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空中歩廊

2015.05.23 (Sat)
ペデストリアン・デッキって知ってますか。ええ、日本語だと、
歩行者回廊とか空中歩廊って言うやつですね。
自分は関東某市で、業界誌の会社に勤めてるんです。
駅前です。そこは駅ができたときから都市計画で、
駅周辺の通りずっとにペデストリアン・デッキを回したんです。
ビルの2階、場合によっては3階の高さに歩道橋のような橋をくっつけて、
地上に降りずに、歩いて街を行き来できるようにしたやつです。
道路も何か所かで横断しています。
ほら、よく三層構造の街って聞くじゃないですか。
この空中歩廊と、地上、それに地下街で三層ってことで。
あの上で怖い目にあったんです。その話をしますよ。

自分の会社というのは駅前のビルにあるんですが、
もちろん業界誌ですから、たいした商売をしてるわけじゃありません。
親業界にくっついたノミみたいにね、チュウチュウ血を吸って生きてるんです。
だからガラが悪いというか、「よく書いてほしかったら金よこせ」ってばかりに、
堂々と袖の下を要求する先輩もいるんです。
はい、自分は新人です。もちろん転職ですけど、
その会社にはこの4月に入社したばっかなんですよ。
でも、2ケ月たたないのにかなりブラックなとこだってわかりました。
ああ、すみません。本題に戻ります。そのペデストリアン・デッキなんですが、
貸しビルの2階に入ってる、うちの会社のエレベーターホール横にも、
それに続く入り口があるんです。

強化ガラスの壁に金属のドアがついてるんですが、
いつも鍵がかかってましてね。そのうえ、
使用禁止って書いた札がノブにかかってたんです。
最初は、何か危険なことがあって使われないんだろうくらいに思ってたんですが、
ガラス越しに見るかぎりはどこも壊れてないようでした。
もしね、そこ通れればすごく便利なんですよ。
道を渡って向かいのビルの前をにいき、そこで大きな歩廊に合流して、
駅まで信号待ちなしで行けるんです。ね、どうして使わないのか不思議でしょ。
それで4月うちに、ペア組まさせてもらってた先輩に質問したんです。
会社ビルの入り口前でしたけど、俺の言い出した内容を聞いて、
その先輩は顔をしかめ「その話やめや、 あとで機会があったら教えてやるから」

こう手を振ってさえぎったんです。
「とにかく、うちの会社にいたかったらあそこ近づいたらいかん。 
 あんま見るのもダメだから。ええか」こんな調子でした。
でね、そう言われるとかえって気になるでしょ、どうしても。
会社の外に出たときとか、ちらちら見てたんですけど、
もちろんそこ通る人はだれもいないんです。会社側からはどこへも通じてないんで、
こっち側のドアが常時閉まってるなら人が来ないのは当然ですけど。
でね、こないだ地震があったでしょ。自分らの地方は震度4強で、
かなり揺れたんです。会社の中にいましたけど、大型の書類書類棚が倒れちゃってね。
まあ元々安定が悪い感じがしてたんですけど。
書類が散乱して、積み上げてたいろんな物も落ちてきた。

それの後片付けをやらされたんですが、
そんときに書類棚の上にあった、金属の某テーマパークの菓子箱も落ちて、
中に入ってた金属類が散乱したんです。
壁掛けフックとか、カーテンの金具みたいなやつですが、
それを元に戻してたとき、鍵束を見つけたんです。
どうやらね、このビルの会社のある階のマスターキーみたいでした。
ほら巡回する人が持ち歩くようなやつ。
箱に入れて上にのせ直したんですが、何かのときに使えるなって思ったんです。
で、今月のゴールデンウイーク明けです。一人で残業してたんです。
それが、先輩のミスを自分が押し付けられた形で、
かなりむしゃくしゃしてました。やっと終わったのが11時過ぎですか。

ええ、業界誌ですから、編集部は徹夜の仕事の日もありますけど、
それは月に何日かの話で、あとはほとんどの社員が営業職だから、
ビルのその階には俺しか残ってなかったですよ。
でね、どうせ遅くなったついで、誰もいないんだし、
この間見つけた鍵を使って歩廊に続くドアを開けてみようと思ったんです。
そっと開けて、そのまま閉めれば、誰にもわかんないでしょ。
俺が鍵持ってることは知らないんだから。え? 怖くなかったかって。
まさかですよ。11時過ぎとはいえ駅前ですからね。
下の道路をたくさん車が走ってるし、歩行者の姿も見える。
ちょうどその高さはネオンサインがいっぱいで、まぶしいくらいですよ。
でね、鍵束を出して、ドアの前まで行ってみたんです。

