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無明

2015.04.06 (Mon)
始まりは学校の総合学習の時間にやった、障碍者疑似体験学習です。
これはどういうものかというと、県の施設から指導員の方が来てくださり、
さまざまな器具を使って、自分が障碍者になったらどんな点が不自由なのか、
どんな気持ちになるのか、バリアフリーはどうあればよいか、
などについて1クラスごとに学習するんです。3つのコースがあって、
1時間のうちにすべてを体験します。一つはアイマスクをつけるもの、
一つは車イス、もう一つが、体に重りやヒジ、
ヒザが曲がらなくなるサポーターをつけるというものでした。
私は同じクラスの友だちの美紀とペアになって、
美紀が体験しているときには、私が介助役をします。交代でやるんです。
やってみると、いろいろと気づかせられることがありましたが・・・

器具の数には限りがあるので、クラス全体が3つの班に分かれて、
順番を変えてやりました。私たちの場合は、
車イスから始まって、最後がアイマスクでした。美紀が最初です。
アイマスクは交代で使うので、上にティッシュをのせてから美紀がつけ、
私が手を引いたり、口で指示を出したりして校内を回ります。
ただし、事故があってはいけないので、
上りはいいのですが、階段を下りることは禁止でした。
上の階に上がった場合は、アイマスクを外して下ります。
私たちの教室は2階なので、2、3階を回ることになります。
どこをどう案内するかの順は自由で、教室に戻ってアイマスクを外してから、
回った道順を紙に書いて、合っているか確かめる予定だったんです。

アイマスクをつけて立ったとたん、美紀が異様に怖がりはじめました。
「頭をぶつけそうな感じがする」と言って目の前に片手を出して振るんです。
「だいじょうぶだよ。障害物はないよ。
 手を引いてちゃんと案内するから、どこどこを回ったか覚えてて」
こう言って、手を引いて教室を出ました。
美紀は「怖い、怖い」と言いながら、ずっとつかんでいないほうの手を前に出し、
体を後ろにのけぞらせて歩きました。
廊下には他のペアがいましたので、それにぶつからないように気をつけて、
教室棟の廊下から「右に曲がるよ」と言って特別教室棟に入りました。
特別教室の鍵はすべて開けてあったので、最初に調理室に入り、
美紀に「ここ、どこだかわかる?」と聞きました。

途中でこんな質問をすると回った順がわかってしまうんですが、
そこまで真面目にやってたわけでもなかったんです。
美紀が「木工室」と答えました。
木工室は廊下の反対側の部屋なので、私は笑って、「これ何かわかる?」
そう言って、美紀の手を各テーブルについている水道の蛇口に持っていきました。
「ああ、調理室なのね。なんでか逆に思ってた」
こんな調子で、美紀もだんだんに怖がらないようになってきました。
特別教室棟の端まで行ったので、「階段上ってみる?」と聞いたら、
「いい、いい、やっぱり怖い」それでやめることにしたんです。
つき当たりは、普段はいつも閉まっている清掃用具を置いてある部屋でした。
そこも開いてたので美紀の手を引いて入りました。

中には予備のホウキやモップの柄、バケツなどが雑然と置かれているだけでした。
「じゃ、ここはどこ?」また私が聞くと、美紀はしばらく考えていましたが、
「うーん、医療室」って答えたんです。
「えー、何言ってるの。医療室なんてもともと学校にはないじゃない。
 保健室は1階だし、そんな言葉どっから出てくるの?」
思わずこう言ってしまいました。そしたら美紀は、
「・・・・そうだよね。でも、なんでか医療室って言葉が出てきた。
 あれ、変! アイマスクつけてるのに見えるよ。
 白い目の人がたくさんいる」 「白い目? どういうこと?」
「煮たり焼いたりした魚の目」
「ちょっと気味悪いこと言わないで」

