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玉体様

2015.04.10 (Fri)
大学2年のときの夏休みのことです。
同じ研究室の仲間2人と海の家でバイトしてたんですよ。
代々俺らの研究室が受け継いでる仕事で、今でも後輩たちがやってるんじゃないかな。
そんな大きな海水浴場じゃないです。大学のある市からは車で1時間。
もちろん通いじゃなく、民宿の一室に宿泊費なしで泊まり込み。
食費もタダだけど、売り物にならない魚のから揚げとか煮物とか、
そんなのばっかでしたよ。でも俺はこのバイト好きだったです。
毎日泳げるし、ひと夏、頭空っぽにしてかき氷削ってりゃいいんですから。
1年のときもやりましたから、2度目ってことです。
でね、その年、お盆の前あたりにイベントがあったんです。
砂の彫像大会ってやつ。

そこらの砂は濡れると土に近いくらいに固まるんですよ。
それをバケツで積み上げて、何かの形にするわけです。
でもね、そんな大がかりなものはできません。雪の彫刻とかと違って、
しょせんは砂だし、それに制限時間2時間で作るんですよ。
だから大きくても2m四方くらいでした。
事前の参加申し込みと、当日の飛び入りとでコンテストもしたんですが、
参加者が少ないってことで、俺らにも出てくれって話が観光協会から来たんです。
作ってる時間帯は店のほうはやらなくていいからって言われて。
どうせサクラみたいなもんだろうって思って引き受けることにしました。
で、何を作るかみなで話をしたんですよ。砂だと高さのあるものは作れないし、
複雑な形も無理ってことで、けっこう悩みました。

したら、滝田ってやつが「大海蛇とかどうだ」って言ったんです。
そいつはUMAフアンで・・・ 
ああ、UMAというのは世界各地で目撃される怪物みたいなもんです。
「砂を盛り上げた台座を海面にするんだ。波とかも作って。
 胴体全部作んなくても、ところどころ出てるようにすればいい」
「あ、それ簡単そうだな」ってことで決まりになりました。
当日は12時から2時までが制作時間でした。道具はバケツとシャベル、
移植ベラくらい。1時間かからずにある程度のとこまではできました。
でもね、蛇に見えなかったんですよ。ぐねぐね木の根っこみたいなのがうねってるだけ。
まあ、俺らは地元みたいなもんだから、どうせ賞の対象にはならないんですけど、
見物してる人の手前、「これじゃあいくらなんでも」と思いました。

そしたら、言い出しっぺの滝田が、「これ、頭を人の顔にしようぜ。
 それから胴にヘラで細かく鱗をつけていけば、少しは蛇らしくなるだろう」
ということになって、残り1時間はそれをやってたんです。
鱗をつけるのは簡単でしたが顔の部分が難しくて。
最初は女の顔にするはずでしたが、髪がうまくできなかった。
結局は、坊主頭の子どもの顔みたいなものになっちゃったんです。
もう少しで時間ってときに、商工会の人が回ってきたんですが、
俺らが作ってるのを見て、ちょっと驚いた声で、
「あんたら、玉体様作ってるのか?」って聞いたんです。
「何ですか? ぎょくたい様って」俺らが逆に聞き返すと、その人は、
「ああ、知らないならいいんだよ。ここらに古くから言い伝えられてるもんだ」

それ以上何かを言われることはなかったです。
コンテストの出場者は12組だかだったと思いますよ。
テーマは、ドラえもんとかアニメのキャラが多かったですが、
やっぱり高さのあるものは砂が崩れて、作るのは大変そうでした。
2時までで完成させて、その後1時間投票時間があるんです。
海に来たお客さんが投票していく。
で、3時になったら審査員の投票と合わせて結果の発表、表彰って流れで。
まあ、予想通りというか、俺らのは3位にも入りませんでしたよ。
自分らで見ても気味悪いもんでしたしね。ただ、終わった後に、
地元で俳画を書いてるっていう審査員のじいさんが俺らのとこに来て、
「偶然に作ったって話だったが、玉体様に見える」って首を傾げたんです。

