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ネット神社(下)

2015.06.11 (Thu)
でも、間違いなく生きているものでした。
自分でくにゃくにゃ上下に動いてましたから。
社長は、事もなげにそれを顔の前に持っていくと、
大きく口を開けてぱくっと飲み込んでしまったんです。
N彩は気がついていないようでした。それで社長は、私のほうを向くと、
口をくちゃくちゃ動かしながら、唇の前に指をあてて、
「しーっ」というポーズをしたんです。後になってN彩がいないときに、
社長が近寄ってきて「さっきの虫、見えたんだよね。あれ、まが虫っていうの。
 Nちゃんには内緒。でも、あれが見えたというのは、
 あなたもかなりの力があるのね。上を手伝ってもらうことになるかもしれない。
 上のお給料はここの3倍以上よ」 こんなことを言われました。

翌日から、N彩の姿はなく、社長から上の階の仕事に回ったと知らされました。
その後の1週間は仕事を一人でこなして、てんてこまいの忙しさでした。
翌週から新しいバイトの子がきたんですけど。
ですから、N彩のことを考えてるヒマもなかったんです。
それに、時間帯が違うとしても同じビルで働いてるわけだし、
そのうち会えるだろうって・・・
4週間後のことです。家にいた私の携帯にメールが入ったんですが、
こんな内容でした。
「今のバイト ヤバいからすぐやめなよ 心が壊れて虫だらけになっちゃう
 わたしはもうダメ ボロボロ 実家に復讐してもらう
 今日の昼12時にネット神社のビルの前に来て N彩」

10分もたたずに返信したんですがそのときには、
アドレスを変えたのか通じなくなってたんです。
気になったので翌日、12時少し前にビルの前に行きました。
特に変わった様子もないと思ったんですが・・・
しばらく待っても何も起こらず、N彩の姿も見えず、
時間が少し早いけどビルに入ろうかと思った矢先でした。
ズダーンという爆発のような音がしました。そっちを見ると、
N彩がうつ伏せに倒れていました。着ていたTシャツが下着とともに脱げかかり、
両手がありえない方向に曲がって、奇妙な踊りを踊っているようでした。
じわじわと、うつ伏せのN彩の顔の下から、
真っ赤な血がアスファルトに広がり始めました。

私は動くこともできず、呆然と見ているだけでしたが、
他の通行人から叫び声があがり、私もそっちに駆けよっていったんです。
N彩はピクリとも動きませんでしたが、そのかわりというか・・・
体の下から、前に見たあの白い虫が何匹も何匹も這い出してきたんです。
それらは、おびただしく流れる血に染まることもなく、
かなりの速さで道路のあちこちに散らばっていきました。
・・・たぶん集まってきた野次馬には見えなかったんだと思います。
誰も騒ぐ人はいませんでした。やがて救急車のサイレンの音が聞こえてきて・・・
N彩が運び出されたときには1時を回っていました。
救急隊の人が「どなたか、この方のお知り合いはいませんか?」と叫んだとき、
名乗り出ることができなかったんです・・・何もかもが怖くて。

仕事の開始時間が過ぎていることに気がついて、ビルに向かったんですが、
入り口が固く閉ざされていて、そのときは警察が入っていくこともなかったんです。
N彩は、隣のもっと高いビルの屋上から飛び降りたようでした。
半泣きになって震えている私の携帯にメールが入りました。
見るとネット神社からで、
「当神社は当分の間閉鎖いたします これまでお勤めご苦労様でした
 報酬は6か月分を指定口座に振り込みいたします」
これで、私とネット神社の関係はいっさい切れることになりました。
向こうから連絡はありませんし、こちらからも連絡していません。
ネットのホームページも翌日には削除されていたんです。
N彩の飛び降りのことは新聞でもテレビでも報道はありませんでした。

でも、あれで生きているはずはありません。
きっと誰か、ネット神社の関係者が手を回したんじゃないでしょうか。
これで話はほとんど終わりですが、いくつか後日談があります。
一つは社長と会ったことです。というか、姿を見たと言えばいいか。
話はしませんでしたから。N彩のことがあってから、
私はあちこちの神社にお参りするようになりました。
もちろん本物の神社です。広い参道で神気を受けていると、
体に溜まった悪いものが抜けていくような気がしました。
そのうちの一つの御社で、遠くから社長の姿を見かけたんです。
黒の洋装でしたが、間違いなく社長でした。
でも歩き方が、老婆のように腰が曲がってよろよろしていました。

杖もついていて、数十mを歩くのに何分もかかるありさまだったんです。
近くまで寄っていったんですが、あの真っ白だった社長の顔が、
しわだらけになり、色も干物のように変わっていて・・・
とても話ができる状態じゃなかったんです。
社長は杖にすがりつくようにして、社務所に入っていきました。
もう一つ、これはN彩の飛び降りから1年後のことです。
私のアパートに、一通の封書が来たんです。
それには達筆の筆で書かれた二つ折りの半紙が入っていました。
そこにただ一行、こう書かれていたんです。
「あの神社の関係者は残らず滅びた 貴女だけは許す」
消印は、N彩の実家のある四国の某地になっていました。

関連記事 『ネット神社(上)』


 




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コメント
 この話の中では、血筋それ自体がかなり重視されている感じですね。管理人さんの作品としてはちょっと珍しい気もします。
 そしてN彩さんの実家、怒らせてはいけない「筋」だったんですね。あれだけ力がありそうに見えた社長を、恐らく死ぬより苦しい目に・・・そりゃ「四国の拝み屋出身」なんて、伝奇ものなら主人公かライバル級が持つ設定だもんなあw
| 2015.06.21 23:55 | 編集
コメントありがとうございます
呪い代行の話はこれが2つ目ですが
世の中には怖い商売をやっている人がいるもんだなあと
いつも思います
bigbossman | 2015.06.22 19:47 | 編集
はじめておじゃましました。

読み終えて、鳥肌が立ちました。

虫のくだりもですが、四国からの手紙に一番ぞっとしました。

呪いは返ってきます、、、。

どうぞご無事で、、、。
やさい | 2018.10.05 09:46 | 編集
コメントありがとうございます
ネット神社の社長はちょっとバイトに雇った相手が悪かったみたいです
縁切り神社の絵馬なんかを見ると怖いですよ
身勝手な悪意というのはこの世にたくさんあります
bigbossman | 2018.10.05 20:21 | 編集
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