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泥の味

2015.06.09 (Tue)
2週間前、俺の高校時代の監督の訃報を新聞で知ったんだよ。
ああ、ラグビー部だよ。もう18年も前のことになるけどな。
享年62、死因は詳しくは書いてなかったけど、
昔の仲間に電話をかけて聞いたら事故死ってことだった。
酔っぱらって飲み屋の階段から落ちて、脳挫傷ってやつ。
これな、新聞に出たりはしないけど、死ぬまでいかなくても、
大ケガした人とかけっこう多いんだとよ。あんたらも気をつけたほうがいいぜ。
その監督は、俺らのときはまだ地方の公立高校の監督でね。
それが、県代表の常連になって、
全国大会でもそこそこの成績を残すようになり、
それで中央の有名私立高にスカウトされたんだ。

そこで何度も全国制覇してね。だからそれなりの有名人だったんだよ。
葬式にはテレビ局も来たらしいけど、俺は行けなかったんだ。
これは無理だったよ。なにしろ会場が東京だったし、
平日で俺の仕事もあったから。・・・俺らの代は弱くてね、
花園をかけた県大会の準決勝で同じ公立の高校に大差で負けたんだ。
監督にしてみれば不肖の弟子だったんだろうけど、
世話になったわけだし、俺はずっと地元にいるから、
せめて監督のご実家にご焼香にうかがわさせてもらうことにしたんだよ。
うん、監督の実家はそこの県だし、だから先祖代々の墓もこっちにあるんだ。
昔の仲間と話したときに、
御遺骨はこっちに返ってきてるって話を聞いてたから、

日曜の午前中に行ってみたんだよ。でね、そんなに混んでないのかと思ったら、
そうじゃなくて、地区の市会議員をはじめ、
体協の関係者とかたくさん人が来てたんだ。
ま、県でも有名人なわけだから、考えてみればそれも当然なんだけどな。
でね、俺は小さくなってご焼香だけさせてもらって、
たまたま来てた高校の先輩と少しだけ話して戻ったんだ。
ご焼香した感想? うーん、不幸な亡くなり方ではあったけど、
監督自身はラグビー界では功成り名遂げたわけじゃない。
監督としてはもう引退する年でもあるし、
心残りはなかったんじゃないかと思ったね。御遺影はにこやかに笑ってて、
高校のときのこわさは微塵もなかったねえ。

でね、ご実家におじゃましていたのは25分くらいだったはずだけど、
玄関を出ようとしたら、ぐちゃぐちゃの雨になってたんだよ。
困ったなと思った。俺は夏冬兼用の一張羅の喪服を着てるわけだし、
来るときは雨降ってなかったから、傘持ってきてなかったんだよ。
車で行ったんだけど、そこら住宅の込み入ったところで、
車を400mほど離れたコンビニに停めてあったんだ。
駐車場は、ご実家で聞いたとこでは、
裏手の工場の敷地を借りてたらしいんだけどな。
それで、しかたなく玄関先にあった透明ビニール傘を拝借したんだよ。
いやいや、これは盗もうと思ったわけじゃない。
これは誓ってそうじゃないよ。

コンビニまで借りて、車で家の前まで戻ってきて、
門前に停めてダッシュで返しにいく予定だったんだ。
もし近くに家の人とかがいたら、そうお願いするつもりだったけど、
たまたま誰もいなかったからね。
でね、傘をさして急ぎ足で歩いてた。したら、何だか体が軽い感じがしたんだよ。
ほら、見てのとおり俺はこんな体だからね。体重は100kg超だよ。
ラグビーやってましたって言えば、誰もがフォワードでしたかって聞くけど、
そうじゃない。右のウイングだったんだ。1秒台で走れたんだよ。
太ったのは引退後で、あれ以来運動らしい運動はしてないからね。
それが妙に軽く感じた。いや、雨はひどかったけどまっすぐ降ってたし、
風はなかったんだよな。傘が煽られたってこともない。

なんていうか、足取りの一歩一歩がふわって浮く感じがしたんだ。
それで不謹慎かもしれないけど、楽しくなって半ばキップみたいにして歩いてた。
・・・見てた人はいないだろうね、雨がひどかったから。
でね、来たときにコンビニの駐車場への近道を見つけてたから、
そっち回ってったんだよ。民家の間の草地を抜けて、
やや高くなった駐車場のアスファルトに出る。
その境目がちょっとした堰になってたんで、体が軽く感じるのをいいことに、
傘を高く掲げて、ふわっと飛び越そうとしたんだ。そしたら・・・
そのまま体が宙に浮いたんだよ。「!?」
そうだなあ・・・3m近くは上がったんじゃないか。
車高のあるUV車の屋根が見えたからね。

そりゃ驚いたよ。驚いて足をバタバタさせた。
そしたらね、傘が手から離れて、俺はうつ伏せの恰好で下に落ちたんだ。
でね、堰の増えてた水の中に思いっきり顔を突っ込んだ。
ラッキーというか、もう数cmずれてれば、
駐車場の境のコンクリに前頭部をぶつけてたかもしれないね。
傘? ああそうそう、傘はそのまま飛んでったなんてこともなくて、
ふわーっとすぐ近くに降りてきたよ。
立ち上がってみたら幸いケガはなかったけど、
一張羅の喪服は泥水だらけになってた。今クリーニングに出してるとこだよ。
いったん家に戻って、着替えてから返しにいったよ。
でねえ・・・泥に落ちたときに、妙に懐かしい気がしたんだ。

そうそう、高校のときはタックルをくらって、
顔から地面に落ちることはざらだったし、地方だと芝生の競技場は珍しいんだ。
だからね、ずっと忘れてた泥の味を思い出したっていうか。
これは監督のおかげなんだろうかって思ったね。
それで、こないだの日曜日、久々に母校の部に顔を出してみたんだよ。
差し入れにコーヒー牛乳とバナナをいっぱい買っていった。
・・・体は重いよ。軽く感じたのはあんときだけだったみたいだ。
それでよ、ジョギングを始めようかと考えてるんだ。
会社の健康診断でも、まだ30代なのにあちこちひっかってるし。
まあこんな話なんだ。怖い部分が何もなくてスマンな。
謝礼をもらったらジョギングシューズとランナーズウオッチを買うよ。






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