美紀が逆に私をからかってるんだろうとは思いましたが、
本当に気味が悪くなってきたので、美紀の手を引いてその部屋を出、
あとはまっすぐに教室まで戻ってきたんです。
「さっきの魚の目って冗談でしょう・・・」こう言いながら、
アイマスクのマジックテープを外しました。
美紀は目をパチパチさせていましたが、半分叫ぶようにして、
「見えない」って言ったんです。「もう冗談やめて。大声出すと怒られるよ」
美紀はぎゅっと額にしわがよるほど固く目をつぶっていて、
閉じたまぶたからぼろぼろと大粒の涙がこぼれ始めました。
「美紀、どうしたの大丈夫?」
「見えない、見えない。目が熱い、熱いよう」

美紀は床にうつぶせに倒れ、手足をじたばたさせ始めました。
部屋にいた他のクラスメートが回りに集まってきました。
「先生を呼んできて」私が叫び、男子が数人走っていきました。
先生と指導員の方が駆けつけてきたときには、美紀はべたっと体を床につけて、
クロールのような動きをしていました。「熱い、熱い」と叫びながら。
「どうしたんだ。どこかぶつけたのか?」
先生が聞いたので、私は頭を振りました。暴れる美紀を、
先生と指導員の方が両脇を支えて立たせ、下の保健室に連れていきました。
私も後ろについていきました。美紀はすごい暴れ方で、
大人2人でも立って歩かせるのが大変な感じでした。保健室に入ったとたん、
美紀は先生方の手を振りほどいて薬品の棚に突っ込んでいったんです。

ガラスが割れ、棚が倒れました。すごい音だったので、
職員室にいた他の先生方も入ってこられました。
ガラスが散らばった中でもがいていた美紀を体育の先生が肩に担ぎ上げ、
「これダメです、救急車を呼びましょう」と言いました。
私は別の部屋に連れていかれ、何があったのかを聞かれました。
あったことをそのまま答えるしかできませんでした。
清掃用具室に入ったときの「白い魚の目」の話もしたんですが、
生徒指導の先生も首をかしげるだけでした。私のほうから逆に,
「この学校って、医療室ってあったんですか」と質問してみましたが、
「いや、ここは20数年前に新築で建てられて、保健室はずっと保健室のはず.
 その前は田んぼだ」こう答えが返ってきただけでした。

午後になって、美紀についていった担任の先生が戻ってきて、
「病院に行ったら落ち着いた。
 検査をするのでしばらく入院することになると思う。
 しばらくお見舞いには行かないでください」帰りの会でこう説明しました。
それを聞いて少し安心しました。
保健室の棚が倒れてガラスが割れたときに血が出るようなことはなかったので、
2,3日すれば戻ってくるだろうと思ったんです。
・・・・・・ところがそうはなりませんでした。
美紀の入院は何ヶ月も続き、見舞いに行くことは禁じられたままでした。
半年ほどして、美紀は入院のまま転校したということを聞かされました。
その後、噂が広まったんです・・・・

美紀が入院中、自分で自分の両目をくりぬいた、という噂です。
本当かどうかはわかりません。
先生に聞いたら「その話はしないでください。これ以上広めないで。
 美紀さんはちゃんと治療を受けているから」
こんな答えが返ってきました。
まだ障碍者疑似体験を終えてないクラスもありましたが、中止になりました。
あれ以来、2階の清掃用具室には「使用禁止」の札が貼られ、
その前に机のバリケードが築かれました。
そんなものがなくても、私は怖くて近づく気にはなれませんでしたけど。
・・・気になるんです。いったいこれは何があったんでしょうか?


*無明(むみょう、avidya)とは、仏教用語で、迷いのこと。 また真理に暗いこと、
智慧の光に照らされていない状態をいう。 法性(ほっしょう)に対する言葉である。
仏教では十二因縁の根源に無明をおく。







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つねさん | 2015.04.16 13:15 | 編集
コメントありがとうございます
興味深い活動ですが、アナログで手紙を書くとか何しろ時間がなくて・・・

bigbossman | 2015.04.17 00:52 | 編集
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