サイリンカ

2015.06.10 (Wed)
先週の日曜のことです。夕方家族そろってテレビを見てたら、
宅急便が届いたんです。私が出てみると、大きな段ボールでした。
母も出てきて、送り主の書いてあるところを見ると、
「あら、また鏡子からだわ。いつもいつも申しわけないねえ」と言いました。
鏡子というのは母の妹で、つまり私の叔母さんてことになります。
この人は沖縄に嫁いだんですが、いろいろあって離婚し、
それでも沖縄を離れなかったんです。それどころか、沖縄を拠点にして、
1年の半分近くは東南アジアを巡り歩いているんです。
これは仕事のせいもあります。沖縄と東京に南国雑貨の店を持ってて、
そのための商品の仕入れってことですね。母と2人がかりで、
重いダンボールを居間に運んでいくと、

妹が「鏡子おばちゃんから、やったー」と叫びました。
年に数回宅急便が届いて、そのほとんどが珍しい南の国の食べ物だったんです。
夕飯を済ませたばっかりでしたが、段ボールをテーブルにあげて開けてみると、
緩衝材のふわふわの上に、2つ折りした手紙があがっていました。
開いてみると「今回の旅はポリネシアまで足を伸ばしました。
 そこで入手した『サイリンカ』という珍しい果物です。みなさんでどうぞ」
こういう内容でした。母に渡すと、
「おや、ワープロ打ちだね。いつも手書きだったのに珍しい」こう言いました。
その間にも、妹がどんどん緩衝材をむしっていき、
中からごろんと大きな果物らしきものが出てきたんです。
そうですね、大きめのスイカくらいなんですが、楕円形でした。

ええ、キウイに似た形と言えばわかりやすいでしょうか。
色も、表面がけばだった感じもキウイっぽかったですが、
大きさがまるで違いました。そしてすごく重かったんです。
同じほどのスイカに比べれば倍以上あったと思います。
それと、持ち上げた感じがぐにょぐにょしてました。
薄い皮の下にたっぷり液体が詰まっている感触があったんです。
あとですね・・・生温かい気がしたんですよ。
前にふれあい牧場というところで、仔豚をさわらせてもらって、
持ち上げたりもしたんですが、そのお腹に触ったときと感じがそっくりでした。
私たちのやることを見ていた父が、ちょっと困惑したように
「見たことないものだけど、これ、どうやって食べるんだ?

 包丁で切ったら汁が溢れてきそうじゃないか。それに温まってるというなら、
 冷やしたほうがいいかもしれないし」こう言いました。
「そうよね、貴重なものを無駄にしてもいけないし、
 鏡子に電話して食べ方を聞いてみるね」母が答え、携帯で連絡したんです。
でも、鏡子おばさんが電源を切ってたようで、
そのときはつながらなかったんです。それで、9時ころにもう一回かけたら出ました。
そして母とこんなやりとりになりました。
「鏡子かい、なんかスゴイもの送ってもらったけど、
 食べ方がわからなくて電話したんだよ。これどこの国のもの?」
「えー、段ボール?? 送ってないけど。
 ・・・その食べ物の名前わかる? どんな形のもの?」

「カタカナでサイリンカって書いてあるよ。ごろんとしたジャンボキウイって感じ」
「ええええ!! サイリンカ? それマズイ、ぜったいマズイから」
「おいしくないの?」 「そうじゃなく、すごく危険なものなのよ。
 南国は南国の産だけど、果物でも食べ物でもなくて呪いの固まり」
「えー、そんなものがどうして、あんたじゃなく私たちに送られてきたの?」
「・・・それはわかんないけど、ほら私って、姉さんとこしか身内がいないじゃない。
 だから、じわじわとまわりから攻めてくってことを知らせたいのかも」
「はた迷惑な話ねえ。なんで怨まれることになったわけ?」
「それは・・・ちょっと言えない」 「まあいいけど、呪いの固まりってどういうこと?」
「うーんと、サイリンカってなんとなく日本語っぽいでしょ。漢字で書けるの。
 『災臨禍』って、華僑の人たちはそう書いてる」

「うわ、嫌な字」 「でしょ、今どうやって保管してる?」
「冷蔵庫の一番下の野菜庫を空にしてそこに突っ込んでるよ」
「ああ、冷やすのはいい。そのままにしてて」その日はいったんこれで終ったんです。
翌日、都内の電気店から業務用の強力な冷凍庫が届きました。
鏡子叔母さんが、注文したものです。そしてまた電話の続きです。
「ああ、姉さん。冷凍庫届いたでしょう。
 サイリンカをそれに移してカチンカチンになるまで凍らせて。
 中まで凍るには3日くらいかかるだろうけど、冷えてるならまず心配ないから」
そして3日後、昨日のことです。
「姉さん、サイリンカどうなってる?」
「お前の言ったとおりカチカチだよ。持ち上げても中が動く様子はないね」

「じゃ、夜に一家総出でやってもらうことになるね」 「どうすんのよ?」
「鉋、切れる包丁、カッター、カミソリ、ヤスリ・・・
 ああ、摩擦熱が出るからヤスリはダメね。とにかく表面から均等になるように、
 回しながら薄くうすーくみんなで削っていって。
 そしたら色が変わったとこが出てくるから、それは傷つけないように残す。
 削った皮も捨てたりしないで。一欠けも残さないよう、まとめといて」
ということで、言われたとおりにしたんです。サイリンカを盥に入れ、
表面は固く凍ってましたが、その分削りやすく、回しながら父が鉋をかけ、
残った部分を私たちがカッター等でそいでいったんです。
中は意外なことに深い群青色でした。そしてかなり内部まで彫っていくと、
鮮紅色の部分があちこちに出てきました。

そこだけを残して群青の部分をとり終えると、
中に入っていたのが何だかわかりました。
1mほどですが、内臓のような色の、太さのある蛇がとぐろを巻いて、
ネズミより大きいくらいの毛のある動物を頭から呑みこんでるとこだったんです。
その動物の顔は、蛇の口の中で見えなかったですが、
日本にはいないものみたいでした。「ごくろうさんでした、嫌なものが出てきたでしょ。
 それ、また冷凍庫に入れておいて、明日○○火葬場に持ってって。
 話は通してあるから、そこで燃やしてもらって。爆発物みたいなもんだから、
 そのまままるごと燃やすのは危険なのよ。あと、それ以外の皮と中身は、
 もう凍らせなくてもいいから、あちこちの大きな神社に行って、
 神木の杜に少しずつ撒いてきて」翌日、母がそのすべてをこなしました。

「姉さん、すべて言ったとおりにやってくれた。ああ、安心した」
「それほど手間じゃなかったけどね。でも、腑に落ちないのは、
 こんなの配達されても、あんたに電話かければ送ってないてわかるじゃない。
 どうせ礼の電話かけるんだし。もしうちに置いたままにしたいなら、
 夜中にこっそり来て、床下にでも転がしとけばまずわからないのに。
 それに、サイリンカっていう名前が書いてあったのも、考えてみれば変じゃない」
「うーん、警告なんだと思う、私に対する」
「じゃあ、あんたに直接警告したらいいじゃない」
「たぶんそうすると、送り主が正体がばれると思ってるんじゃないかな。
 まあ、私はもう想像ついてるけど」 「これで済んだのかい」
「また何かくるかも。とにかくしばらく気をつけてて」 こんな話になったんですよ。


 



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