うつろ舟小考

2015.04.21 (Tue)
今日も軽い話題で。「うつろ舟」というのは、オカルトフアンには有名ですが、
一般の方でどれだけ知っている人がおられますか。
「うつぼ舟」とも言いますし、漢字にすれば「虚舟」と書くようです。
発端は、『南総里見八犬伝』で知られる江戸後期の作家、
曲亭馬琴が『兎園小説』という本をまとめたことからで、
内容は、江戸の文人や好事家の集まり「兎園会」「耽奇会」で語られた
奇談・怪談(今でいう百物語のようなもの)です。
その中の一つに「うつろ舟の蛮女」の話があり、享保3年(1825年)
茨城県大洗町(北茨城市とも語られる)付近の海岸「はらやどりの」の浜に、
不可思議な舟が漂着したとされます。

『兎園小説』には色つきの挿絵が入っていて、それを見ると、
空飛ぶ円盤のような乗り物(舟)と、その傍らに立つ箱を抱えた異国風の女性、
右上には奇妙な文字のようなものが添えられていますが、
これは舟に記されていたもののようです。下図参照

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この挿絵にはいくつかのバリエーションがあります。
なんともロマンのある話で、「はらやどり」の浜の場所が特定されないこともあり、
UFO説からヨーロッパの女性漂着説、謎の神の伝説、
単なる創作といろいろな説が出されています。
自分としては、これに2つの解釈を付け加えてみたいと思います。

一つは文字についてで、これは同時代の浮世絵に見られる、
「蘭字枠」というものにひじょうによく似ています。
蘭字枠とは、文字通りオランダ語の書かれた浮世絵を囲む枠ということで、
下図のようなものですが、これが入っている作品は、
江戸の馬喰町の版元、江崎屋吉兵衛という人物が出したものです。

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一見アルファベットのようにも思えますが、じつはデタラメで、
実際にこのようなオランダ文字はありません。
絵を見てもわかるとおり、浮世絵版画なのですが、
西洋絵画のように遠近法が強調されていて、
当時にあってはバタ臭いというか、異国情緒を売り物にした作品です。

享保3年(1825年)は、その前年に大津浜事件というのがあり、
(1824年5月28日に水戸藩領の大津(北茨城市大津町)の浜に、
イギリス人12人が上陸し、水戸藩が尋問した後彼らを船に帰した事件)
それを受けて異国船打ち払い令が出された年です。
同じ現在の茨城県の浜で起きた事件というのが興味深いところですが、
そのような幕末の混乱した世相の中で出されたものなのです。
この挿絵にある文字については、蘭字枠から借用していると思われます。

さて、この手の話は実は古くから各地で言い伝えられていました。
例えば、こういうものがあります。
『千葉県安房郡和田町(現南房総市)花園の伝説。
「子の神由来記」と呼ばれる掛け軸に記されているそうです。
花園天皇(即位1308年)の時代に、
一人の姫がうつろ舟に乗ってこの地に漂着しましたが、村人達の介護もむなしく、
姫は亡くなりました。姫の墓には、姫が大切に持ってきた一本の花木(ハマボウの花)
を植え、村人達は、それを花園の花の木と名付けて庭に植えて伝えてきました。
また村の名も、西条村から花園村に変わりました。』


この話が花園天皇にさかのぼる古い時代のものかはわかりませんが、
馬琴の『兎園小説』より古いのは確かでしょう。
ここでは、乗ってきた姫は村人の介護にもかかわらず亡くなりましたが、
姫を発見したものの、対処のしかたがわからず、
また元の舟に乗せて海に流してしまったという結末の話も多いようです。
さてさて、自分の解釈の二つ目です。
あまり話題としてふれられることはないのですが、
この蛮女の大事そうに抱えている箱に入っているものはいったい何でしょうか。
自分は「男の首」、と想像します。

なぜそう思うかというと、中国の古民話にこのようなものがあるからです。
『あるところに金持ちの権力者の男がいたが、
大事にしていた娘が未婚のうちに妊娠しているのが発覚した。
娘を問い詰めると、相手は信心している寺の若い僧侶ということであった。
怒った男は、僧侶を捕まえて首を斬った。
また、いったん入ると出ることのできない舟を作り、その中に自分の娘を閉じ込め、
箱に収めた僧の首とわずかな食料を入れて密閉し、川へ流した』


どうでしょう、この中国古典については、
博覧強記の馬琴らも知っていたのではないかという気がします。
幕末という混乱した世相にあって、エキゾチックな西洋と、
古来から影響を受けていた中国古譚のぶつかったところから、
出現した話なのではないでしょうか。
ただ、この中国の話、いろいろと検索したんですが出典が見つからない。
どなたかご存知であればご教示いただけたら幸いです。






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