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ボールおじさん

2015.03.23 (Mon)
*ナンセンス話ですが、ファンタジーっぽいです。

小学校低学年のときのことだと思うけど、記憶がはっきりしない。
そもそもずっと忘れてたことなんだが、最近になって思い出した。
だからね、今から話すことは子ども時代の幻想かもしれないよ。
話を聞いても、とうてい信じられないだろうから。
3年生・・・くらいだったか。休みの日だった。
小学校の校庭に一人で遊びに行ったら、高学年がいるだけで、
遊べるような友だちはだれも来てなかった。
しかたなく戻ってきて、家の近くの小公園でブランコに乗ってた。
そこはほら、団地と一緒に造成された、母親と幼児が過ごすようなところで、
買い物の時間帯のせいかだれもいなかった。
ツマンナイというか、子ども心にもうら寂しいと感じるような春の夕暮れ。

足元を見ながらゆっくりブランコを漕いでて顔を上げると、
ベンチに大人の男の人が座ってたんだ。「あれ、いつ来たのかな」と思った。
たしかさっきまで誰もいなかったはずなのに。・・・その人の顔はほとんど覚えてない。
わかるのは、ただ黒い服を着てたのと、そんな年よりじゃなかったってことだけ。
「おじいさん」じゃなく、「おじさん」で記憶してるから。
その人はこっちが顔を上げたのに気がついたのか、
ベンチの横に置いてた、これも真っ黒な四角いカバンを開け、
中からボールを3個取り出した。それを座ったまま宙に投げては取るということを始めた。
お手玉というより、ジャグリングといったほうがいい鮮やかさだった。
使ってるボールは、テニスボールよりやや小さいくらいで、
一つは灰色の毛玉のようなの、一つは真っ赤なつるつるしたもの、一つは青。

それがジャングルジムの天辺より高くまで上がって、また落ちてくる。
つねに3個が、高さの違いこそあれ同時に空中にあるという鮮やかさで、
これは子どもなら興味をひかれるだろう。
じっと見ていると、おじさんはふと手を止めてボールを膝の上に置き、
こっちに向かって手招きしたんだ。
まあ、今ほど変質者がどうとか騒がれてないころだったんで、
怪しみもせずに近寄っていった。するとおじさんは、
ベンチの横からカバンをのけ、そこに座るように指で示した。
俺が腰かけると、おじさんは膝に置いてたボールの一つを俺に手渡してよこした。
そのときに「強く握らないで」みたいなことを言ったと思う。
そっと手のひらでつつむように持つと、ふわふわで少し暖かかった。

それだけじゃなく、手に鼓動を感じたんだよ。どくんどくんって心臓の音。
思わずおじさんの顔を見ると、おじさんは俺の手からボールを取り上げ、
カバンを開けたんだ。中には、ほぼ同じ大きさのボールが、
そうだなあ、20個くらいは入ってたと思う。
黒い柔らかそうな布が半円形にへっこんで、そこにボールの半分が埋まる形で並んでた。
その空いている部分に、お手玉に使った3個の玉を戻し、
それでカバンの穴は全部埋まった。
上のほう10個くらいはいろんな材質と色のボールで、
正確に数えたわけじゃないが、残り5個が赤、5個が青って感じだったね。
おじさんは「カバンの中はもう一杯だけど、ボクのためにボールを一つ作ってあげよう。
 走るものが好きかい、それとも飛ぶものがいい?」

こんな風に聞いてきたんだ。意味が分からなかったけど、大人に人に聞かれたので、
あわてて「走るもの」って答えた。するとおじさんは、
自分の人差し指をべろんと舐めて頭の上にかざした。
そのとき見えた舌が墨汁みたいに真っ黒だと思った。
「おお、いるいる、近くにいるな」そう言って、指を戻して鋭く指笛を吹いたんだ。
「ちょっと待ってて、今くるから」言い終わらないうちに、
生垣の下をくぐって白っぽい猫がやってきて、おじさんの前まできてちょこんと座った。
そこらはノラ猫の多いとこだったけど、猫を呼べるなんてすごい、と思った。
でも、本当にすごいのはそれからだったね。
おじさんは「おお、よしよし」と言いながら猫の頭を片手でさわり、
猫は目を閉じてなすがままにされてる。おじさんはもう一方の手も出し、
猫の頭を包んで粘土でもこねるように・・・

