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酒につられる

2015.06.15 (Mon)
* 昨日2chに書いたものに加筆しました。

こないだ転勤で引っ越したんだよ。
そこは風呂トイレつきの会社で借りてる一間のアパートなんだけど、
どうも嫌な感じがしたんだ。
まず一日中日がささないし、壁がじとーっと湿ってる。
これは立地のせいだからしょうがないのかもしれんけどな。
団地の丘の陰で近くに沼もあるし。
ただ、俺は霊感とかないから上手く言えないけど人の気配を感じるんだよ。
いっつも見られてる感じがするっていうか。
まあ気のせいかとも思ったけど、配置換えの激しい職種だから転勤は何度もしてるし、
いろんなとこに住んだけど、こういう感じは初めてだったんだよ。
それでありんまり気になるんで、天井裏とかも押入れからのぞいてみたんだ。

ほら、天井裏に実際に浮浪者が住んでたなんて話もテレビであったから。
・・・さすがにそれはなかったけどね。
蜘蛛の巣とほこりだらけで人の気配なんてまるでなし。
そもそも安普請のぺらぺらの天井板で、あれだと人がのれば破れちまう。
実害は別にないんだ。髪の毛が落ちてるとか物の位置が変わってるとか、
そういう怪談めいたことはなにもないけど、やっぱ視線を感じる。
それも、俺が部屋の中で向きを変えれば、
そいつも動いて俺の俺の背後に回るような気がしたんだ。
うーん、艶っぽい感じはなかったなあ。
だからもしいるとしたら男の霊じゃないかと思ってたんだよ。
でよ、行った先の支社にそういうことに詳しい女の人がいたんだ。

50過ぎのオバハンなんだけど、歓迎の飲み会の2次会から全開で守護霊とか、
生霊とか、新興宗教の話をしてた人だったんで、
昼休みに冗談みたいな感じで相談してみた。
したら、少し考え込んでから「あんたのアパートは今年新しく借りたもんだから
 詳しいことはわかんないけど、一つ試してみる方法はある」って。
それで「どうやるんです?」聞いたら、瓶ビールを買えって言う。
これには困惑したね。霊とビールと何が関係あるんだろうと思うじゃない。
今や瓶ビールは贅沢品っていうか、俺はふだん発泡酒しか飲んでない。
で、最近気温が高いんだけど、会社から部屋に戻ったらまず熱い風呂に入れって。
その後にキンキンに冷やしたビールを瓶ごとぐいってあおってみな、
そうすれば何かわかるかもしれない。

こんなアドバイスをされたんだよ。わけわからんだろ。
でもよ、ずっと気にして生活してるより原因がわかったほうがいいと思ったから、
試してみたんだよ外回りで汗ぐっしょりのまま会社に戻らず部屋に直行した。
その日は水分を控えてたから、喉がからからだったけど、
エアコンはつけず、風呂にすぐ熱めの湯を入れて素っ裸になった。
俺は長風呂あんまり好きじゃないんだけど、
そんときは頑張って30分くらい入ったんだよ。
おそらく脱水気味になってたんじゃないか、あがると頭がくらくらした。
パンツ一丁で布団に座り、冷蔵庫からビール出してプシッと栓を抜き、
そのまま口をつけて一気にあおったんだ。
したら直後に耳元で「くっそ、いいなー」という声がしたんだよ。

確かに聞いた。なんとなく想像してたとおりのオッサンっぽい男の声だった。
でよ、その場で会社のオバハンに電話かけたら、「やっぱりいたじゃない
 たいしたもんじゃなさそうだから、安い霊能者紹介したげる」って言われたんだよ
でな、次の日曜の夜8時に霊能者がやってきたんだけど、
これが袈裟着たり衣冠束帯姿とかでもなく、
安っぽいクールビズのシャツを着たジイサンで、一目見た印象が貧乏くさい。
ジイサンは会うといきなり「わたしはね、力弱いですから、
 霊と対話などはできません」って切り出した。じゃあどうするのかと思ったら、
「そうですね、暑い季節ですから冷酒がいいでしょうね。
 ビールだと気が抜けちゃうんで。高い冷酒を買って下さい。
 4合瓶で5000円くらいのやつを5本。冷えたの出してもらって。」

これって俺にはえらい出費だったけど、そう言ったらジイサンは、
「必要経費ですからあきらめてください。そのかわり謝礼は安くしときますから」
まあ、しょうがなく買ってきた。で、どうするのかと思ったら、
ジイサンは持ってきたバッグから、小さい木の枡、一号枡っていうんかな。
あれをいくつも取り出し、部屋のドアを開けて外のコンクリの通路に一つ置いて、
ほんのちょっとだけ冷酒を注いだんだ。
それから2人で外に出た。「近くに公園とかありますか」って聞いてきた。
うん、住宅地だから小公園はあちこちにあるんだよ。
「すぐそこにもありますよ」って答えたら、「じゃあそこへ」そう言って、
20m置きくらいに冷酒を枡に1cmくらい注いだやつを、
民家の塀の上とか、バス停のベンチ下とかに置いてった。

そこの公園までは歩いて5分ほどだよ。
まだ9時前だけど誰も人影はなかった。そのベンチに座って、
今度は少し大きめの枡に、3人分冷酒をなみなみと注いだんだ。
「これ、どんな意味があるんですか?」こう聞いたら、
「ここまでの話でね、酒好きの霊みたいだから、部屋からここに呼ぼうと思いまして」
「どうするんです?」 「いや、あなたとわたしで、静かに飲んでればいいんですよ」
ってことで、その貧相なジイサンと差し向かいで、
間に3つ目の枡を置いて、ベンチに座って飲んでたんだよ。
いや、警察が回ってきたりしたらヤバかったんじゃないかな。
深夜じゃないけど不審尋問された可能性はあるね。
でね、話題もないから、俺のほうからジイサンにお祓いとかのことを聞こうとした。

したらジイサンは「その話題はやめましょ。霊が警戒するかもしれない」
しょうがなく黙って飲んでた。ジイサンが、
「お酒は出してもらったんで、わたしがおつまみを提供しましょう」
そう言って、コンビニのサキイカの袋を出してきた。
そうだなあ、そうやって小1時間も飲んでたかな。
話すことがないし、暑かったんで酒は進んだよ。
最初の1本はすぐになくなり、2本目の半分にかかったあたりで、
「ああ、こられましたね」ジイサンが真ん中の枡を覗き込んで言った。
俺も見ると、枡の酒が少し減って、目のようなもんが浮かんでたんだ。
俺の目じゃないよ。あんなに濁ってない。ジイサンはバッグからサランラップを出すと、
手早く切り取って枡にフタをし、その上から御札を貼りつけたんだよ。

まあこんな具合で、俺の部屋からは気配は消えた。
結果としてはジイサンは上手くやったってことになるな。
謝礼? ああそれは3万だった。
高いっちゃ高いよな。実働は2時間ほどだし、
何やってたかっていうと、公園で俺と酒飲んでただけだから。
ああ酒といえば、残った冷酒は、「これ、この方の供養に使いますんで」
そう言ってジイサンが持ってってしまったよ。







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