「さっきも言われたんですが、玉体様って何ですか」
「ほら、ここは壇ノ浦に近いだろう。そこで8歳で海に沈まれた天皇様がいて、
 ここらではお体、つまり玉体が蛇になったという言い伝えがある。
 小さいところだが、お祀りしている神社もあるんだよ」
こんなことを言われたんです。
「マズかったでしょうか?」
「いや、不敬だみたいなことは思う人は少ないだろうけど、
 玉体様は人を引くとも言われているんだ」 「人を引く?」
「泳いでいるときに足などを引かれて溺れてしまうということだ」
「それに似ているんですか?」
「人の顔をした蛇だって話になっている」

まあでも、そのときはちょっと気味が悪いなくらいにしか思わなかったんです。
その後、仕事に戻って、5時には終わりました。
夏なんで、5時といってもぜんぜん明るいんですよ。
それで自分ら用のかき氷を作って、食いながら浜辺を3人でぶらぶらしてました。
したら滝田が沖のほうを見て、「あれ何だ?」って大きな声を出したんです。
「何だよ?」 「ほらあそこ、でかいものが跳ねただろ」
「え、どこ。イルカとかか?」
そこは沖に船を出してイルカやクジラのウオッチングなんかもやってるんで、
そう思ったんですが、俺には何も見えませんでした。
「いや、長い蛇だ。俺らが作ったのと似てる」
「玉体様か? 冗談はやめろよなー」

俺ともう一人、牛島ってやつがいくら指さす方に目をこらしても、
波しか見えませんでしたよ。
「白・・・透明に近い白い蛇だよ。10m以上あるんじゃないか」
「はいはい、わかったから。もう宿に戻ってプロ野球見ようぜ」
俺らは取り合わずに宿に向かい、滝田もついてきましたが、
たびたび海のほうを振り返ってました。
その夜、発泡酒を何本かずつ飲んで寝たんですが、布団に入ってから、
また滝田がさっきの話を持ち出して、
「さっき言ってた蛇だけど、見間違いかもしれないけど、
 人の顔がついてるように見えたんだよな。あれが玉体様じゃないか」
「わかったから、そういうの怖くないから」こんな感じで寝たんです。

翌朝は2日にいっぺんの仕入れの日で、6時には起きたんです。
氷とかジュース類を仕入れてくるんですが、車の免許を持ってたのが滝田だけで。
ところが布団に滝田の姿が見えない。
外の軽トラのところに行ってもいなかったんですよ。
もしかしたらと思って浜に出て、店のあるほうにも行ってみました。
でもね、テントはたたまれたままで、滝田の姿は見あたらなかったんです。
ああ、それと、前日に作った彫像は展示されたままだったんですが、
俺らの蛇だけが、なぜかめちゃめちゃに壊されてたんです。
足で踏んだ跡とかはなくて、丸太でも転がしたように見えました。
事情を店のオーナー、民宿の家族に話して、仕入れをしてもらいました。
で、滝田はその日から行方不明なんです。

アパートにも、実家にも帰ってなくて、やつの両親と相談して、
2日後に警察に捜索願いを出しました。
地元の警察と漁協の人も出てもらって浜も捜索したんですが、
見つからなかったんです。・・・バイトのほうは最後まで続けました。
後輩に連絡して一人来てもらって。こっちにいるほうがいいと思ったんです。
うーん、滝田がどうなったかはわかりませんが、
バイトが終わる最後の日です。その頃にはクラゲがたくさん出てて、
泳ぐのに適さなくなってましたが、夜に夢を見たんですよ。
海を大きな白い蛇が泳いでいる夢。蛇は波間に見え隠れして、滝田の顔がついてたんです。
朝にそのことを牛島に言ったら、驚いた顔で「俺も同じ夢を見た」って。
こんな話です。滝田はどうなっちゃったんでしょうか。

*諸星大二郎氏の作品『海竜祭の夜』からヒントを得ています。







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