キャハハハ

2015.06.03 (Wed)
去年の8月のことですね。すごく暑かったでしょう。
わたしは賃貸のワンルームマンションに一人暮らししてるんですけど、
あまりに暑いので外に涼みに出たんですよ。
もちろんエアコンはありますが、来客時しか使わないんですよ。
政府の節電政策に協力して、と言いたいところですけど、
この年ですからね、冷風にあたると節々が痛むんです。
ええ、熱中症には気をつけてますよ。水分をきらすことのないようにしてます。
それで、そのとき涼みに出たのは10時を回ったあたりでしたね。
行った先はマンションの裏手の小高くなったところにある神社です。
なんでも平安時代にはすでに記録があるという由緒あるところなんですが、
そのわりに知られてないし、参拝客も多くはありません。

そのときも人の姿はまったくなしです。
そこは、実はわたしの朝のウォーキングコースでして、
ほぼ毎日通ってるんですが、夜に行ったのは初めてでした。いやいや、
怖いなんてそんな。この年で幽霊がどうのこうのと言ってもしょうがないでしょう。
70年以上生きてきまして、幽霊に悪さをされたことはありません。
人を害するのは生きた人間ですよ。
で、下の鳥居をくぐると、ゆるーい上り坂になってるんです。
石段じゃなく、アスファルトの道です。
外灯がいくつかありまして、足元が危ないということはありません。
朝のウォーキングは6時前ですから、まだ外灯がついてる時間です。
そうですね、外もまあ室内よりはましというだけで、暑いは暑かったですよ。

あと森が残っているせいかヤブ蚊がいましてね。
トレーニングウエアの上から何箇所か刺されてしまいました。
夜の神社に御参りしてお賽銭をあげ、
100mほどの坂を半分ほど降りてきたところでです。
背後から「キャハハハハ」という笑い声が聞こえてきました。
女の子の声のようでした。「こんな時間に」と思ってふり向くと、
ヘルメットの下から長い髪をたらした、Tシャツ、短パンに、
ひじとひざに当てものをした10歳くらいの女の子が滑り降りてきたんです。
あの何というんでしたか、スケートボード?
そうそう、それに乗ってました。驚いているわたしの横まできて、
その子は乗り物から飛び降りると、ぽんとそれを足で蹴り上げて両手で持ちました。

それで、こっちを見てにこにこ笑ってるんです。
こんな夜なのに、あまりにも警戒感がなかったので、近くに親が来てるんだろうと思い、
「おとうさん、おかあさんはどこ?」と声をかけました。
そしたらその子は「いないよ、300年くらい前に死んだかな」って答えたんです。
わたしはまだ、ふざけてるんだろうと思って、
「見ず知らずの人と話をしては危ないこともあるから、
 はやくご両親のところへもどりなさい」自分から声をかけたにもかかわらず、
こう言ったんです。そしたら、
「私、幽霊だから平気だよ。あれ、でも・・・神様なのかな、あれ、どっちかな。
 ちょうど神様と幽霊の中間くらいなのかな。まだ300年だし」
こんなことを答えました。

いや、おかしな子だなあと思いましたよ。
見た目よりずっと口調は大人びてましたが、幽霊だと思うわけがありません。
えー、何でしたっけ、スケートボード? に乗って、
ヘルメットの間から金色まじりの髪の毛を垂らしてる幽霊なんて、
いるわけがないと考えるじゃないですか、普通。
「はは、神様はいるだろうけど、幽霊はいないよ」わたしがそう言うと、
その子は少し考え込んだような顔つきをしていましたが、
「じゃあ、これなら幽霊だとわかるかな」と言って、
手に持っていた乗り物をこっちに突き出して見せたんです。
そしたら、ふっと乗り物が消えて、それが手毬に変わっていたんですよ。
「ええ?」と顔をあげると、女の子の姿もね、変化してたんです。

赤地の和服、おかっぱの黒髪型になってました。
でもね、顔立ちは前のヘルメットの子と同じだったんです。
女の子は、すっと沈んだ表情をしてみせてから、また笑顔に戻り、
「ずーっと、ずーっとね、250年以上この恰好でいたんだよ。
 でも、毬つきなんてつまんないでしょ。ここの神社の社務所にテレビが入って、
 それを見てて、こっちのほうが面白そうだと思ったから。変えてもらったんだ。
 本物の神様のお許しが出たときだけ遊んでるんだよ」そう言うと、
また、リモコンでテレビのチャンネルを変えたみたいにして、
さっきのヘルメット姿に戻ったんですよ。そして乗り物を下に落とすと、
それに飛び乗って「キャハハハハハ」と笑いながら坂を滑り降り、
かなりスピードに乗ったところで、ぱっと消えてしまいました。

嘘だと思うでしょう。まあね、こうして話していても信じられませんからね。
坂を下りる途中、わきの藪の中なんかも探したんですよ。
でも姿はなかったですし、ご両親がいるかと思って、
もう一度社殿まで引き返してもみたんですが、そこにも人影はなし。
涼みにきたのに汗だくになってしまいましたよ。
キツネにつままれたというのは、あのときの感じを言うんでしょうねえ。
でも、そこはお稲荷さんでもないですし。・・・怖くはないですが不思議な話でしょう。
むろん、朝のウォーキングはやめませんでしたよ。早朝の社殿にお参りをしていると、
そうですね、1ケ月に一度くらい、キャハハハという笑い声が、
木の間から聞こえる気がするんです。姿は見てませんけど。どんな事情かわかりませんが、
早く神様になれるといいな、と思いながらお祈りしてるんです。




 


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