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アルチン爺

2015.03.14 (Sat)
*バカ話です

スーパーの裏方のバイトしてるんです。
ええ、閉店後の商品の補充と値札の付け替え、商品整理と荷下しですね。
閉店が11時で深夜業務になりますから、時給は1000円超えますけど、
力仕事でキツイはキツイです。
始めてから2ケ月になりましたが、この間とんでもないことがあったんです。
その日は、いつもはシフトの関係でもう帰ってるはずの店長が顔出してて、
主任の前橋さんと何か話してたんです。
内容はわからなかったんですが、前橋さんは顔を曇らせてました。
それをいっしょに見ていた高橋さんって先輩が、
「こりゃ今日、店にアルチン爺さん、来たんじゃないか」
って言ったんで、「それ何?」って小声で聞きました。

「ああ、後で話してやるから、やることやっちまおうぜ」
高橋さんと、担当している商品の棚を見回り商品の補充をしていきました。
箱で運ぶので、1つ20kgから30kgあります。
このバイトになってだいぶ腕力がつきました。
で、30分ほどした頃、鮮魚売り場のほうで「うわわわわ」 「始まった」
って声が聞こえました。何事かと思って見にいったら、
冷凍ケースに入ってる魚・・・それらのいくつかが宙に浮いてたんです。
ええ、多くは発泡スチロールトレイに入ったままですが、
むき出しのイカやらサバやらも、浮き上がってました。
でね、それらは横長の冷凍ケース前の通路の中央部に、
どんどん集まってきてるんです。もちろん空飛んでですよ。

うーん、どう言ったらいいですかね。
ふらふらした感じはまったくなくて、
磁石で吸いつけられるみたいにヒュンと飛んでいきました。
止めようがないですよ。店長だって腕組みしたまま見てるだけでしたからね。
でね、その鮮魚類は重なりくっつき合って、
だんだんに細長い形になっていったんです。
人間の姿ですよ。そうですね、2m近くある大柄な人で、
片方の手は解凍のサンマのパックが2つつながってて、
頭の大部分はタラの切り身と、あと白子が上のほう、脳みその位置に乗っかって、
顔の前面にはサザエの2個入りハックがひっついて・・・
あれは両眼のつもりなんでしょうかね。

その人の形ができるまで、2分くらいのもんでした、あっという間だったです。
でね、パックの魚人間は完成したのか、もう浮き上がってくる商品はなく、
自分の足でゆっくり歩いて、店長のほうに行ったんです。
店長は微動だにせず、腕組みしたまま。
魚人間は声こそ上げませんでしたが、店長の前までくると、
両手を高々と上げて、地団太を踏むような動作をし、
そのままバラバラと崩れ落ちたんです。店長は心なしかホッとした顔になり、
「やれやれ、今回は魚か。まあ大した量じゃない。全部廃棄に回してくれ。
 あとこのことは絶対に他言しないで」こう言い残して帰っていったんです。
片付けは俺も手伝いましたよ。持ち上げてみるとただの生魚で、
動いたり宙に浮いたりするってことはなかったです。

その後、緊張した状態で早朝まで仕事しました。
でね、終わった後、着替えてると高橋さんが来たんで、
「あれ何だったんですか? 魚パックが空飛んで、しかも人の形になりましたよね。
 魔法ですか? アル中爺さんとか言ってましたが、どういうことです?」
好奇心が抑えきれず、質問責めにしてしまいました。
「うん、またあっるかもしれないし、話してやるから俺の車に乗れ」
それで、駐車場の高橋さんの愛車の中でこんな話を聞いたんです。
「アルチン爺ってのは、俺は2年勤めてるうちで昼間1回だけ見たことあるが、
 黒い喪服みたいな上下スーツを着た、ちっこい爺さんなんだ。
 年はよくわからねえが、70歳以下ってことはねえと思う。
 今夜あったようなことが起きたのは2年で4回目だから、半年に一度の割だな」

「どういう人なんです?」
「それがわからねえ。ただ店の中に入ってきて、丹念に商品を点検するみたく、
 店の中を一回りして帰っていく、それだけなんだよ」
「近所の人とかですか?」
「うん、俺がくる前、ここが開店して以来そういうことはあったみたいで、
 爺さんの帰った後をつけさせたこともあるみたいだけど、
 市営住宅の裏の林の神社のあたりで見失ったってことだった。
 探偵とか雇ったって話も聞いたが、結果がどうなったかはわからん」
「その爺さんがきたから、あれが起きたってことなんですよね」
「それは間違いない。ただしこれまでは、お菓子売り場や缶詰類、
 野菜売り場でのことで、魚は今回が初めてだと思う。なかなか壮絶だったな」

「やっぱ、商品が人の形になって動いた?」
「そうだ。缶詰人間は今にして思えば、こっけいな感じだったな」
「爺さんが店に来たとき、警備員がひっくくっちゃえばいいんじゃないですか?」
「・・・何もおかしなことはしてないんだぞ。
 変事は爺さんが帰った閉店後に起きるわけだし、因果関係が証明できねえ」
「それはそうでしょうけど、理由は特になくても、
 入店お断りはできるんじゃないですか。爺さんは何も買わないんでしょ」
「うん、実はな、話では爺さんをつかまえて事務所に連れ込んだことも、
 店の前で入店を阻止しようとしたこともあるみたいなんだよ。
 だけど爺さんは、事務所の中ですっと消えたり、
 いつの間にか店内に入ってたり・・・」

「何者なんでしょう?」
「わからねえ、神様じゃないかって人もいるけど。貧相だしな。
 貧乏神なのかもしれんが。店的にはそれほど損になってるわけじゃない。
 お客の前であれが起きるわけじゃないから、変な噂にも今のとこなってないし。
 まあ、知ってる人はいるだろうけど、フツーは聞いても信じないよな」
「たしかに、人間一人の形になる分くらいの食材だったら、
 毎日それ以上廃棄に回してるわけですしね」
「そう、金銭的な実害はないようなもんだし、ケガした人も出てない。
 ある意味、仕事に緊張感を生んでるのかもしれんな」
「もしかしたら、会社のほうで爺さんに頼んでやってもらってるとか?」
「・・・いくらなんでも、それはないだろ」

「最後一つだけ聞いていいですか。アルチン爺って言ってましたよね。
 どういう意味なんですか」
「ああ、それは野菜置場であれが起きたときから、その名がついたんだ。
 俺は聞いたこともなかったが、500年くらい前の西洋の画家で、
 魚とか野菜、花なんかを寄せ集めて人の顔を描いた人がいるんだそうだ。
 そいつの名前がアルチンボルド。それからとってつけアダ名みたいなもんだな」
「へえ、俺も今初めて聞きました。もっとも絵とか興味ないから、
 モナリザくらいしか知らないですけど」
「それは画家じゃなくて絵のモデルだろ。家にネット回線来てるんだろ。
 アルチンボルドで検索してみな。変な絵が出てくるから」
・・・半年後にまた起きるんでしょうかね。けっこう楽しみですよ。

『ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世』ジュゼッペ・アルチンボルド

 




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