FC2ブログ

2015.06.17 (Wed)
去年の秋のことです。1つ年下の彼とドライブに行ったんです。
紅葉を見に。はい、彼は車好きなんですよ。
乗ってるのはランエボといういかつい車です。
私は免許持ってないし、彼とつき合うようになるまで、
あんまり車のことは関心なかったんですけど、
彼と話を合わせてるうちに、だんだん覚えてきて。
うーん、彼は車通りの少ないとこではスピードは出しますけど、
街中で危険な運転はしないですよ。それでその日、
日曜でしたけど、午前中4時間ほどかけて紅葉の見られる山の中まで入って、
道の駅かどこかでお弁当を食べて帰ってくるというプランだったんです。
ええ、お弁当は私が作ったんです。

2時間ほど高速を走り、その後、山の中の道に降りました。
10月の終わりで、紅葉は真っ盛りでした。
彼がアンビエントが好きなんです。これ、環境音楽って意味です。
静かなボーカルなしの曲をオーディオでかけてて、
それが赤や黄色に染まった山の景色とすごくマッチして、
うっとりするような気持でした。
下の道の降りてからは、走っている車は少なかったですね。
行楽日和だったんですけど、そこらは有名な観光地ではなかったんです。
「ちょっと山に入ってみようか」彼がそう言って、
県道から外れて、上りになった脇道に入っていきました。
「えー、迷うんじゃない。さっきからナビがさまよってるわよ」

そこの道に入ってから、ナビの表示が乱れてというか、
道ではないところを矢印が飛んでたんです。
「大丈夫、情報のない道だろうけど舗装してるし、たぶん山の向こうへ抜けられる」
10分ほど走ると、前方にマイクロバスが見えてきました。
道幅いっぱいで、対向車が来たらすれ違えるかどうかわからないくらいでした。
その後ろについたんですが、これがノロノロ運転で。
かといって引き返すわけにもいかず、彼が少しいらいらしてきたところで、
バスは右手の道にそれていきました。
「こんなとこにバスが来るなんて、何か見るものでもあるのかしら」
「うーん、わかんないな」その頃には道は少しずつ下りになっていて、
前方にさっき通ってた県道が見えてきたんですが。

その合流する地点の手前に、長い石段が見えたんです。
「ここ、山に登って行けるみたいだな。上になんかあるかもしれない。
 車停められそうだから、ちょっと行ってみよう。
 いいとこがあればそこでお昼食べよう」
彼がそう言って車を停め、お弁当の入ったバスケットを持ってくれて、
2人で登っていったんです。入り口の足元に縄が落ちていました。
そこに「融」と一文字だけ書かれた白い木札がついてたんです。
「あれここ、もしかして立ち入り禁止とかじゃないかな。
 この縄、張ってあったのが切れたんじゃない」
「うーん、でも禁止とは書いてないし。もし人がいて何か言われたら戻ろう」
紅葉がきれいでしたし、特別な観光地でないというのは気になりませんでした。

彼とはつき合い始めて半年にもなりませんでしたから、
2人きりでいられることのほうが嬉しかったんです。
石段の長さはけっこうありましたけど、上まで5分かからなかったと思います。
だんだんに脇の木々が少なくなっていって、
やがて平らな所に出ましたが、下が芝生の広場になっていました。
そこの中央にかなりの大きさの塔、仏塔っていうんだと思います。
中に空洞があって、3mほどの仏像が収められていましたから。
何という仏様かはわかりませんでした。すみません、詳しくないんです。
塔の後方に、さっきのマイクロバスが停まっていました。
そして、高齢者の方々が回りにいました。
そうですね、全部で10数人くらいでしょうか。

