いいもの

2015.06.05 (Fri)
中学校の修学旅行のときのことです。
行き先は京都・奈良方面でした。ああ、それと大阪城にも行きましたね。
その2日目が、京都でのグループ別の自由行動だったんです。
私は女子だけ4人のグループになってて、
どっちかというと大人しい子だけの班でした。
だからというか、立てた行程の計画もかなりシブ目のもので、
「詩仙堂」などを含んでいたんですよ。
ああ、こう言えばどっちの方面に行ったかわかりますね。
メンバーの中でも特にM華という子が、歴史関係が好きで、
ほとんどその子の意見を取り入れて決まったんです。
ええ、京都は初めて訪問したんですが、やはり素晴らしかったです。

今でもちょくちょく訪れています。あの当時は、
それほど神社仏閣に興味があったわけじゃなかったんですが、
それも大好きになりました。ええ、このときの修学旅行がきっかけで、
神仏ってあるもんだなって実感するようになったんです。
M華の寺社好きはかなり徹底していて、
計画を立てた有名寺院以外にも、道の途中に神社などがあれば、
全部中に入ってお参りしていました。
有名でもなんでもない名の知れないところでもです。
まあ、そういうところは拝観料をとられることはなかったんですが、
すべて歩きだったので、足が疲れましたよ。
それで、ある神社に入ったときのことです。

そこもやはり何の変哲もないただの神社で、しかも隣に保育園があり、
子どもたちの声が聞こえる、生活感にあふれたところだったんです。
おそらく地元の人しかお参りしてなかったんじゃないかと思います。
その小さな社殿の前で、4人並んでお賽銭を投げ入れ、
手を叩いて拝んだ後のことです。
空のほうでキューンという音が聞こえたような気がしました。
他の子らにも聞こえたみたいで、皆がいっせいに上を見上げたんです。
「何か落ちてくる」M華がそう言いましたが、
私には何も見えませんでした。その直後、私が持っていたトートバックが、
急に重くなったんです。旅行カバンはホテルに置きっぱなしにして、
みんなお土産を入れる袋しか持ってませんでした。

「○○のバックに空から落ちてきたものが入ったよ」M華がそう言ったので、
あわてて中を見たんですが、中にはここまでで買った、
ストラップなどの小さいお土産類しかありませんでした。
「えー、何もないよ。おどかさないでよ」と答えたんですが、
M華は「さっき落ちてくる音がしたのを聞いて、みんな上見てたじゃない。
 それにバッグに入ったのは悪いものじゃない、いいものだよ」
自信たっぷりにこう言いました。そのときには、
バッグの重さはもう感じなくなってました。その後、私たちは無事に行程を終え、
電車でホテルのある地区まで戻ったんです。その夜のことです。
私は同じクラスのK美という子と相部屋でした。当時から、
大部屋で枕投げをするなんて旅行は少なくなって、ホテル泊が増えてきてました。

そのほうが旅行社もプランが立てやすいし、先生方も管理が楽なんだそうです。
K美とは親しかったんですが、さすがに2人だと大騒ぎもできず、
10時半の消灯からほどなくして2人とも寝入ってしまいました。
それで、夜中に・・・隣のベッドで寝ていたK美が私を揺り起こし、
目を開けると電気がついてたんです。
「どうしたの?」と聞くと、K美は、
「さっきトイレに起きたとき、カサカサ音がするんでそっちを見たら、
 ○○ちゃんのバッグから、絣の着物を着た坊主頭の男の子が上半身を出してた」
こんなことを言いました。昼、自由行動に持っていたバッグは、
部屋のクローゼットの前に立てかけてあったんですが、
買ったお土産が詰まっていて、もちろん子どもが入れる大きさなんてありません。

ええ、M華が「何か入ったよ」って言ったバッグです。
別のグループだったので、そのことをK美は知らないはずなので、
私も怖くなってきました。でも、勇気を出して中を確かめてみましたが、
男の子はもちろん、変な物は入っていませんでした。
どうせ先生方に言っても信じてもらえないだろうと思い、
「夢だと思うよ」とK美をなだめ、
バッグはクローゼットの奥にしまってまた寝たんです。
その後は朝まで・・・というか、修学旅行が終わるまで、
おかしなことはありませんでした。
楽しかった旅行ですが、家に戻ると気持ちが沈みました。そのころ家は、
やっていた商売の経営状態がよくなくて、雰囲気が最悪だったんです。

いつも揉めている両親の間に入って、
私とおばあちゃんと妹はほとほと疲れ切っていたんですよ。
家に入ると、おばあちゃんが待っていて、
「旅行は楽しかったかい。お前の荷物が届いてるよ」って言いました。
お土産類はまとめて、向こうで家に送ってあったんです。
それで、まずおばあちゃんにお土産を渡そうと箱の一つを開けました。
西陣織の巾着を買ったんですが、包装はそのままだったのに、
中が空だったんです。「えーっ!?」
それで、妹や両親へのお土産も開けてみたんですが、
どれも中には何も入っていなかったんです。八橋の大きな箱までです。
「えー、嘘、こんなのありえない!」

私は大騒ぎしましたが、おばあちゃんは私が投げ出したバッグの中から、
何かを大事そうにつかみ出すような仕草をしました。
そして「おやおや、これはこれは。いいものをもらってきたねえ」
そう言って、大事そうに家の神棚に捧げたんです。
「あ、M華と同じようなことを言ってる」と思いましたが、
おばあちゃんの手の中にも、神棚にも、私には何も見えませんでした。
おばあちゃんは「朝夕拝むのをかかさないようにしないと」と言って、
それから、私もいっしょに座らせて神棚に手を合わせてましたが、
私はしばらく、お土産がすべて消えてしまったことが不満でした。
でもそれから、家の商売のほうが上手く回転するようになり、
両親が揉めることもなくなって、私のお小遣いも増えたんです。

おばあちゃんは3年前に他界しましたが、
私は今でも、神棚にあるはずの何か「よいもの」に対して、
毎日かかさずお参りしています。
でも、どうして、おばあちゃんやM華に見えて、
K美には男子の姿で現れたのが、私にだけ見えないのか、
そこがちょっぴり悔しい気がするんですよ。







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