目なしさん

2015.04.24 (Fri)
最初はどうして卒業して15年もたってから、
あんな手紙が来たのか不思議だったんですが、じつは、
私の通ってた小学校が去年の暮れから建て替え工事に入ってるそうなんです。
そのことと関係があるのかどうか・・・ 最初からお話します。
私は結婚して、その小学校のある県とはずっと離れた場所に住んでるんです。
先日、郵便受けに封書が入ってたんですが、
それが一目見て普通の郵便ではないことがわかりました。
形がいびつで、印刷用紙を手で折って手作りしたもののようでした。
宛名は主人ではなく私の名前で、うちの住所は書いてなかったんです。
つまり、郵便局を経て配達されたものではないということです。
裏面には差出人の名前はありませんでした。

これは誰かが直接うちのポストに投函したとしか考えられないですよね。
切手も貼ってませんでしたし。
私は主婦で外での仕事はありませんので、気になってましたが、
家の掃除が終わった10時ころに他の郵便物とともに開けてみたんです。
そしたら、中には一枚の黄ばんだ紙が折りたたまれて入っていました。
広げてみて、とても驚いたんです。
それは小学校6年のときの学級文集の1ページで、
ちょうど私の将来の夢の作文が載っている部分でした。
すごく懐かしい気がした反面、なぜ今頃になってこんなものが、
という疑問を当然のように持ちました。これは学校全体で作った文集ではなく、
私の6年の担任の先生が、卒業の記念としてまとめてくださったものなんです。

つまりこれを持っているのは、当時のクラスメート30数人と、
あとはその担任の先生くらいのはずです。
自分の作文は、もうすっかり内容は忘れていたんですが、
読んでみると、将来はファッションデザイナーになってパリに住むという、
いかのも子供らしい夢のある内容でした。
実際には平凡な主婦になったわけですが、それはそれで幸せを感じています。
「なぜこんなものが」といぶかしみながら裏を見ると、
そこは、名前も覚えていない男の子の作文になっていたんですが、
余白の上のところに、たぶん赤いクレヨンだと思いますが「わたしの目を返して」
と、なんとか読み取れるたどたどしい幼児のような字で書かれてあったんです。
なぜそんなものが今になって来たのか、わけがわかりませんでした。

ただ、その字を見たときに強い胸騒ぎを感じました。
それで、普段は開けることのない衣装ダンスの引き出しにしまったんです。
その夜、夢を見ました。私は夢の中で小学生に戻っていたんだと思います。
自分の手も小さかったし、視線の位置から考えて背丈も低くなっていました。
いた場所は私が卒業した小学校のトイレの中です。そこの校舎は、
私の代にはすでに古びていて、トイレは水洗でしたがぜんぶ和式でした。
私はその個室にいて、必死になって戸の鍵の部分を手で押さえていたんです。
ええ、鍵はかかっていたと思うんですが、
戸の外にすごく怖いものがいるのがわかったんです。
そのものが声を出しました。女の子の声でしたが、
キンキンした金属の響きを持っていました。

「わたしの目を返して。わたしの目を返して・・・わたしの目を・・・」
その声を聞いているうちに、外にいるものの姿が頭の中に浮かんできたんです。
髪の長い小柄な女の子・・・その子には両目がありません。
目を閉じているとか、ケガをしているとかそういうことじゃないんです。
最初から目のある位置にはなんにもない・・・鼻や口は普通なんですが、
目のあるはずの部分がのっぺりと皮膚に覆われた異様な顔。
「目なしさん」だ、と思いました。トイレの戸が強い力で引っ張られ、
ちょうつがいの部分ががくんと下に下がり、すき間ができました。
そこから細い白い指が入ってきて・・・
そこで目が覚めました。主人に肩をゆすられていたんです。
「どうしたの? ずいぶんうなされてたけど、怖い夢でも見た?」

主人の優しい声でだいぶ落ち着いたんですが、そのときには、
ずっと忘れていた目なしさんのことを思い出していたんです。
ほら、学校の怖い話ってありますでしょう。トイレの花子さんとか。
私の学校のトイレには目なしさんという女の子が住んでいることになってたんです。
でも、トイレの花子さんなんかは、子どもの間で代々言い伝えられてきた話ですよね。
ところが目なしさんはそうじゃないんです。
あの6年生の1年間で、私ともう一人の子とで創作したものなんです。
どういうことかというと、
当時「学校の怪談」という映画の何作目かが流行ってたんですが、
私たちの学校にはそういう話がまったくなかったのが不満で、
友達のSさんが目なしさんのアイデアを出し、私がそれを元に絵を描いたんです。

昔からマンガは好きでしたから。そして2人で話を作って学校中に広めました。
「目なしさんは生まれつき両目のないかわいそうな子だった。
 両親は不憫に思って、その子を学校にやらなかったが、
 目なしさんはみんなと同じく学校に行きたいと思っていた。それである日、
 一人でつえをついて学校に来たものの、見た人に怖がれ騒がれてトイレに逃げ込んだ。
 それ以来ずっとトイレに住みついている」
こんな他愛のない話だったんです。でも、下級生なんかはすごく怖がって、
一時期は先生方が噂を消そうとして全校集会まで開いたくらいなんです。
私とSさんは怒られるかもと思ってましたが、
私たちが出どころだというのはばれなかったんです。
その後、卒業してから噂がどうなったのかは気に留めていませんでした。

でも、その手紙が目なしさんから来たとは思いませんでした。
そんなことが現実にあるわけはないですよね。
だから、小学校の同級生の誰かのイタズラなんだろうと考えたんですが、
それにしてもなぜ今頃・・・それに、家のポストに直接投函したにしても、
私は実家からずっと離れたところに住んでるのに、わざわざそこまでして・・・
とにかく気になったので、翌日、実家に電話をかけ、
ずっと疎遠だったSさんのことを尋ねたんです。
そのときに母から、小学校が建て替えにかかっているということを聞きました。
それと、Sさんは地元で結婚していて、
母が連絡先は調べられると言ったので、教えてもらいました。
それで電話をかけてみたんです。

声ですぐに、出たのがSさんだということはわかりました。
私が自分の名前を言うと、Sさんが息を飲む音が聞こえました。
それで、あいさつもそこそこに手紙のことを話そうとしたんですが、
Sさんは「わかってる。目なしさんから手紙が来たんでしょう」こう言いました。
そこで長い沈黙があってから、Sさんは続けて、
「私、結婚してて先月子供が生まれたの。・・・女の子だった。
 検査ではなんでもなかったのに、出産してみると片ほうの目がなかったの」
こう言ってまた沈黙、そして電話は切れてしまったんです。
かけ直す気にはなれませんでした。じつは私、今、妊娠7か月目なんです。
検査ではなんの心配もなく成長しているとのことです。
・・・あの手紙はSさんから来たものなのでしょうか。それとも・・・







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コメント
 なぜ「生まれつき両目のない設定」なのに「返して」なんだろう? と思いましたが、そういう「設定」にした(=両目を奪った)のは語り手さんとSさん、ということですね。
 恐らく今の母校で聞いても、誰も「目なしさん」を知らないような気がします。彼女たちだけにとって存在する怪異。彼女たちから目を取り返すためだけに存在する怪異・・・
| 2015.04.27 23:08 | 編集
コメントありがとうございます
怪異があるとすれば
おそらく自分たちが作り出したものでしょうが
もしかしたら怪異はなくSさんの悪意だけがあるのかもしれません
bigbossman | 2015.04.28 20:11 | 編集
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