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こちけさま

2015.03.17 (Tue)
中学校1年生でしたね。田舎だったんで、
学校の裏にロープリフトを張ったスキー場があったんです。
山の斜面の草を刈って、農機をばらしたエンジンでロープを回すやつです。
両手でつかまってると、上まで引っぱりあげられるんです。
学校の保護者会でやってるやつで、もちろん無料でした。
その日は、学校が先生方の会で早く終わったのと、
天気がよくてなかなか暗くならなそうだからってんで、仲のいい友達と2人で行きました。
スキーはそこの山小屋に冬中ずっと昔はいてたのを置いてあるんです。
2時から5時くらいまで滑ったんですが、
油断しててゴーグル持ってかなかったんで、雪目になっちゃったんです。
目のまわりが赤くなって、シクシク痛み、それと猛烈にかゆいんですよ。

でも、かくと悪化して病院にいかなくちゃならないんで、
ガマンしいしい帰ってきました。
紫外線で目の表面が焼かれたってことなんですってね。
久しぶりの太陽が斜面に当たって、照り返しが強かったですから。
いっしょに行った友達はならなかったんで、運が悪かったんだろうと思います。
で、目をしばたかせながら帰ってくるとき、
変なものが見えたんですよ。うーん、そのときははっきりした姿を見たわけじゃなくて、
ただ、影になった暗がりの部分に何かいるような気がしたんです。
大きさは2~3歳の子どもくらいですね。
それくらいの子どもって、体に比較して頭が大きいでしょう。
4頭身とか5頭身っていうやつです。

ところが、見えたのはもっといびつで3頭身くらいしかないと思いました。
そいつの黒い影が、ちょこまかって、影の部分から出てくるんです。
「あれ、今なんかいたな」と思って、目を凝らそうとするんだけど、痛くてできない。
でも、陰になった部分を通るたび、何かが走り出してくる気がする。
友達にそのことを話したら「えー、なんもいないぞ」って言われました。
それで、雪目になったために見える錯覚なんだろうと思いました。
家に着くころには日も暮れてきて、影自体なくなって、
そうすると見えることもなかったんです。
家に入って、爺ちゃんに「目が痛い」って言いました。
するとテレビで相撲を見ていた爺ちゃんは、こっちを見ないで、
「かくなよ、かけば病院に行かなくちゃならなくなるから。

 ぬるま湯で目を洗って、薬箱の目薬さしとけば明日まで治る。
 明日は吹雪に戻るみたいだから、もうまぶしいことはないだろう」って言いました。
それで、言われたとおり台所で目を洗いながら、
「来るとき変なものが見えた」って言ったんです。
爺ちゃんは相撲に夢中だったので、生返事でした。
目薬をさしているうち相撲が終わったんで、
ひいきの横綱が負けて呆けた顔をしている爺ちゃんに、
「目が痛くなってから、暗がりの中から子どもみたいなのが走り出てくるのが見えた」
ってもう一度言ったんです。
すると爺ちゃんは、なんだか面白そうな顔になって、
「ほうほう、それは『こちけさま』じゃないか」って答えました。

「こちけさまって?」
「爺ちゃんも子どものときに見たことがある。
 このあたりでは雪目になると見えるもんだったが、道路もよくなって、
 もういないのかと思ってた。ほうほう、懐かしいな」
「へえ、あれ本当にいるもんなんだ。それで、こちけさまって何?」
「なんだかはわからんよ。えーほら、鬼太郎のマンガなんかに出てくるやつ。
 あれの仲間かもしれんな」
「・・・妖怪ってこと? でも、そういうのって想像上のもんでしょう」
「いんや、お前の学校の教科書にも載ったと思うがなあ。
 昔々、ふるーい時代から、人間と共存してるもんだ。
 悪さをしたって話は聞いたことがない。今は、向こうが人間に遠慮してるんだろう」

「どういう姿をしてるかわかるの?」
「だから、教科書に載ってるとおりだよ。
 もしかしたら、昔の人は誰でもちゃんと見えてたのかもしれない。
 ひじょうによく似せて造ってる」
「わけわかんないな。何の教科書に載ってるの? 理科?」
「社会だろう。爺ちゃんも昔、小さいころに見たことがあるぞ。
 あれは、やっぱりお前と同じで雪目になったときだったな。
 しかし、雪目はむしろ大人になって山仕事に行ったときのほうが多かったが、
 そんときには見なかったから、子どもにしか見えないのかもしれん。
 明日吹雪なのが残念だな。もし晴れてたらスゴイもんが見られたかもしれんのにな」
「スゴイものって?」 「だから、こちけさまたちだ」

こんなやりとりをしてるうちに、両親が帰ってきたので夕食を食べ、
目のことを口実にして勉強しないで早く寝たんです。
目には濡れタオルを上からあててました。
翌朝、カーテンの隙間から日差しがさしてきて目が覚めました。
どうやら天気予報は当たらなかったみたいです。
目はもう痛くなかったですが、かゆみはまだ残ってました。
時間は6時前だったんですが、昨夜早く寝たんで起き出しました。
下に降りていくと、爺ちゃんがストーブをつけてましたが、こっちを見て、
「どうだ、目は治ったか?」って聞いてきたので、
「痛みはないし、涙も出なくなったけど、まだかゆい」って答えたら、
「そうか、かくなよ。たぶん今日中には治るだろ。

 それと、天気がよくなったんで、面白いものを作っておいたぞ」
こう言って、変なものを見せてよこました。
それは横長のボール紙に細い切れ目をやはり横長に入れたもので、
両端に15cmほどのひもがそれぞれついていました。
「こうやって目につけて、頭の後ろでひもを結ぶんだ」
「へえ、なんかかっこいい気もするな。何に使うもの?」
「こちけさま、が見えるかもしれん。天気予報は外れたし、
 朝は日差しもそう強くないから、目のほうは大丈夫だろう」
爺ちゃんはそう言って、裏口から外に出るように言いました。
それでヤッケをひっかけて、長ぐつで爺ちゃんの後に続いたんです。
夜の間に雪はほとんど降らなかったようでした。

固くしまった雪を踏んで裏庭に出ると、田んぼに積もった雪に、
ところどころにある杉の木がくっきり影を落としてました。
目が少し痛んだので爺ちゃんに言うと、
「さっきのメガネをつけて田んぼ見てみろ」
それで、ひもを結んで、細長い隙間から田んぼを見てみたんです。
何か小さいものが杉の影から走り出、短い手足で半ば雪を泳ぐようにして、
ちょこちょこと別の影に入っていきました。あちこちにいるみたいでした。
「見えるか?」爺ちゃんが聞いたので、
「昨日よりはっきり見える。あ、こっち向いた。
 わかった、確かに社会の本に出てるやつだ。目が、今俺がつけてるのに似てるね」
「そうか、さっき試してみたが、やはり爺ちゃんにはもう見えん。

 しかし、いるってことは何となく感じる」こう言いました。
しばらく、こちけさまたちを見てたんですが、
そろそろ両親が起きてくる時間になったので家に戻りました。
「このメガネをつければ、また見えるのかな」
「いや、たぶんダメだろう。雪目になったときじゃないと無理かもしれん。
 爺ちゃんもそうだったしな」
確かにそれ以後、はっきりした姿は見てないんです。
わざと雪目になるわけにもいかないですしね。
でも、冬になると存在を感じることはありますよ。ああ、今走ったんじゃないかってね。
・・・「こちけさま」が何かもうおわかりでしょう。
そう、これのことです。







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