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羊歯

2015.06.21 (Sun)
羊歯の話なんです。ええ、羊歯植物が出てくるんです。
ずいぶん奇妙な内容ですが、順を追って話していきますよ。
先週の木曜のことです。会社の帰りに関連会社の連中と飲んだんですよ。
2次会で歌いすぎて、終電にタッチの差で乗り遅れちゃったんです。
これが普段なら、ビジネスホテルへの泊まりも考えるところですが、
ボーナスが出たばかりで気が大きくなってましてね、
タクシーに乗ったんです。ええ、家までは1万円近くかかりますよ。
でもねえ、わたしと同じような連中。いかにも終電逃しちまったって人が、
けっこう乗り場に並んでましたよ。
で、わたしの前に来たのが黒塗りの個人タクシー。
高級そうな車種だったんで、ラッキーと思いました。

家までリラックスしていけますからね。それで、乗り込んで行き先を告げるとすぐ、
老齢の運転手さんから「お客さんこれ、どうぞ」って、
ラッピングされた四角い小さいものを手渡されたんです。
「はああ」と思いました。ほら、前にテレビでやってたでしょう。
幸運を呼ぶ四葉のクローバーのタクシー。
それかと思って渡されたものを見たら、ちょっと違ってたんです。
4cm四方ほどの透明なビニールの中に入ってたのは、
クローバーじゃなく、植物は植物でしたが見たことのないもんだったんです。
表が緑で裏が白く、白いほうにはたくさんのぶつぶつがついてて、
ラッピングの上から触っても感触がわかりました。
「ああ、どうも。でも、これ何ですか?」

「羊歯なんです」 「羊歯?」
「わたしが山に行って採集してくるんですが、これが非常に珍しい種類で、
 1週間山に入ってても、見つからないときもあるんです」
「はああ、1週間も山に行くんですか?」
「ええまあ、じつは長年、市営交通でバスの運転をしてまして、
 そこ定年退職してから個人タクシーを始めたんです。趣味とまではいきませんが、
 気が向いたときしかやってないんです。暇をみて、羊歯植物の研究をしています」
「うーん、わたしは素人なんでよくわからないですが、これってそんなに珍しい」
「ええ、古生代からの直の生き残りと思われる種類です。
 ですから、お客さん100人につき一枚しかお渡しできません」
「古生代の・・・」

「ええ、古生代というと、恐竜出現よりも前の時代です。
 実は植物界では、この時代が羊歯にとっての天下だったんですよ。
 空を覆うような巨大な羊歯の大木が支配していたんです」「へーえ」
「まあね、今でこそ羊歯といえば、山の日陰になった場所にしか見られない。
 そう思われてる方が多いんですけど、昔は違ってたんです。
 どうですか、ロマンがあると思われませんか」
こう言われたんですが、わたしにはあまりぴんときませんでした。
「具体的にはどういうころがロマンなんでしょう?」
「・・・今は1年が365日ですが、古生代の頃は違ってました。
 1年が400日の時代があったことも、サンゴ化石の日輪からわかってます」
「日輪?」 「正式用語かわかりませんが、1日ごとの年輪みたいなもんです」

「へーえ、ということは今は地球の自転が遅くなってるってことですか?」
「お客さん、理解が早いですね。研究職か何かですか。そうです、
 潮汐による摩擦などの影響で地球の自転は確実に遅くなっています。
 それと、地磁気も異なっていました。パンゲアって知ってます?」
「えーっと、大陸移動説でしたっけ」
「さすが、お詳しい! この巨大大陸の完成が古生代末なんです。
 ここで史上最大の大量絶滅が起こり、
 当時生息していた生物種の85%が絶滅したと考えられています」
「はー」 「お客さんにお渡したものは、その頃からの固有種と考えてます」
「なるほど、どういう具合に貴重なものかわかりました。
 ラッキーです、ありがとうございました」 「いえいえ」

こんな会話になり、家に着くまで眠るどころか、かなり目がさえてしまいました。
ま、乗り物で寝ると夜中に起きてしまうことがあるんで、
それはそれでよかったんですが。料金を払って降りると、家に灯りがついてました。
珍しいこともあるな、と思いました。この時間では女房は寝てることが多いんですよ。
自分で鍵を開けて入るんです。
子ども二人が独立して、すっかり女房も怠惰になりまして。
でね、居間に入ると女房がダイニングにいて、目を丸くしてたんです。
「あれ、あんたさっき帰ってきたんじゃない?」 「んなわけがないだろう」
「え、でも、10分前くらいに、タクシーで貴重な羊歯の標本をもらったって言って、
 そこに置いて・・・」テーブルの上を指さしたんで、
見るとね、確かにあったんです。タクシーでもらったのと一緒に思えるやつが。

「そんなバカな、同じのここに持ってるぞ」そう言って、ポケットを探ったら、
これがなかったんです。不思議でしょう。
「それで、さっき帰ってきたという俺は今は何をしてるんだ!」
「風呂に入ってすぐ寝るって言って、風呂場に行ったと思ったけど」
「じゃあ見てくる」小走りに風呂場まで行ったんですが、
電気は消えてて誰も入ってる様子はありませんでした。
中も、湯を出した様子もなく、洗い場は濡れてなかったんです。
居間に戻り「お前、寝ぼけてたんだろう。
 それとも本物のボケの始まりじゃないだろうな」「だって、その植物・・・」
「俺が今さっき、たぶんポケットから出したんだ。そうしか考えられないだろ」
こんな顛末になったんですよ。

まあね、これだけなら女房が寝ぼけたってことで済むんでしょうが、
羊歯のラッピングを取り上げると、底に穴が開いてて、
ぱらぱらと種みたいなのがこぼれたんです。
胞子っていうみたいですね。さっきは穴なんてなかったよなあ、と思いながら、
ポケットを探りましたが、中にはこぼれていませんでした。
でねえ、変なことが2つ起きつつあるんです。
一つ目は、翌朝会社に行ったときです。
タイムカードを入れようとしたとき、課の女の子に言われたんです。
「あれ、さっきも押してませんでしたか?」って。
家での出来事と同じく、10分ほど前に私の姿を見たようなんです。
「黙ったまま、廊下に出ていかれたと思ったんですけど・・・」

得意先に回ったときも同じです。
「確か○○さん、ちょっと前に一回来られましたよね」って。
もう一つはですね。門から家の玄関までの間に、
奇妙な植物が芽吹いてきたってことです。ええ、一夜にしてですよ。
そもそも家の庭はすべて芝生で、それ以外の植物は植えてませんから。
それが、人の握りこぶし大のゼンマイ状のものですが、
こんな大きいのは見たことがありませんよ。
しかもすごい力を持ってます。今朝発見したんですが、
廊下の床板が割れていて、そこにも庭に生えたのと同じゼンマイが頭を出してて。
どこまで大きくなるんでしょう。家がバラバラになったりしないですよね。
あのタクシーでもらった羊歯、ほんとうにラッキーだったのかどうか・・・





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