古銭

2015.06.06 (Sat)
大学の軽音楽部に入っています。それで、先週の土日に合宿があったんです。
部員は男女ともにいるんですが、今回は私が所属してる、
女子だけ5人のバンドの強化合宿だったんです。
場所は、大学が所有している海辺の合宿所でした。
廃校になった小学校を改造したもので、その音楽室で練習をしてたんです。
いつもなら運動部のどっかが来てたりするんですが、
その週は私たちが貸切の状態でした。他には管理人しているおばさんが数人。
ええ、食事を作ってくれたりするんですが、宿泊者がいるときだけ、
地元の人たちがパートでやってくださってるんです。
宿泊は、教室だった部屋に3段ベッドがいくつも運び込まれたところです。
ああ、長くなりそうなので、かいつまんでお話します。

金・土と2泊したんですが、土曜の夜は他のバンドの人4人が激励に来てくれて、
お酒も飲んだんです。そのうち3人がいっしょに泊まっていきました。
それで、日曜の朝のことです。その日は、コンサートでやる予定の5曲を通しで練習し、
11時過ぎには合宿所を出る予定でした。
私は3段ベッドの真ん中に寝ていたんですが、重い頭を抱えて起きると、
向かいのベッドの下段に座って髪をとかしていたA綾という子が、
私の顔を指さして「いやははは、ちょっと何それ」って笑い出したんです。
私が「何か変?」と聞くと、「おでこにコインがはりついてるよ。
 めり込んでる感じ」こんなことを言うんです。
「え?」さわってもみたら、確かに額の真ん中に固い感触があり、はがそうとしたら、
指の間をすり抜けて床に落ち、ベッドの下に入ってっちゃったんです。

「えー、誰のイタズラ?」そう言って、ベッドの下を覗き込んでも、
奥に入ったのか暗くて見えませんでした。
「さっきのコインね、今のお金じゃなかったよ。昔の、古銭ってやつじゃないかな」
A綾が言いました。鏡で見ると、おでこにまあるく跡がついてたので、
強く押しつけられたのかもしれません。でも、痛くはなかったし、
指で揉んでいるうちに跡は消えたんです。昨夜きた3人は朝一の電車で帰っていき、
バンドのメンバーは朝食を取りに食堂へ入りました。
なじみになっていたおばさんが3人来てくれてたんですが、
そのうちの一人が、おかずの皿を取りにいった私を見て顔を曇らせたんです。
「そのおでこ、もしかして一文銭じゃなかった」こう小声で聞いてきました。
そして私の返事も待たず、「誰にも言わないで、後でまかないの控室に来てね」

何だろうといぶかりながら、食事の後に顔を出すと、
おばさんがエプロン姿のまま片付けを抜けてきてくれました。
そこで、信じられない話を聞かされたんです。
「あなた、ここの地方の出身?」 「いえ、近県から来てます」
「じゃあ、おミサキさんって言っても知らないかしら」
「・・・それ、7人みさきって話のことでしょうか。もしかして」
「ああ、知ってるの」 「うちの県にも話はあります」
「あれ、本当にあるって言ったらどうする?」
「はは、まさか。聞き分けのよくない子供をおどすためのものだと思ってました」
「ここの県ではね、おミサキさんは一人1文ずつお金を持っているの。
 三途の川の渡し賃は6文だから、7人合わせて7文で、一人渡れるでしょ」

「まあ、そういうことになりますね」
「だけど、7人の中で一人が抜け出すには代わりを見つけなくちゃならない。
 それで、代わりの人の額に一文をはりつけていくって言われてる」
「はは、まさか、これ7人みさきが来てやったっていうんですか?」
「いいえ、そうじゃなく、古銭をはりつけたのは生きた人間・・・
 一文銭は本当の形はないから、すぐに消えてしまったでしょう」
「いえ、ベッドの下に落ちてってしまって」
「探してもないと思うねえ。あなた、誰かに恨まれてる心あたりはない?
 その人がやったんだよ」ここまで聞いてはっとしました。
バンドのメンバーはそんなことをするはずもないけど、
昨夜、激励に来たメンバーには私を恨んでいる人がいました。