そこを通って帰るつもりはなかったです。1階の警備員に報告しなくちゃならないんで。
ただ開けて出てみるだけ。エレベーター前のホールに出て、
ドアノブの使用禁止札を外しました。マスターキーを差し込んだら・・・
回ったんですが、ドアを押しても開かない。何度か強く前後させたら、少し開きましたが、
ドアと横の壁の間に何かがはさまってたんです。しばらくギコギコやってると、
ばっと急に外に開いて、湿った紙クズがぱらぱら落ちてきました。
かなりの数です。その一つを拾って広げ、何かわかったときにはギョッとしました。
神社の御札だったんです。それと、しまったなあとも思いました。
ええ、元に戻せるかどうか自信がなかったんです。
とにかく拾い集めて、ソファの上にまとめて置きました。
それから外に出てみたんです。日中は暑いくらいでしたが、外はひんやりしてました。

高さがあるからなんでしょうね。真ん中へんまで行って、胸の高さの手すりから、
下を覗き込んでみました。一般の歩道橋より少し高いくらいですか。
見てる間にもたくさん車が通って。で、向こうのビルまで行って戻ろうとふり向いたら、
歩廊の上に女の人が立ってたんです。ぎょっとしました。
その人は髪が長く、冬用と思われるコートを着てましたね。ありえないでしょ。
自分が出た後に会社のビルの出口から来たとしか考えらえないけど、
それもちょっと・・・ でもね、そんときも幽霊とか思わなかったんですよ。
元来信じてなかったんです、そんなの。・・・今は違いますけど。
でね、近づいてってこう聞いたんです。「うちのビルから来たんですか」
でも、その女は自分を見ようともせず、ずっと向こうで道路を横断してる歩廊を指さし、
「あそこから来たんです」って言いました。

「あのあたりのビルですか」よくわからなかったんで、聞き直したら、
「いえ、あのデッキから飛び降りたんです・・・道路に。
 ドアを開けてくれたんでしょ。よかった」こう言ってこっちを見た。
そんときにね、それまで普通に見えてた女の、
いつのまにか頭から肩にかけてぐっしょり黒く濡れて、髪はぐしゃぐしゃ。
それだけじゃなく、頭の片側がぼこっと陥没してたんです。
「わー」自分は飛び下がって叫んでしまいました。女はもうこっちには目もくれず、
スーッと滑るような動きで、自分の会社のビルに入っていったんです。
自分は・・・反対方向に歩廊を走って、かなり離れたところで下に降りました。
それから道路を通って会社の前まで行き、警備のおっさんに事情を話して、
いっしょに2階まで来てもらったんです。

いえ、まったく人影はありませんでしたし、物の配置が変わったり、
なくなったりした様子はなかったです、ただね、その警備員のおっさんは、
俺が歩廊へのドアを開けたことを知って「あんた、もう遅いかもしんないけど、
 その御札を元に戻して、知らないふりしてなくちゃダメだよ。
 それがあんたのためだね。今起きたことは誰にも言わんほうがいい。
 俺もなんもなかったことにしとくから」こう言ったんです。
で、そそくさと戻ろうとするのを引きとめて、
御札を元に戻すのを待ってもらったんです。
歩廊へのドアの鍵をかけ、社内を点検して戸締り消灯して、ビルの外に出ました。
でね、下の道路から会社のビルに続く歩廊をを見上げたとき、
強化ガラスの向こうに、人影が見えた気がしました。

それから・・・うちの業界誌の編集長が自殺しました。
まだ30代に入ったばかりで、やり手って評判の高い人だったんですが。
昨日のことです。ちょうど雑誌の校了をしてたところで、
社内はもうてんやわんや、大混乱ですよ。
あの女の幽霊が指さしてたあたりの歩廊からの飛び降りです。
「ちょっと食料を仕入れてくる」って夜中に出てって・・・もちろん下の玄関からです。
どっかで歩廊に登ったんでしょうねえ。
飛び降りは、ちょうど大型トラックが来たところをねらったのかもしれません。
大きく跳ね飛ばされ、後続車に次々轢かれて、
死体は原形をとどめてなかったそうですよ。
これで終ります。

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