割れる焼ける

2015.03.25 (Wed)
1年近く前のことになります。妻が妊娠しまして。
結婚4年目のことで、自分としてはすごくうれしかったんです。
それで、自分の両親には電話で知らせただけですが、
車で2時間ほど離れた妻の実家には報告のために訪問しに行ったんです。
もちろん、とても喜んでくれたんですが・・・ その帰り道です。
妻が「ちょっと寄って行ってほしいところがあるの」って言い出しました。
「どこへ?」と聞くと、実家のある市の外れにあるお寺で、
安産の御利益があらたかだということでした。
「さっき姉さんに聞いたの」 「会ってきたのか」
この妻の姉というのは、妻とは10歳近く年が離れているんですがまだ独身で、
大学を途中でやめて以来、ずっと広い実家の二階の一室に一人でこもっていたんです。

自分たちの結婚式にも出席されませんでしたし、
私は姿を見たこと自体1回しかないんです。
結婚前に妻の実家にあいさつに行ったとき、
私の顔を見ようとしたのか、そっと降りてきてドアの陰からこちらを覗ってました。
おそらく精神的な病気だと思いますが、人前に出ることがなかったんです。
ただ、妻とは会うことができるらしく、そのときも妻が二階に行っていたのでしょう。
私は道が不案内なので妻の指示どおりに運転したんですが、
妻も実際に行ったことはないらしく、何度も道に迷ってるうち雨が降ってきました。
もうあきらめて帰ろうかとしたとき、道の右手に舗装されてない細い道が見え、
その先の林の中に昔風の瓦屋根が見えたんです。
入っていくと、お寺と形容するにはあまりに小さいお堂のような建物でした。

人は誰もいないようでしたが、入り口の扉は開いてました。
雨が強くなったので、車を出て傘をさして入っていきました。
やはりお堂なんでしょう。賽銭箱とろうそく立てがあり、
その奥に頭の丸い木の像があるだけでした。ろうそくの煙によるものか、
全体が黒くすすけていて目鼻立ちもよくわからなかったです。
信仰はされているらしく、いくつか立っているろうそくの燃え残りは新しく見えました。
「うーん、これ仏様の像というより、お坊さんなのかもしれないな」
「暗くなってきたから、早く拝んで帰りましょう」ということで、
お賽銭を多めに投げ入れ、妻と2人で手を合わせました。
もちろん願ったのは妻の安産と子どもの五体満足です。
私が手を合わせるのをやめ目を開けても、妻はまだお祈りを続けていました。

私はなんとはなく木像の顔をながめてました。急に足元がぐらっとする感覚があり、
像の顔がゆがんだ気がしました。そして、真っ黒い顔が縦に真っ二つに割れたんです。
「えっ」と思う間もなくその中から別の顔が出てきたんです。
それは煤で汚れてはおらず、目を閉じた若い女性の顔に見えましたが、
それも一瞬で割れ、また割れ、また割れ、また割れ・・・
最後には男か女かもわからない赤ちゃんの顔になって大きく口を開けました。
ふと気がつくと妻が私の袖を引っぱっていました。
「どうしたの。ぼんやりして」仏像の顔は元の真っ黒に戻っていたんです。
幻覚だったんだろうか・・・そうとしか考えられないので、
妻には見たもののことを言うのはやめ、そのかわりに、
「今、地震がなかったか。なんか揺れた気がしたけど」こう聞いたんです。

「えっ、何も感じなかったわよ」そう言われました。続けて、
「迷ったけどお参りできてよかった。なんだかすっきりした気がする」
・・・妻の妊娠期間はまずまず順調でした。
つねに眠いと言っていて、夜早くベッドに入るようになり、
朝の寝起きが悪くなったくらいです。
ところがお腹のふくらみが目立ち始めたころから、
「おかしな夢を見る」と言い始めたんです。どんな夢かというと、
暗い所に素っ裸で仰向けに寝ていて、それをなぜか真上から自分で見下ろしている。
そのうちにどんどんお腹が上に向けてせり出してきて、
ぱっくりと割れる。で、その下にはまたお腹があって・・・という繰り返しの夢です。
これを妻から聞いたとき、あのお堂のことが思い出されたんです。

妻には病院の主治医に相談するようにすすめましたが、
「精神的なもので、あまり気にする必要はないです」と言われてきたようでした。
それ以外は、パートの仕事は少し減らしましたが、
病院の母親学級などにも積極的に参加していました。
だからそう心配することはないだろうと思っていたんです。
妊娠8か月を過ぎたある日のことです。
その日は予定外に早く4時過ぎころに仕事が終わり、
妻はパートのある日でしたので、自分で鍵をあけてマンションに入りました。
リビングのドアを開けると、妻が大の字になって寝ていました。
起こそうか、それとも何かかけてやろうかと思ったんですが、
外へ向かうサッシのカーテンの向こうに、大きな黒い影があるのに気がつきました。

何だろう、と思ってカーテンを開けると、
真っ黒な人が立っていました。焼け焦げた人です。髪はなく、目も鼻も焼け爛れ、
黒いボロのようになって垂れ下がっていました。
「うわーっ」大声をあげて飛び離れました。
そのとき、寝ていた妻が「熱い、熱い、焼ける、焼ける、焼ける」
うわごとのように言いました。妻を抱き起して窓の外のものを見ました。
焼け焦げが大きく口を開けていて、その中も真っ黒でした。
口は顔ほども大きくなり、その中から白い、きれいな肌がのぞいたんです。
赤ちゃんの顔でした。妻が「えっ、えっ、夢を見てた」と言って起き上がり、
その瞬間にベランダのものは消えたんです。わけがわからないでいる妻を、
とにかく部屋の外、マンションのロビーへと連れ出しました。

ソファに座って、あの窓の外の焼けたもののことを言おうか迷っていたとき、
私の携帯に着信が入りました。妻の実家からで、内容は・・・
妻の姉が、実家の広い庭で焼身自殺をしたというものだったんです。
灯油を頭からかぶって自分で火をつけ、すぐに発見されたんですが、
手のほどこしようのない状態だったそうです。
こっからは後日談になります。
警察の検証で姉の部屋から遺書らしき紙が見つかりましたが、
それには「スミマセン」という走り書きと、
庭の一隅の場所を示す内容が書かれてあり、そこの石の下を掘ってみると、
ビニール製のバッグが出てきて、中には焼け焦げた乳児の骨が入っていたんです。
DNA鑑定はできませんでしたが、男の子であることはわかったようでした。

あまりに遺骸が損傷し時間もたっているため、乳児の死因は特定できず、
妻の実家のほうで議員など手を回したので、バッグの件は表沙汰にはなりませんでした。
でも、そういう事情のためお葬式もあげることはできなかったんです。
・・・何がどうなっているのか推測することはできますが、
それをここで話すのはやめておきます。どうなることでもありませんし。
あと話す内容は3つだけです。
一つはあの妻といっしょにお参りしたお堂のことですが、
○○上人様という昔の偉いお坊さんを記念するためのもので、
特に安産に御利益があるとか、そういった評判は地域ではなかったんです。
ただ・・・お堂から裏手に入った川原には、
水子供養のための地蔵がいくつかあったようです。

もう一つは、ベランダであの焼け焦げたものを見たと思ったときに、
妻が「割れる、熱い」と言っていた夢の内容、それを後で聞いてみたんですが、
妻は悲しそうな顔をするだけで、頑として答えようとはしませんでした。
まあこれは、私も追及したりする気もありませんし。
最後に、妻は、あんなことがあったものの無事出産し、
男の子でした。まず順調に育っていますよ。






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