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病院の蛇

2015.04.08 (Wed)
同居していた60歳台の祖母が糖尿病で入院したときの話です。
でも、すぐに命がどうこうということではなく、体重が増えてしまったので、
しばらく入院して食事療法をするのが目的だったんです。
ですから入院先も、内科専門の個人病院でした。
3階建てでベッド数は百近くありました。
病棟は6人部屋で、そのうちの5つがふさがっていました。
朝一番の入院で、両親といっしょに僕も付き添って行ったんですが、
そのときちょうど騒ぎがあったんです。
窓際にいた、祖母より10歳は年上に見えるおばあさんでした。
その人が「窓の外に蛇がいた。人よりも大きな蛇」そう叫んで、
看護婦さんたちや、同室の患者さんになだめられていたんです。

「確かに見たんだよ。ミミズみたいに体がだんだんになっている蛇が、
 そこの窓を這ってるのを。あんなに大きい蛇はいないから、蛇の化け物だよ」
「夢を見たんですよ、きっと」
「ここは3階だから、蛇が登ってくることはできませんよ」
「だってそこに跡がついてるじゃないか」
その人が指さした窓を見たんですが、跡があるようには思えまえんでした。
「気のせいですよ、気のせい。もっと楽しいことを考えましょうよ」
こう言われて、その人も落ち着いたようでした。
そんな中で入院の準備をし、祖母は簡単な検査にまわることになりました。
休みの日だったので、その日はずっと病院にいましたが、
出てきた昼食の量を見て、祖母は絶句していました。

3日後の午後、父と見舞いに行ったとき、
前に騒いでいた人のベッドが空いているのに気がつきました。
祖母の話では、その晩に急に容体が悪化し、
大病院に搬送されてそこで亡くなったということでした。
僕は蛇の話を思い出して、少し気味が悪くなりました。
まるでその蛇が、その人の命を奪っていったような気がしたんです。
でも、考えてみるまでもなく、人ほども大きい、
体がミミズの蛇なんているわけがありません。
きっと具合が悪くて幻覚を見たのだろう、と思うことにしました。
祖母は退屈していましたが、目が悪いために読書とテレビは制限され、
しかたなくイアホンでラジオを聴いているということでした。

それからも1週間に一度の割で見舞いにいきました。
祖母は目に見える形で痩せてきて、入院の目的からすれば、
それは好ましいことなのですが、
なんだか、体重とともに元気もなくなっていっているような気がしたんです。
病室の他の患者さんはやはり長期入院の方が多く、
ずっと顔ぶれは変わらず、亡くなった方のベッドは空いたままでした。
それから1か月ほどして、高校の帰りに僕が一人で見舞いに行ったときのことです。
病院に入ると、入り口すぐの面会ロビーに祖母が座っていました。
もうかなり痩せていて、その面では退院してもいいくらいでしたが、
検査で新たに具合の悪いところが見つかったため、
もうあと1ケ月はかかるだろうということでした。

祖母は僕の姿を見つけると手招きし、
病院の外の植え込みの中のベンチで話をしたんです。
そのときに祖母が「前に、蛇の騒ぎがあったのを覚えているかい」
「うん、ばあちゃんが入院した日のことだよね」
「あれねえ、仲良くなった別の部屋の人たちに聞いたんだけど、本当にいるみたいだよ」
「まさか。ばあちゃん、そんなことないから」
「もうすぐ死ぬという人にだけ見えるんだって。
 でなければ逆に、その蛇に魅入られたから死ぬのかもしれない。
 どっちかわからないけど、これまでに大蛇を見たって騒いだ人はけっこういるみたい。
 しかもその人たちは、みな数日たたずに亡くなってるんだって」
「でも、ここ病院だし、亡くなる人もいるだろうけど、蛇とは関係ないんじゃない」

「それがね、蛇には人の顔がついてるんだって」
「えー怖いなあ、ばあちゃん、もうやめようよこの話」
「それでね、蛇の顔っていうのは、
 この病院の先々代の院長さんなんだって話もあるの」
「えー、そんな。先々代ってここの病院を開いた人でしょ。
 玄関先に銅像があったよね」
「そ、あの頭が台座から抜け出して、そしたら長いミミズの体がついててね。
 病院中をどこでも這ってまわることができるんだって」
「そんなのありえないから。あの銅像の先生は郷土史の本にも出てくる立派な人だよ。
 この病院ができる前は、時間をかけて隣の市までいかなくちゃなんなかったし。
 そんな人が自分のつくった病院の患者さんに悪いことするわけないじゃない」

「そうだよねえ」
「そうだよ。それに生き物の体に銅の頭がついてたら重くて動けないから」
こんな話をして、その日は病室には寄らずに帰ったんです。
帰り際に、祖母の話があまりに変だったので、
葉陰になっているその銅像をのぞいていきました。
病院にとっては大事なもののはずなのに、なぜか周りを木に囲まれて、
ちょっと目には場所がわからないようになってるんです。
額の広い、温和な初老の紳士の胸像だったんですが、
その頭が・・・緑色のねばねばした液体で濡れていました。
木から樹液が落ちたんじゃないかと思いましたが、
見ているとすごく不安な気持ちがしたんです。
でも、首が抜け出して蛇になるなんてことは信じてはいなかったんですよ。

それから1か月しても、祖母の退院許可は出ず、
入院したときとは見違えるくらい痩せてしまっていました。
ある夜です。家族全員が家にいるときに、
その病院から祖母の容体が急変したという連絡が入りました。
急いでかけつけると、祖母は1人部屋に移され、点滴と酸素吸入を受けていました。
ベッドの周りを囲んで、父母と僕、妹が呼びかけると、
祖母はうっすらと目を開けました。点滴を受けてないほうの腕をタオルケットの外に出し、
首のほうに向けてひっかくようなそぶりをしました。
酸素吸入器を外したがっているように見えました。
それと察した主治医の先生が、口と鼻のカップを外しました。
祖母はかっと目を見開き、一言「へびをみた」と言いました。

そのとき、主治医の顔色がはっきり変わったのを覚えてます。
それから30分もたたずに祖母は亡くなりました。
僕と妹は泣いているだけでしたが、両親は葬儀社に連絡したり、
菩提寺や親戚に電話をかけたりで、悲しむ余裕はなかったと思います。
死亡診断が済み、葬儀社の車が到着して、家はマンションでしたので、
遺体は葬儀社の会館に安置してもらうことになりました。
病院を出たときに、祖母のいた3階のほうを振り返ってみました。
そしたら・・・ほんの一瞬だけ、2階から3階にまたがって、
巨大な長い生き物がはりついているように見えたんです。
でもそれは、目をしばたくと消えていました。
初代院長の銅像ですか?・・・確めてみる気にはなれませんでした。

おいおう




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コメント
画像はヘビでもミミズでもなく、アシナシイモリですね。
かわいいですw
なぜミミズやヘビのような外見になったのか、不思議ですね。
西條すみれ | 2015.04.08 10:05 | 編集
コメントありがとうございます
自分もこれ系のものは
かわいいとまではいかなくても、気味悪いとは思いません
なぜ病院の初代院長がミミズヘビになったのかは
よくわかりません
bigbossman | 2015.04.08 23:38 | 編集
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