FC2ブログ

絡まる

2015.05.06 (Wed)
今晩は。ええと、私は神道系の学校に通ってまして、今、4年生です。
神道系の学校と言っても、神社に務めたり巫女さんになるわけではないですけど。
この間、卒業実習の1回目があったんです。そのときのことをお話します。
ええ、本当は秘密なんですが、教官の先生がこちらの会のことをご存じで、
あった出来事を話すことによって、追体験により感覚が体に刻まれるから、
ぜひ行って話して来いと言われまして。
そういうわけですので、よろしくお願いします。
私の同期生は女子だけ25人ほどです。ずいぶん少ないとお思いでしょうが、
大きな校舎や施設があるわけではありません。
あるビルの1階を借りて勉強しているんです。
その25人が4つの班に分けられまして、私の班は7人でした。

各地の山に派遣されたんです。私が行ったのは四国地方でした。
ええ、わりと近くに遍路の御札所はありますが、
特に宗教的な場所ということではなかったです。
800mほどの、山地の突端にある山でした。その山すそにテントを張りました。
女性の教官の先生の分も含めて4人用を3つ。班の7人が協力して達成する課題は、
この山でときおり目撃される「もつれたもの」を祓うことでした。
ええ、それは時折、ふもとの農家などで目撃されてたんです。
獣のような、人のようなものです。畑を荒らしたりするんじゃなく、
物陰から学校に通う子供たちを見ていたり、留守の家に忍び込んで、
お菓子などを盗っていく被害があったそうです。地元の神社の神主さんから、
私たちの大学のほうに連絡がありまして、それでそこへ行ったわけです。

現地へは午後早くに着きました。テントの設営が終わって、
先生に「とりあえず寝る」ように言われました。
実習は夜に行われるんです。おそらく朝方までかかるだろうとのことでした。
そのための昼寝です・・・食事はなしです。
3日前から食を減らして、精進潔斎していたんです。
緊張で眠れませんでしたが、7時すぎには起き、
トレーニングウエアから装束に着替えました。
そして7人が集まったところで、呪具を渡されました。
神鈴と、榊の枝、そして見えない糸、それと松明です。
見えない糸を使用するのは初めてのことでした。
その後、あらかじめ調べてあったその山の登山路が3本ありましたので、

7人が2人組、3人組に分かれて時刻を合わせ、3箇所から同時に登って行くんです。
この間、何があっても口をきいてはならないことになっていました。
私は2人組で、パートナーの人と、西口という登山路に歩きで移動し、
9時を待って登り始めました。ええ、同じ時刻にいっせいに登り始めているはずです。
神鈴と榊の枝は腰帯につけ、片手に松明、片手には見えない糸を捧げ持つんです。
パートナーの人も同じ姿勢でした。登山道ははじめのうちは石段になっていて、
2人並んで登っていくことができました。
ほとんど使われていないようですが、いちおうハイキングコースになっているらしく、
また頂上には電波塔もあるということで、傾斜は急ではありませんでした。
真の闇が降りていましたが、松明は思いのほか明るく、
足元が危険という感じはしなかったです。

無言のまま、同じペースを保って登っていきました。私もパートナーの人も、
体は鍛えているんですが、息遣いが少しずつ荒くなってきました。
左手で捧げる見えない糸には、何も感じるものはありません。
この糸は目に見えないのですが、霊的にあるものです。どこまでも長く伸び、
他の組の人たちとつながって、その山を取り巻いているんです。
トポロジーの原理というのを使用しているのだそうですが、
私にはよくわかりません。やがて、登山路の石段が途切れ、
腐葉土の積もった土の道に変わりました。
しばらく天気がよく、濡れていなかったのが幸いでした。道幅が狭くなり、
左右の藪の枝がぴしぴしと装束にあたるのがわかりました。
40分ほど登り、山の中腹を過ぎました。

