まで迎えに行ったときのことか。
当時はそういうことがよくあった気がするんです。
その土手の道は今でもありますよ。
道路を通ってくるより近いんです。車も危なくないということで、
親もそのほうがいいって言ってましたし。
ただ、今はね、下の川原にホームレスのブルーシートの小屋がいくつもできて・・・

2人で歩いていると、ススキの切れ間から、土手から川原に続く斜面が見えたんです。
その部分はコンクリート護岸がされてて、ススキは生えないんですよ。
100mほど向こうのところに、奇妙なシルエットが見えました。
人が立ってて、その横に何か人ほどの大きなものがあるんです。
「兄ちゃん、あれなんだろう」と弟が聞きましたが、よくわかりませんでした。
それで、答えないまま進んでいくと、人の横のものの姿がだんだんにはっきりしてきて、
ひょうたん型をしてるのが見て取れました。僕は「ははあ」と思い、
「あれはウッドベースって言うんだよ」と教えました。
ダブルベース、コントラバスのことですね。小学校の吹奏楽で見たことがあったんです。
「きっと家だとうるさいから、ここで練習してるんだと思うよ」
でも、まだ離れているせいか音は聞こえてきませんでした。

近づいていきながら、優しそうな人だったら見せてもらおうかと思いました。
ところがだんだん距離が縮まるにつれ、「変だな」と思ったんです。
たしかに人のそばにあるものは、ウッドベースくらいの大きさと形なんですが、
見えている後ろがわに毛が生えてるみたいだったんです。
黒い太目の毛ですね。犬とかの動物が濡れて、毛が逆立ってるような感じでした。
それがすごく君が悪く見えたんです。
「あの楽器って、毛が生えてるの?」弟が聞いてきたので、
「さあ、違うかもしれないな」って答えました。
20mほどまで迫ると、学期だけじゃなく横の人のほうも変なことに気がつきました。
なんて言えばいいんでしょうね。マネキンとも違うし、
フカフカした質感で、空気人形とでも言えばいいか。

生きている人間じゃないんです。細長いビニール袋を組み合わせて人の形をつくり、
空気を入れたみたいな。
「しかして、見ないほうがいいものかな」そのときふっと思いました。
でも、目を離すことができませんでした。クチャクチャという音がしていたからです。
急に、毛の生えたウッドベースがぐるんと回って向きが反対になりました。
それにつれて、ビニール人間も振り回されるようにして倒れ、
やっぱり軽いものだってことがわかったんです。
こっちを向いたウッドベースはやはり毛が密生してて、ただし裏側と違って、
中央より下に穴がありました。
コンクリートブロックぐらいの大きさで、中は真っ黒だったんです。
穴の中にビニール人間の両方の足が入ってました。

クチャクチャという音はそこから出てたんです。
「あれ、生き物みたいだね。おもちゃの人間を食べてる」弟がそう言いました。
僕は弟とつないでいた手に力を込めて、行き過ぎようとしました。
真横に来たとき、もうビニール人間は腰のあたりまで飲み込まれてて、
子どもの落書きみたいな顔の部分から「ひょ~~」という音を出したんです。
それを聞いたのをきかっけに、僕は弟の手を握ったまま走り出しました。
なかば弟を引きずるようにして、橋のあるところまで駆けたんですよ。
そこまできて弟のほうを見ると、顔を真っ赤にして息をきらしてました。
振り向くと、ウッドベースもビニール人形もススキの陰になっていました。
そこから、普通の道のほうに出て遠回りして帰ったんです。
家では父親が帰ってて、夕食のしたくができていました。

それを食べながら、土手で見た不思議なものの話をしたんですが、
両親は首をかしげるだけでした。
次の日の夜です。僕は弟と2人で部屋にいました。
2人部屋だったんです。自分のベッドで漫画を見ていた弟が、
「ドンデデン、ドンデデンデン」って太い声で歌みたいなのを歌いだしました。
僕は宿題をしていたので、弟に「うるさいな、やめろよ」って言いました。
弟は少し黙りましたが、またすぐに「ドンデデデ、デデンドン」って・・・
「やめろって言ったよな。それに何だよその歌でもない変なやつ」
こう強めに言ったら、「きのう土手で聞いたでしょ。あの何とかいう楽器の音」
こんな返事をしたんで、「音なんて聞こえなかっただろ!
 気味悪いものを思い出させるな」怒ってしまいました。

すると弟は「ひょ~~」って声を出して漫画を放り出しました。
あのビニール人間が食べられてるときの音とそっくりでした。
「この! やめろって言ったのが・・・」
机から立ち上がってベッドに近づくと、ただ事でないのがわかりました。
弟は両手を中に浮かせ、何かをつかむような指の形を残したまま、
両目をかっと見開いて、口から泡を吹いていたんです。
揺さぶっても固まったままでした。「母さーん」叫びながら下へ降りて親に知らせました。
弟はそのまま救急車で運ばれたんですが、
病院に着いてすぐ死んでしまったんです。原因不明の心臓麻痺ということでした。
それ以来あの土手の道は通らなかったし、変なものも見てません。
今でもウッドベースというのは苦手です。






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