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緑の土の話(下)

2015.04.15 (Wed)
んじゃ続きな。前のことから2年後、俺は中学生になってたけど、
うちの同居してたバアちゃんが死んだんだよ。80いくつだったし、
病気がちだったからいつ死んでもおかしくはなかったんだけど、
春から夏にかけての季節の変わり目に肺炎になって、あっという間だった。
で、悲しかったかと聞かれれば「そうだ」って答えるんだけど、
なんであんなことをしたかっていうと、ちょっと複雑なのよ。
バアちゃんにどうしても生き返ってほしかったとか、
そういうわけではないんだ。それよりも好奇心のほうが強かった。
どうなるんだろうか、っていうね。そう、もうわかっただろう。
前の話の緑の土、あれをバアちゃんに試してみたんだよ。
亡くなって、病院から自宅へ遺体が返ってきた夕方のことだ。

スタミナドリンクの空ビンを持って、あの工場の斜面に行ったんだよ。
相変わらず柵も立ち入り禁止の札も出てたけど、入るのはわけなかった。
斜面は前よりえぐれた形になってて、
土を重機で掘り出して工場で使ってるんだと思った。
緑の土の地層はだいぶ薄くなってたけどまだあった。
前と違って薄暗いときだったんで、ぼうっと嫌な感じの光がそれから滲んでた。
落ちてた木の皮をヘラ代わりにして、ビンの半分ほどまで詰めて、
一目散で帰ってきた。誰かに見とがめられるってことはなかった。
バアちゃんは葬儀社の人に遺体を洗われ、
白い着物を着せられて座敷に寝かされていた。
明日が通夜、明後日が火葬、翌日が葬儀・・・俺らの地域ではこんな順番だ。

枕経をあげに来た坊主が帰るとき、
両親も詰めていた親戚もみなで見送りに出たんで、
その隙にバアちゃんのところに行って、胸の上で合わせられていた
左の二の腕の外側全体から手の甲にかけて、
水につけたテイッシュにその粉をとって塗りつけた。
そしたら思った以上に緑色に染まってしまって、水だけで何度か拭いたんだよ。
そしたら色は薄まったけど完全にはとれなかった。
で、布をかけたバアちゃんの頭を上から見下ろしてたが、何も起きなかった。
体全体も、腕もピクリとも動かない。そうだろうな、って思った。
あの小学生のときのことは、そんときの仲間とは何度か話はしたけど、
やっぱ虫の生命力が強かっただけだろうって。

頭のなくなった虫が飛ぶのはありでも、人間が生き返ったり動いたりするわけはない。
それはそれで納得したんだ。・・・声が聞こえて、
親戚らが中に戻ってきたようなんで、その場を抜け出した。
その後、通夜の日も火葬のときも特に変わったことはなかった。
俺も学校を休んで、火葬に立ち合ったよ。
よくほら、火葬の炉の中で人が生き返ったりするって話も知ってたから、
そのあたりも注意してたけど、炉の中はのぞけないし、
係員の人の様子に変わった様子もなかった。
お骨拾いもやったよ。ぜんぶきれいに白い灰になってて、
焼け残ってるとこはなかった。バアちゃんは死ぬ前、痩せて小さくなてったから、
こんなものだろうって、親戚の人が話をしてた。

うちらのほうでは、骨壺になったところで葬式になるんだ。
葬儀社の会館で、遺影の前にお骨を供えてね。これも特段に変わったこともなく、
バアちゃんは逝ってしまった。
親父が「お前は長男だから、こういう手順をちゃんと覚えててくれよ」
って言ってたのが記憶に残ってるよ。
骨壺は自宅にしばらく安置されてて、その後先祖代々の墓に入った。
・・・まあ、こんな話なんだが、不満だろう?
何かが起きたってわけじゃないからな。まだ続きがあるんだ。
中学の卒業式のちょっと前に、工場の斜面にもう一回行ったんだよ。
高校受験が終わって結果の発表前でね。あんまり出来がよくなかったから、
不安でイライラして、そこら中を自転車で走り回ってたんだ。

俺らのところはあんまり雪が降らないんだよ。
工場の斜面はあたりの草が枯れ、木も葉を落としてて見晴らしがよかった。
柵の外側に自転車を停めて見ると、
あの緑の部分は採りきってしまったのかもうなくなってて、
ただの黄色い土ばかり・・・そこに、何か動くものがあったんだ。
イタチとかの小動物か鳥かと思った。柵を越えて近づいてったら、
這ってたのは、漂白したように白い人の肘から先の腕に見えたんだ。
腕はもろい土を掘り返してはもぐり、また出てきてを繰り返して・・・
それ以上近づく気はなかったからはっきりとはわからないが、
しわだらけの・・・バアちゃんの手じゃないかと思った。
混乱したよ。火葬されて骨になり、墓に入ってるはずだろうって。

そのとき後ろの遠くから声がした。
「何やってんだお前!! ここ工場の土地だぞ!」って怒鳴り声。
あわてて自転車に跳び乗ったんだが、道に出たとき、
向こうから白衣の人が2人走ってくるのが見えたんで、反対側に逃げた。
そいつらは追ってこなかったが、こう口々に怒鳴ったんだ。
「何か見たのか?」 「ここはもう終る。 
お前がやったことはお前に返るんだぞ」って。
どういう意味かそんときはわからなかった。今はわかるけどね。
・・・結局、受験は第一志望で失敗し、滑り止めに入った。
俺が高校の1年のとき、工場が撤去された。その後すぐ両親の葬式を出した。
親父の車が事故って、母親も同時に死んだんだ。

親戚に預けられて、そっからずっとついてない人生が続いてる。
まあ・・・俺の努力不足って言われりゃそれまでだけど。
で、ついてないこと、よくないことが起きる前には、
バアちゃんの腕が来るんだよ。どう来るのかって? それは・・・

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コメント
 便利なお祖母ちゃんハンドに見えますが、語り手さんの口振りからすると「よくないこと」は回避できないんでしょうね。残念。
 しかし今回といい『沼2』といい、謎の組織っぽいものが見え隠れしているわりに、扱いは添え物のようで少し残念です。そちらに話を膨らませるとナンセンス寄りになっちゃうからでしょうか。
| 2015.04.20 00:42 | 編集
コメントありがとうございます
緑の沼は宇宙船が墜落した場所で
国際的な秘密機関が調査してるという設定ではありますが・・・
そっちを膨らませると長くなっちゃうんですよね
メン・イン・ブラックみたいなノリは自分的には好きですが
bigbossman | 2015.04.20 02:17 | 編集
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