ぱっかりと藪が切れ、平地のようなところに出ました。山腹に造成した
広場のようなところです。そのとき、腰につけた神鈴がリンと鳴りました。
同時に、手の中にある見えない糸に何かがかかる手ごたえがありました。
左の方角、パートナーの人のいるほうです。
もちろんパートナーも気づいていて、鋭い動きで首を回しました。
手の中の糸に負の感情が伝わってきました・・・「帰りたい、痛い、苦しい!」
左手にはずらりと高い木が並び、その向こうは崖と思われましたが、
木の間から黒いものがすごい勢いで飛び出してきました。
四本足で走る獣のようでしたが、松明の明かりで、
その背中にも手足があるのがわかりました。パートナーが息を飲み、
見えない糸を持った右手を顔のあたりまで上げました。

黒い獣は数m手前まで来て立ち止まりました。
1mほどのイノシシのように見えましたが、体はかなり朽ちて、
毛皮の間から骨がのぞいて見えました。そしてその背中に白い人間の
顔がありました。そちらのほうはイノシシよりも原型をとどめていて、
男の子のように見えました。イノシシの背中に上向きに負ぶさるように、
体が上を向き、細い手足が天に向かって突き出されていました。
獣はこちらを見て唸り声をあげました。私はパートナーに目で合図をして、
松明を地面に置き、腰から榊の枝を抜きました。
パートナーも松明を捨てて、両手で見えない糸を捧げました。
トントンと獣は数m後ろに跳び下がり、それから全速で私たちに向かってきました。
私たちは体を沈め、私は頭上に榊の枝をさし出しました。

ピシッと、枝に何かがあたる手ごたえがありました。このあたり、
恥ずかしい話ですが目をつむってしまっていたので、よくわからないんです。
獣の叫び声に交じって「おかあさん」という男の子の声が聞こえた気がしました。
目を開けると、パートナーが手を細かく動かし、下に落ちた獣の背中に
突き出した男の子の足に、見えない糸を絡めようとしていました。
獣は素早く起き上がり、後ろを向いて山頂方向に駆け出しました。
パートナーのほうを見ると、深く大きくうなづき、
私にも手ごたえで糸が絡んだのがわかりました。松明を広い、
半ば走るようにして山頂を目指しました。
私たちのではない、リンリンという神鈴の音がかすかに聞こえ始め、
仲間たちが他の登山路から集まってきているんだとわかりました。

やがてまた視界が開け、鉄塔が見えてきました。「怪我してない?
 よくやったね、絡んでるよ。こっち」教官の先生の声が聞こえました。
鉄塔の下のコンクリに先生が立っていて、反対側の斜面を指さしておられました。
山頂へは私たちの組が一番乗りのようでしたが、数分して、
他の組の人の顔が見えてきました。全員がそろうと、
私たちは片手で見えない糸を捧げたまま、その斜面に向けて半円を作りました。
「ここは道じゃないから、あなたたちは降りられないでしょう。
 私が行ってくる」先生がそうおっしゃって、藪に入って行いかれました。
先生は登山装備で、ヘッドライトをつけてたんです。
しばらくして、先生が戻ってこられました。「全部は回収できなかったけど」
そう言って胸ポケットから白いものを出されました。

「男の子の骨・・・20mほど下のくぼみで獣の骨と混じってたわね」
先生の言葉に「イノシシだと思います」と私が答えました。
「見えたのね、すごいじゃない。糸を絡めたのは?」と先生が聞かれ、
パートナーがやや誇らしそうな顔で手をあげました。
「あなたたちはたぶん合格でしょうね。他の人たちは運が悪かったみたい。
 また次の研修があるんじゃないかな」先生がおっしゃいました。
「男の子はどうなるんですか」誰かが聞き、
「糸が絡んでいるからもう動けない。後で本格的な祈祷をしますので、
 それは心配ないです」
・・・こんな感じで、私の山での実習は終わったんですが、
まだもう一回あるんです。ええ、今度は都会の夜の街でです。


 



関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/758-1c51f65b
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する