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位牌車

2015.05.15 (Fri)
先月、妻の実家の墓参りに行ったときの話だよ。
俺の実家のほうは、毎年お盆に行くことにしてて、
妻のほうは、妻の母親の命日に行くことが多いんだよ。それが4月。
ずっと工事がストップしてた自動車専用道がやっと開通してね。
妻の実家の墓所までは、今までは国道を通って2時間以上かかってたのが、
その道を使えば1時間ちょっとで済むはずだった。
だからね、ドライブがてらってのもあった。
平日だよ。会社のほうは年休をもらったんだ。
道は空いてたよ。ガラガラって感じ。
まあ今まで、採算が取れないだろうって理由で、工事が中断してたわけだから。
いや、これまでにおかしなことはなかったよ。

今までの国道とは逆方向から行くんだよ。
できたばかりの新しい道だから、まだナビにのってなくてね。
インターを降りてからちょっと道に迷ってしまった。
俺が案内標識を見落としただけなんだけど。
だんだん道がせまくなって、山の中に入ってって、
さすがにこれは違うだろうって気がついて、引き返そうとしたとき、
助手席の妻が、「あ、ちょっとアレ、変じゃない?」って声を上げた。
視線のほうを見ると、山へと入っていく無舗装の小道に、
黒い車が入りかけて停まってるのが見えた。
「何が変なんだよ?」 「今の車、横から見たとき、ドアにガムテープ貼ってた。
 それに窓ガラスを段ボールで塞いでたよ」

「えー、普通じゃないな」 「時間あるし、戻って様子見たほうがいいんじゃない」
ということで、Uターンできるとこを見つけて戻ってみた。
したら妻の言うように、おかしいんだよ。
後ろのほうは黒いスモークで、フロントガラスと運転席、助手席は、
内側から段ボールで塞いで中が見えないようにして、
それにドアのところは外からガムテープを張りつけてあった。
「煉炭か排ガス自殺?」声には出さなかったが、俺も妻も同じことを考えたと思う。
俺は「携帯出して警察に連絡できるようにしとけ」そう言って、
車を路脇に停め、一人で降りて歩いて近づいてった。
車は、ベンツのやや古い型のやつで、かなりの大型セダン。
右後ろにぶつけてへこんだ跡があった。

窓は全部閉まってたし聞こえないとは思ったが、いちおう、
「誰かいますか」そう声をかけてから、運転席の窓をこぶしで叩いてみた。
反応はなし。段ボールはぴったり窓の形に切ったらしく、すき間はない。
で、後ろの窓の濃いスモークガラスに顔をくっつけるようにして、
中をのぞいてみたんだ。後部座席に人はいないようだった。
前席のドアノブに手をかけると、鍵がかかってないようだったんで、
思い切って開けた。したら革シートにほこりがつもってて、誰も乗ってなかった。
「何かの事情で放置されてるんだろう。警察に連絡することはないな」
そう思って閉めようとしたとき、シートのすき間から、
後部座席の真ん中に、かなり大きめの位牌がぽつんと立ってるのが目に入った。
「うわ」って思った。禍々しい感じがして、すぐドアを閉めた。

車に戻って妻に、「誰も乗ってなかった。事件とかじゃないだろう」
わざわざ気味悪がらせることはないと思って、位牌のことは言わなかったんだ。
やがて引き返して道を見つけた。妻の実家の墓所までは10分ほどだった。
山の中腹に墓が数十ほど固まってある田舎の墓地でね。
これも、盆でも彼岸でもないから誰もいなくて、
墓の周りを掃除してからお供えをあげてお参りした。
そんときにね、どうやってもロウソクに火をつけて立てられなかったんだよ。
風はほとんどないのに、ロウソク立てにさすと消えてしまう。
そのままチャッカマンで火をつけようとしても、絶対につかなかったんだ。
ロウソクの芯が湿ってたとは思えないんだよな。新しく買ったのだったし。
何回試してもダメで、線香には火がついたんでそのままお参りをした。

その帰り道、出発したのが3時過ぎだったから、
4時半前には家に戻れるはずだった。夕食にはまだ早いんで、
向こうについたら買い物をして帰ろうってことになった。
で、新しい道を折り返したんだよ。
料金所を入って10分ほど走ると、空が急に暗くなって雨が降ってきた。
そんな大降りではなかったけど、とにかく暗いんで、
ライトをつけて運転した。道路には対向車がぽつんぽつんと来るくらいで、
俺の進行方向には他の車は見えなかった。スピードはけっこう出してたよ。
30分ほど走ったとき、妻が、
後部座席に置いてあったバッグをとろうとして大声をあげた。
「えーっ、なにこれ?」 「ん、どうした」

「・・・位牌、位牌が置いてある」 「んなバカな」
ルームミラーからは見えなかったんで、少しスピードを落として見たら、
確かに妻のいうとおり、後部座席の真ん中に、
もたれかけるようにして位牌がある。
さっきベンツの中で見たのと同じものであるような気がした。
背中がぞっとしたよ。「何でこんなものがあるのよ」
「墓地の駐車場で、俺らが車停めてたときに誰かが入れたとかか」
「ロックしたでしょ。それに私たち以外誰もいなかったはずよ」
こんなことを言い合ってたら、後ろから車が迫ってきたのがミラーに映った。
「えっ!?」とにかく信じられないスピードだったんだよ。
俺のアテンザは100km以上出してたのに、あっという間に間隔が詰まってきた。

逃げ場がないんでスピードを上げたが、ぴったり後ろにつかれた。
さっき山の中で見たベンツだった。
しかもだよ。ありえないことに、窓が段ボールでふさがれたままなんだ。
だから中に人がいたとしても、
まったく前が見えないまま運転してるってことになる。
俺は半分パニックを起こして、アクセルをベタ踏みした。
スピードは150kmを超えて、たぶんリミッターに近かったと思う。
それなのに後ろのベンツはますます迫ってきて・・・
追突された、と思ったが何の衝撃もない。
ただ・・・何かが俺らの車に重なって、そのまま通り過ぎていった感じがした。
何と言えばわかってもらえるかな。

生臭い風がさーっと通り過ぎていったような感じか。
違うけど、それくらいしか例えようがないな。
とにかく衝撃はなくても、背中がぞくぞくっとした。
後で聞いたら、妻も同じように感じたってことだった。
とにかく後ろについていたベンツは消え、もちろん前にもいない。
異常なスピードが出てたんで、あわててアクセルから足を離した。
20分ほど俺も妻も無言のままで、PAに入った。
後部座席の位牌はなくなっていたが、
シートの背もたれに位牌の形に跡がついてた。
うっすらと焦げたような感じで、どうにもならない。その後は何もないが、
妻とは相談して、シートを張り替えるかそのまま全部交換するにしたよ。






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