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犬跳び

2015.03.24 (Tue)
金もらえるって聞いて来たんだが、こういうとこで話をすんのは苦手なんだよな。
どう喋ればいいんだ。最近あったことからか、それとも昔のこと?
そうか、じゃあ順を追って話すよ。
ただ、断っておくが、そんなに怖い話じゃねえからな。
ガキの頃、四国の某県に住んでたんだ。あんまり裕福な家庭じゃなくって、
ごみごみした川沿いの土地だった。近くをドブ川というにはやや広い川が流れてて、
家のすぐ前に、人と自転車しか通れない木造の古い橋があったんだ。
名前なんて最初からないんだけど、
そのあたりのやつらは「犬跳びの橋」って呼んでた。
どうしてこういう名がついたかっていうと、犬が身投げするんだよ、その橋から。
まあなあ、そんなことありえねえと思うだろうが、実際にこの目で4、5回は見てる。

ああ、身投げする瞬間を見たわけじゃなく、倒れて死んでいる犬だよ。
水に飛び込んだなら、犬は泳げるだろ。
そうじゃなく、俺の家に近いほうの側の岸に黄土色の大きな石があってな。
そこに頭を打ちつけて死んでたんだ。橋自体は10m以上はあるから、
犬がわざと下に岩のあるその場所を選んで頭から飛び降りてるってわけだ。
な、普通じゃ考えられないだろ。高さは5mってとこだろうけど、
犬は敏捷な動物だから、下の土と草の場所に落ちればそんなケガはしないだろ。
それに欄干は大人なら腰の高さ、子どもの胸以上もあった。
だから誤って落ちるとかありえないんだよ。
ところが俺が見たやつはどれも、頭が割れて石を血に染めて目を開けたままのびてる。
新聞配達やってたから、俺が朝一で発見することが多かったんだよ。

で、家に知らせて保健所に電話をかけてもらう。・・・もしかしたら、
別の場所に飛び降りて、そのまま逃げてった犬もいるのかもしんねえけどな。
あと、ここに来る前にネトカフェに寄って少し調べてきたんだ。
したら、外国、イギリスにもそういう犬の自殺する橋があるみたいだな。
向こうは川に飛び込むみたいだったけど。飛び降りる犬種まで決まってるらしくて、
ゴールデンレトリバーって言ったっけか。それもまた不思議なことだと思ったね。
スコットランドのドッグリープ(dog reap)訳せばそのまま犬跳びだ。
でな、ある夏休みの日のことだ。夕方外に出たら、
お遍路さんが橋の欄干にもたれて下を見てた。
お遍路さんは珍しくはないけど、俺の住んでた地域にはまず来ないんだ。
それで家に戻って母親に話したら、麦茶持っていきなさいって言われて。

コップの冷えた麦茶を手渡したら、お遍路さんは礼を言ってから、
「あの黄色い石、昔からずっとここにあるの?」って尋ねてきた。
そうだと答えると、「何か変わったことがないかい」
年に数回、こっから犬が飛び降りて頭打って死ぬって話したら、
「・・・人が飛び降りることは?」 あきれた顔でさらに聞く。
ないと答えて、逆にどうしてあの石が気になったか問い返すと、
「いやね、おじさんには字が浮き出して見えるんだよ。 学校で習ったかな。
『如』って一文字大きく浮かんでるようにね。女へんに口って書く」
こんな話をしたんだ。けど、それ以上のことはわからなかったし、
俺がいくら目をこらしても、字が見えるということはなかったんだ。

それから2年くらいして、上流のほうで集中豪雨があった。
川の水が怖いぐらいに増水してね。家のすぐ近くだから気が気じゃなかった。
幸いに水は堤防を越して上がってくることはなく、橋も壊れなかった。
俺は実はその期間、新聞の取次所に泊まり込んで、家族も避難してたんだけどね。
3日して家に戻ったが、そんときには水は嘘のようにひいてて、
両岸がすっかり泥をかぶってた。ススキなんかもみな埋まったようになっててね。
でな、あの石が動いてたんだ。うーん、水の勢いで転がったっていうより、
石の下の土が崩れたんだろう。数mくらい橋のほうに近づいてきてたんだ。
元の石のあったところは、普通なら泥で埋まってるか、
水が溜まってるはずなんだろうが、そこがぽっかり2mばかり穴になっててね。
覗きこんでも底が見えない、地獄まで続くような真っ黒で深い穴だよ。

この記憶は強く印象に残ってる。
それから数年して、俺が高校卒業して大阪に就職で出るまでには、
川岸はコンクリで護岸されてね。黄土色の石はどこへいったかもわからないし、
大水のとき以来、犬が跳び降りるってこともなくなったんだよ。
さらに10年ほどたって、俺が30前くらいのときだ。
女ができてね。デートを重ねたら、
何かの新興宗教に入ってるってことがだんだんにわかってきた。
俺はそういうの、あんまりいい印象持ってなかったんだよ。天国とか魂とか仏様とか、
あるかないかわからないのをダシにして、金をむしり取られるだけのもんだって。
だけど、熱心に誘われるようになって、断りきれずその団体の例大祭ってのに、
いっしょに出かけてみたんだよ。

ああ、団体は今もあるし、ますます隆盛してるみたいだね。
そんときもすでに立派な施設が建っててね。だが感心はしなかった。
これもみな信者から搾り取ったお布施のたまものなんだろうって。
詳しいことはわからんが、でかい観音像が庭園にあったから、仏教系なんだと思う。
で、説法と御祈祷みたいなのが終わって、女と庭を散策してたんだ。
したら、その一画でね、なんとあの橋の下の石と再会したんだ。
立派な台座がしつらえてあって、その上に乗ってるのがあの黄土色の石。
これは子どものときからほぼ毎日見てたから間違いはないよ。
欠けたようなとこもなく、大きさも形もまったくそのまま。
ただし、石だけが祀られてたわけじゃない。
そのさらに上に光沢のある白い石でできた犬の像が載ってたんだ。

いや、狛犬ってことじゃない。
あれはどっちかといえば、巻いたタテガミのある獅子だろう。
そうじゃなくて、耳のぴんと立った和犬だな。柴犬だろう。
不思議に思って女に聞いてみたが、何なのかは知らなかった。
最初に見たのは後ろ側だったんで、ぐるっと前に回ってみた。
そしたら、犬の腹の下のところにお経の文句のようなのが彫られてあったんだ。
『如是畜生発菩提心』って。これも難しかったがネットで調べてみた。
「八犬伝」っていう本に出てくる役行者の呪文らしいな。
犬のような畜生でも、悟りをひらいて仏になれるって意味のようだ。
うん、話はこれで終わりだ。訳がわからないし、怖くもなくてスマンけどな。
ああ? その女とはうまくいかず、結局別れることになったよ。







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