そしたら、猫がどんど縮んでくように見えた。半分になり、そのまた半分になって、
1分もたたないうちに短い白い毛のボールになったんだよ。
手品・・・それとも魔法、そのときどんな風に考えたんだろうね。
とにかく不思議だった。おじさんはその白いボールを片手に持ったまま、
「もうカバンに入るとこないな。一つ逃がしてやろう。ボク、この赤青の玉以外で、
 どのボールが好きだい?」よく見ると、中に1個光沢のある網目模様の、
毛玉じゃないボールがあったんで、「これ」って指さした。
「ああ、いいよ」おじさんはそのボールを取り上げ、両手のひらで包んで・・・
すると指の間からひょっと長いものが飛び出した。蛇のしっぽだった。
いつの間にはおじさんの手にあまる長い蛇が出現してて、
「さあ行け」そう言って地面に落としたんだ。

蛇は素早い動きでベンチの下の草むらにもぐり、そのまましゅーっと消えていった。
それを見ても怖いとは思わなかったね。むしろ驚異の念にうたれてたっていうか。
「このボールはもともと動物だったの?」そう聞いたら、
「うん、生き物だった」 「じゃあ、赤いのと青いのは?」
「赤はまだ燃えている魂、青は冷えた魂」こんな答えが返ってきたけど、
そんときは意味がわからなかったね。まあ、今もわかるわけじゃないけど。
動物ボールのいちばん最後に、人間の髪の毛を丸めたような黒いのがあったんで、
「これは?」って聞いたら、おじさんはにっこり笑って「まりこちゃん」って答えた。
そのとき初めて、ゾーッと怖くなったんだ。
「人間もボールになるの?」 「そう、他の生き物と違いはないよ」
「僕も?」 「じゃあ、なでてあげようか」

おじさんが頭に手をのばしてきたんで、思わず立ち上がった。
おじさんはまた笑って「冗談だよ。ボクはまだボールになる準備ができてないだろう」
そうい言っておじさんも立ち上がり、
「さて戻ろうか、もうこの町にはこないだろう。でも、ボクとはまた会うかもねえ」
カバンをしめて小脇に抱え、公園から出ていったんだよ。
端って家に戻り、夕食の支度をしていた母親に、見たことを全部話した。
でもね、猫が毛玉になったことや、ウロコのボールが蛇に変わったことなんて、
信じてもらえるはずがない。母親は、「手品を見せてくれたんだと思うけど、
 知らない人と話をしたりしちゃだめよ。このあたりは、
 だいぶ前だけど小さい女の子が一人行方不明になってるんだから」
・・・母親にその子の名前を聞いたんだ。

そしたら、「うーんよく覚えてないけど、まり子ちゃんって言ったかしら」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
で、それから30年以上過ぎて、とっくにその町から離れ、大きな市で就職して、
結婚もした。上の娘はもう小学生なんだが、
そこの小学校で、娘より一つ上の学年の女の子が行方不明になってるんだよ。
テレビでも報道を始めたから知ってるだろう。大騒ぎになった。
それでね、PTAでパトロールを始めたんだよ。
ほら、ステッカー貼った車で、登下校時にパトロールするってやつ。
妻が郊外指導部の役員になってるけど、車の運転はできないし女だからね、
何かあったときにまずいだろう。それで、
週いちで俺がもう一人の父兄と組んで、見回りをしてるんだ。

行方不明事件の後だから訳を話して年休をとっても、むしろ会社も奨励してくれてる。
昨日の夕方だよ。3時頃だな。俺がハンドルを握って、ゆっくり通学路を流してた。
学校から少し離れた児童公園をとおりかかったときに、
ベンチに座ってる人の後ろ姿が見えた。
黒い服、ベンチの背もたれではっきりしなかったが、
かたわらに黒いカバンが立てかけてあるようにも。
そのときだよ、自分が小学生のときの体験、ボールおじさんを思い出したのは。
連れの父兄に「あそこ、ベンチに座ってる黒い服の人いますよね?」
「え、どこ? あのベンチだよね。えー誰もいないんじゃない」
こんな答えが返ってきたんだ。車を降りて確めることはしなかったよ。
そうすればよかったかな。







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コメント
 もし「髪の毛の玉」を選んでいたら、何が出てきたんでしょうね・・・そして話し手氏も無事に帰れたかどうか。ボールおじさんがあくまでも物腰柔らかく、それでいて命や魂を徹底してモノ扱いする視線が恐ろしい。
 しかし、大道芸人や手品師は昔からホラーとの親和性が高いですね。人の身でありながら「余所者」「特異な外見」「不思議な技」と三拍子揃っているからでしょうか。
| 2015.03.24 12:23 | 編集
コメントありがとうございます
これは実話怪談風とは少し違った話になりました
大道芸人はヨーロッパだとジプシーとか血筋というのも
あるかもしれません
あと心霊主義時代の霊媒とかも
もともとその手の芸人だった人が多いんです
bigbossman | 2015.03.24 21:24 | 編集
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