その人の彼を私がとったと思ってるんです。
・・・そうとられてもしかたのない事実はありました。
「でも、ありがたいですけど私には信じられません。現代にそんなことがあるなんて」
「そう思うでしょうけど、ミサキになるまでの期間は7日だから、
 来週の日曜日まで。その間に様々な兆候があると言われてるの。
 もし、私の話が本当だと思ったら、ここの岬の根っこにあるお堂に行きなさい。
 昔から念仏講が行われてたとこ。おミサキ様も祀ってある」
こんな話になりまして・・・もちろん信じてはいなかったんですが、でも・・・
合同コンサートは火曜でしたが、私の出来はあんまりよくありませんでした。
そして終わった後に高熱が出たんです。病院へ行き、
インフルエンザの検査をされましたが陰性でした。

熱は解熱剤を飲むと下がったんですが、そのかわり、
消えたと思っていた額の古銭の跡がまた、赤く浮き出てきたんです。
これはどうやっても消えず、外科、皮膚科と回されましたが、
先生方も首をひねっていました。そしてその日から、夢を見るようになったんです。
毎晩ほとんど同じ内容でした。私が板敷の間に座っていると、
修験者?の恰好をした人が土間から土足で入上がってきます。
みな深編み笠をかぶっていて顔はわからないんですが、白装束の身体は、
女の人や子どもも交じっているように見えました。
笠の上にはどの人も黒々と「七人同行」と書かれてました。
7人は、抵抗できないでいる私の身体を板敷の上に押さえつけ、
顔を上に向けて固定し、一人が額に固いものを押しつけてくるんです。

あの一文銭だと思いました。それで、目が覚めると額の真ん中が、
燃えるように熱くなっているんです。鏡を見ると、古銭の跡が真っ赤に浮き出ていて。
こうなると、あの親切なおばさんの話を信じざるをえませんでした。
金曜の午後、体調が最悪でしたので、お金がかかりましたが、
タクシーで合宿所のある町の、岬のお堂を訪れたんです。
「阿弥陀堂」という顕額がかかっていました。
堂守りと名乗るおじいさんが別棟から出てきて、
事情を話すと古めかしい鍵を渡され、一人でお堂の奥の間に籠るように言われました。
それ以上は質問に答えてくれなかったです。ただ目をつむって座っていろと。
堂内は蜘蛛の巣があちこちにかかり、明り取り程度のすき間しかなく薄暗かったです。
昔は阿弥陀如来像があったそうですが、今はただのがらんとした空間でした。

ええ、夢で見た板敷の間に似ているといえば似ていました。
そこで一人、目をつむって正座していました。すると、
身体の周りで密かな足音が聞こえてきました。夢で見たような荒々しい形ではなく、
ごくかすかな音でした。つむっているまぶたの裏に、
さまざまなイメージが浮き上がってきました。深い海底の岩の海藻の陰にある頭蓋骨、
渓谷を流れる速い川のそばに、河原石に混じって天辺をのぞかせている小さな頭蓋骨、
広い下水道の中の金網にひっかかっている頭蓋・・・
どれも骸骨が出てくるイメージが7つくり返され、それを見ている間、
人の気配が、かさこそと私のまわりを歩き回っていました。
だんだんに額が熱くなってきました。耐えきれなくなってうつ伏せに倒れると、
板の間に何かが転がり落ちた感覚があったんです。

目を開けると、そこに古銭が落ちていました。
さわった感じも間違いなく本物の一文銭でした。
それを手のひらに乗せてお堂を出、堂守りのおじいさんに見せました。
「これで終ったわけじゃないよ。この銭を、日曜の夜までに、
 だれかの額にはらないと、おミサキさんに連れてかれることになる。
 逃れることはできんよ。あとはあんた次第だから、生きたいのならそうしなさい」
これだけ言って、おじいさんは別棟に引っ込んでしまいました。
それで・・・土曜日の昼にあれこれ情報を集めてここのことを知ったんです。
その一文銭は持ってきています。これです。
この後、私はどうすればいいんでしょうか。本当に、これを私が誰かにはらないと、
助かることはできないんでしょうか? あと1日しかないんです、お願いします。







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コメント
 珍しく、メジャーかつ凶悪なモノを持って来られましたね。「ルールに縛られている反面、強い力を持つ」という解釈がされるためか、妖怪退治ものではほぼ例外なく強敵でした。
 語り手さんもかなり切羽詰っているようですが、人間に太刀打ちできる部類の怪異ではないような・・・
| 2015.06.21 23:44 | 編集
コメントありがとうございます
内容はなんだかリングにも似たような感じになってしまいました
7人ミサキも正体不明の伝承ですが
必ずしも海に関係したものでもないようです
bigbossman | 2015.06.22 19:45 | 編集
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