みな白い着物を着ていて、襟に「融 講」という文字が黑く入ってましたので、
何かの宗教団体かもしれないって思いました。低くですが、
「お前百まで、わしゃ九十九まで~」という民謡のような音楽が聞こえました。
高齢者の人たちはみなご夫婦のようで、2人ずつ寄り添うようにしていましたが、
車イスの方や、ストレッチャーに乗ったお年寄りも何人かいたんです。
ええ、そういう人たちだけでバスに乗り降りはできないですよね。
上下黒のトレーナーを着た介護の人たちも10人ほどいました。
みな体格のいい30代くらいの女の人でした。
私と彼が近寄って行くと、その介護の人のうちの一人がこちらに気づいて、
走り寄りながら「すみませーん、ここ私有地ですから。
 申しわけないですがお帰りくださーい」こう叫びました。

彼が「ああ、そうですか。すみません、公園か何かかと思ったもんで」
そう答えて軽く頭を下げ、2人で階段を降りたんです。
「よさそうなとこだったのに、残念だったわね」
「・・・何か変だったよな。気がついた?
 お年寄りの人たちはかなり重病の人もいたみたいなのに、
 こんなとこで何をするんだろう」
「うーん、どっかの介護施設の遠足とか」
「でも、気がつかなかった? お年寄りの人たち、どの人も全員が目を閉じて、
 夫婦で手を握って、涙をだらだら流してた・・・」
「・・・襟に融って文字が入ってたよね。何かの宗教の儀式とかするんじゃない?」
「気になるんだよな。さっきのバスが分かれてった道、引き返して登ってみないか」

「えー、やめようよ。今度こそ怒られるよ。
 それよりどっかお弁当食べられるとこ見つけよ」
「女の人しかいなかったじゃない。それにバスじゃこの車、追いかけてこないだろ」
こんな話になって、ターンして道を引き返し、バスの分かれ道まで戻りました。
マイクロバスの幅しかない道でした。山の高さを考えれば、
数分で上に出るかと思いましたが、途中で下りの分かれ道があり、
下のほうに木に囲まれた白塗りのコンクリの建物が見えたんです。
「あそこ見て、何かわからなかったら戻ろう」彼はそう言って車を乗り入れました。
建物は平屋で横長でした。わりと新しいものに見えました。
車を停めて彼が外に出、サッシ戸のノブを動かしたら開いたんです。
私も外に出て、彼の後ろから入ってみました。

中には、お堂のようなのがいくつも並んでいました。
ほら、神社の脇にある摂社っていうんですか、あの1m四方くらいのお堂、
あれがずらずらっと20ほど、建物の中にあったんです。
観音開きの扉はどれも閉まっていて、彼が入り口近くのを開けてみました。
それも開いたんです。中には・・・そのときは土でできているのかと思いました。
夫婦人形というのか、10cmくらいの人形が数十体詰め込まれていました。
おじいさんとおばあさんが並び立ったのが1セットで、それがいくつも。
「なんだこれ」彼がほっとしたように、「売り物でもないだろうし、
 やっぱ宗教関係かな。戻ろう」こう言ったとき、「ググググッ」
というような音が聞こえました。それは奥のほうのお堂からしたように思えました。
彼がそっちに歩いていったので、「やめなよ」と声をかけました。

でもかまわず彼がそのお堂の扉を開けちゃったんです。
そして呆然とした表情になり、数歩後ろへ下がりました。
中は扉の陰になって見えなかったので、「どうしたの」
私が彼のほうに駆け寄っていきました。彼が手で止めるような仕草をしましが、
見てしまったんです。中には・・・顔が二つありました。
男女のお年寄りで、目を閉じたままさも嬉しそうに、にこにこ笑ってたんですが、
頬のところがくっついていたんです。体は・・・
もう手がどこで足がどこかもわからないほどぐちゃぐちゃに溶けあってました。
「・・・融合してる」彼がつぶやいたとき、おじいさんのほうが目を開けました。
私たちを見てさらに笑みを深くし「・・・末永く・・なあ」そう言ったように聞こえました。
彼が私の手をつかんで建物の外に出、車に飛び乗ってその場を逃げ出したんです。






関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/804-e98cff55
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する